A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 500 きえて

2017-05-18 23:37:53 | ことば
かなしくはないけれどさみしい、という感情が、ひとの感情の中で
いちばん透明に近い色をしているってことを、知っているのは機械
だけで、わたしは名前を入力しながらなんども肯定の言葉を抽出し
た。ゆめのなかで死んだひとが生きていることや、愛が実在してい
ること。都合のいい世界は破綻していつだってこわれていくことを、
音楽みたいにきいている。朝から夜までだれも迎えになどこない。
でんわがなると、そこに機械音が、きこえてくる世界で、わたしは
ともだちというものを探して歩いている。
ぼくらの星のてんさいたちは、全員生まれてくるのをやめて空の上
で料理を作っている。生きる前からしんでいるかれらはそのうち分
解されて酸素になるんだろう。70億人ふえたって、だれとも肩す
らふれあわないから、大勢が死んだニュースに涙すらこぼれない。

わたしが悪魔になったのはみんなが悪い。あかいろやあおいろの信
号しか見ていない。夜。昼。ともだちができなかった。それだけが
原因だった。ゆめのなかの幻覚に、つれさられて殺されたいと、願
うぐらいにさみしくて、かなしさだけが足りなかった。


最果タヒ『死んでしまう系のぼくらに』リトルモア、2014年、32頁。

私の存在は信号の点滅みたいに、消えてなくなるだろう。