A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 220 散歩

2015-12-27 23:24:30 | ことば
 ただ歩く。手に何ももたない。急がない。気に入った曲り角がきたら、すっと曲がる。曲り角を曲がると、道のさきの風景がくるりと変わる。くねくねとつづいてゆく細い道もあれば、おもいがけない下り坂で膝がわらいだすこともある。広い道にでると、空が遠くからゆっくりとこちらにひろがってくる。どの道も、一つ一つの道が、それぞれにちがう。
 街にかくされた、みえないあみだ籤の折り目をするするとひろげてゆくように、曲り角をいくつも曲がって、どこかへゆくためにでなく、歩くことをたのしむために街を歩く。とても簡単なことだ。とても簡単なようなのだが、そうだろうか。どこかへ何かをしにゆくことはできても、歩くことをたのしむために歩くこと。それがなかなかにできない。この世でいちばん難しいのは、いちばん簡単なこと。

長田弘「深呼吸の必要」『長田弘全詩集』みすず書房、2015年、164頁。

ずい分と「歩くことをたのしむために街を歩く」ことをしていない気がする。そもそも京都は「曲り角」が単調である。「くねくねとつづいてゆく細い道」や「おもいがけない下り坂」もあまりない。東京は散歩の街だといまになって思う。