A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記213 「風景ルルル」

2008-12-11 23:58:40 | 書物
タイトル:風景ルルル ~わたしのソトガワとのかかわり方~
編集:多田智美(Licht/ait)
アートディレクション:森本千絵(goen゜)
デザイン:酒井洋輔(goen゜)、京都goen゜、井上みすず(goen゜)
翻訳:板井由紀、水野大二郎、小林直人
英文校正:ジャスティス・ウォーレン、ダニエル・ハーフォード
写真撮影:青野千鉱(株式会社博報堂プロダクツ)、長塚秀人、木奥恵三、上野則宏
印刷製本:株式会社サンエムカラー
発行:静岡県立美術館
発行日:2008年12月5日
金額:2000円
内容:
静岡・静岡県立美術館にて開催された<風景ルルル ~わたしのソトガワとのかかわり方~>展(2008年11月3日-12月21日)の展覧会図録。

出品作家:内海聖史、小西真奈、佐々木加奈子、鈴木理策、高木紗恵子、照屋勇賢、ブライアン・アルフレッド、柳澤顕

テキスト「「風景ルルル ~わたしのソトガワとのかかわり方~」距離や地理を越えたコミュニティーを求めて」川谷承子(静岡県立美術館 学芸員)
図版
作家略歴/参考文献・出品リスト

購入日:2008年12月7日
購入店:静岡県立美術館 ミュージアムショップ
購入理由:
交通網やインターネットの発達により、地域的な障害がなくなる一方、今いる場所との繋がりを喪失していく現代にあって「風景」とはどのようなものなのか。そんな時代にあって断片的、流動的で軽く、ささやかな表現を見せる現代の作家8名の作品を「風景ルルル」と題し、「風景」を考察する展覧会。

 奇抜なタイトルながら、予想以上に充実した内容を見せる静岡県美の好展覧会。鑑賞後、気持ちもルルルとなる(恥ずかしい言葉だ‥)。冗談はさておき、8名の作家の展示がゆるやかにつながりながら、ひとつの展覧会という「風景」を形作るところがこの展覧会のすばらしいところだ。
 高木紗恵子の描く樹は照屋勇賢の切り出す木と呼応し、照屋の切り出された木の切跡は柳澤のコンピュータで描かれたような無機質な線と呼応し、鈴木理策と内海聖史の展示は1点だけでは成立しない、断片的、重層的な構造を持ち、『海と山のあいだ』ならぬ絵画、写真同士の「あいだ」を見せる。佐々木加奈子の写真と小西真奈の絵画は、画面の中にぼんやりと人物を配置する構図が近似する(個人的な偶然は前日見た<ヴィルヘルム・ハンマースホイ>展(国立西洋美術館)で多く見られた後ろ姿の人物が、小西の絵画でも頻出し、後ろ姿の絵画という系譜をまとめたい衝動に駆られた)。
 ブライアン・アルフレッドはポップなパステル調の絵画、ペーパーコラージュ、アニメーションで他作家の作品と較べると異色であり、私などはジュリアン・オピーの作品を想起してしまう。だが、今展では柳澤顕の色彩を使用せず線を際立たせたシャープな絵画とネガポジの関係に見えるだろう。そして、『There is a Light That Will Never Go Out』(2006-2008)のような静謐なノイズミュージックとともに美しい光を描き出すアニメーション作品は前半の興奮を静める効果を持ち、後半の展示へと私たちを向かわせる。

 企画展と連動した常設展示も目を見張るものがある。とくに内海聖史の作品と小松均『赤富士』(1978)のガラスケース越しに向かい合う作品の像が反射する展示は、レゾナンスを展示として視覚化した試みだろう。これは、余程意識的に作品を見る経験を持っていなければ、生まれない展示だ。一瞬間、よく作家が了承したものだと感じる。

 展覧会図録・広報物のデザインは森本千絵によるもの。この展覧会図録はかつてない構成をしており、購入後ページをめくって見える「風景」に驚きを隠せなかった。資料としては、該当ページを探すのに面倒だとは思うが、デザインとしてはかなり遊んでいて、その遊びがいいか悪いかは置いておいて、アートブックとしては評価できる。図録は全208ページあるが、実質的には半分の内容なので、デザインに凝らなければ値段も半分で買えたのかしらん‥と思うのは、遊びがない発想なのか。
 なお、出品作家ではないが、本展のプロモーション映像の音楽を坂本美雨・高木正勝が担当している。