A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

TOUCHING WORD 071

2008-12-05 23:17:13 | ことば
だから、徳についても、その他いろいろの事柄についても、いやしくも以前にも知っていたところのものである以上、魂がそれらのものを想い起すことができるのは、何も不思議なことではない。なぜなら、事物の本性というものは、すべて互いに親近なつながりをもっていて、しかも魂は、あらゆるものをすでに学んでしまっているのだから、もし人が勇気をもち、探求に倦むことがなければ、ある一つのことを想い起したこと-このことを人間たちは「学ぶ」と呼んでいるわけだが-その想起がきっかけとなって、おのずから他のすべてのものを発見するということも、充分にありうるのだ。それはつまり、探求するとか学ぶとかいうことは、じつは全体として、想起するすることにほかならないからだ。
(p.47-48 『メノン』プラトン 藤沢令夫訳、岩波書店/岩波文庫、1994.10)

「何を見ても何かを思い出す」とはヘミングウェイの本のタイトルだが、「想い」違いながら、言葉を置き換えても通じるかもしれない。私もまた何かを想い出すことを待ち望んでいる。だが、想起は、想起しようとしても起らない。何かを想い出すという現象は、好むと好まざるに関わらず、自身で決定することができない。そう、「想起」という名の現象は、私たちに突然襲ってくるものなのだ。ある「きっかけ」が「想起」を召喚するのだとしたら、その「きっかけ」もまた偶然でしかなく、私たちには倦むことなくこの探求の道を行くしかないということになる。