私はハンドバックに
種苗会社から送ってもらった
花の種をいくつかいれている。
これを持って満員電車にゆられ
職場へ通う
紙袋に刷られた五色の花の色どりは
明日ひらくものを約束している。
昨日考えた私の未来は
今日、このようにみすぼらしく
丸の内の石だたみの上
人間の足の下に頭をおさえられて
自分を生かしようもなく
使い果たされているけれど、
ここに種がしまってある
ということを
私は時々サラサラとふって
たしかめてみる。
それはハンカチのように
財布のように
それよりも、もっと必要な携帯品である。
花の名は
百日草
貝細工草
アスター
松葉ぼたん
それから。
伊藤比呂美編『石垣りん詩集』岩波書店(岩波文庫)、2015年、238-240頁。
私が花の種だったら、未来に咲けたのに。
種苗会社から送ってもらった
花の種をいくつかいれている。
これを持って満員電車にゆられ
職場へ通う
紙袋に刷られた五色の花の色どりは
明日ひらくものを約束している。
昨日考えた私の未来は
今日、このようにみすぼらしく
丸の内の石だたみの上
人間の足の下に頭をおさえられて
自分を生かしようもなく
使い果たされているけれど、
ここに種がしまってある
ということを
私は時々サラサラとふって
たしかめてみる。
それはハンカチのように
財布のように
それよりも、もっと必要な携帯品である。
花の名は
百日草
貝細工草
アスター
松葉ぼたん
それから。
伊藤比呂美編『石垣りん詩集』岩波書店(岩波文庫)、2015年、238-240頁。
私が花の種だったら、未来に咲けたのに。