かなしくはないけれどさみしい、という感情が、ひとの感情の中で
いちばん透明に近い色をしているってことを、知っているのは機械
だけで、わたしは名前を入力しながらなんども肯定の言葉を抽出し
た。ゆめのなかで死んだひとが生きていることや、愛が実在してい
ること。都合のいい世界は破綻していつだってこわれていくことを、
音楽みたいにきいている。朝から夜までだれも迎えになどこない。
でんわがなると、そこに機械音が、きこえてくる世界で、わたしは
ともだちというものを探して歩いている。
ぼくらの星のてんさいたちは、全員生まれてくるのをやめて空の上
で料理を作っている。生きる前からしんでいるかれらはそのうち分
解されて酸素になるんだろう。70億人ふえたって、だれとも肩す
らふれあわないから、大勢が死んだニュースに涙すらこぼれない。
わたしが悪魔になったのはみんなが悪い。あかいろやあおいろの信
号しか見ていない。夜。昼。ともだちができなかった。それだけが
原因だった。ゆめのなかの幻覚に、つれさられて殺されたいと、願
うぐらいにさみしくて、かなしさだけが足りなかった。
最果タヒ『死んでしまう系のぼくらに』リトルモア、2014年、32頁。
私の存在は信号の点滅みたいに、消えてなくなるだろう。
いちばん透明に近い色をしているってことを、知っているのは機械
だけで、わたしは名前を入力しながらなんども肯定の言葉を抽出し
た。ゆめのなかで死んだひとが生きていることや、愛が実在してい
ること。都合のいい世界は破綻していつだってこわれていくことを、
音楽みたいにきいている。朝から夜までだれも迎えになどこない。
でんわがなると、そこに機械音が、きこえてくる世界で、わたしは
ともだちというものを探して歩いている。
ぼくらの星のてんさいたちは、全員生まれてくるのをやめて空の上
で料理を作っている。生きる前からしんでいるかれらはそのうち分
解されて酸素になるんだろう。70億人ふえたって、だれとも肩す
らふれあわないから、大勢が死んだニュースに涙すらこぼれない。
わたしが悪魔になったのはみんなが悪い。あかいろやあおいろの信
号しか見ていない。夜。昼。ともだちができなかった。それだけが
原因だった。ゆめのなかの幻覚に、つれさられて殺されたいと、願
うぐらいにさみしくて、かなしさだけが足りなかった。
最果タヒ『死んでしまう系のぼくらに』リトルモア、2014年、32頁。
私の存在は信号の点滅みたいに、消えてなくなるだろう。
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