長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

なんで馬に乗ってるセミがこんなにかっこいいのだろう 映画『仮面ライダー対じごく大使』 ~本文~

2022年01月16日 01時52分35秒 | 特撮あたり
≪資料編は、こちら~。≫

 どもども、みなさんこんばんは! そうだいでございます~。2022年も本格始動してまいりましたが、みなさん景気よくスタートはきれていますでしょうか? 私は思った通りのばったばたで、さっそく息も絶え絶えよ……嗚呼、安寧に日々よ、いずこに!?
 ぜんぜん関係の無い話から始めてしまうのですが、フランスのジャンジャック=ベネックス監督が亡くなられましたね。享年75だとか。
 ベネックス監督といえば、なんてったって『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1986年)なわけなんですが、1990年代に高校生だった私は、「タイトルからしてエロそうだぞ!」といった芸術性のかけらもない下心から、衛星放送での深夜放送を録画してこの作品を観てしまい(よりにもよって178分の『インテグラル』のほうね!)、やらしいとかやらしくないとかいう上っ面な先入観を粉々に破壊するものすんごい男女の「業の炎」を垣間見た思いがしたもんです。おかげで、自分のそれ以降のいろんな価値観をベッコベコのぐにゃんぐにゃんにねじ曲げられた思い出の作品であるんですが、ほんと、ものすごいよ『ベティ・ブルー』は……それまで『おそ松くん』のイヤミとボーダー柄シャツくらいしかイメージの無かった自分の中のフランス感に革命が巻き起こりましたもんね。気がついたら、足がしびれるのも忘れて正座して観てました。高校生にゃ早かったか~!! ガブリエル=ヤレドの絶妙に気の抜けた音楽サントラは、私が人生で最初に買った CDアルバムでした。今でも持ってますよ。最高。

 さてさて、今回のお題は、同じ映画は映画でも、本場ヨーロッパのエスプレッソコーヒーと千葉県名物 MAXコーヒーほどに違いのある、映画『仮面ライダー対じごく大使』(1972年)のお話でございます。どっちもいいじゃん。みんな違って、みんないい!!

 んまぁ~これも、仮面ライダーシリーズの映画作品としての前作にあたる『仮面ライダー対ショッカー』と同じく、我が『長岡京エイリアン』にて8年も前にあげた記事の続きなわけなんですが、前回の記事で触れているように、いろんな事情があってバタバタした状況の中で制作された作品なのでありました。さすがに『ゴーゴー仮面ライダー』ほどじゃないにしても、ただでさえ TV本編の撮影と同時進行で忙しいのに、主役がまたいなくなっちゃうんだものねぇ。ふつうの撮影現場では考えられない異常事態が出来してしまったわけです。
 なので、この『仮面ライダー対じごく大使』は、前作以上に『仮面ライダー』放送の巻き起こした「へんしんブーム」が沸騰している中で、満を持して世に出たオリジナル映画作品であるのにもかかわらず、よくよく観てみると、前作ほどの完成度がないというか、いまひとつ盛り上がらないまま34分が過ぎてしまうような印象があるように思えます。いや、映画作品として豪華な部分はちゃんと豪華なんですけれどもね。

 今回の記事では、なぜこの『仮面ライダー対じごく大使』がそんなにパッとしないのかをじっくりと考えてみたいのですが、決して明らかな失敗作というわけでもないというところが、またこの作品の実に興味深いところなんですよね! もちろんです、こんなところでコケてしまったら、50年も続く伝統にはなりませんから! 前作からちゃんと進化している要素もありますので、そこもチェックしていきましょう。


 まずは、この作品での注目すべき「 good!」ポイントから。

〇本郷猛、というか藤岡弘(現・弘、)が、いよいよらしくなってきたぞ!
 前作でも、ショッカー骨戦闘員を気絶させておいて隠れ、戸惑う再生改造人間のみなさんを高みの見物で眺めてほくそ笑むという強者感を出していた本郷なのですが、単独主演となった今作ではさらに、手榴弾を投げて爆殺したはずの本郷の遺体を確認しようとヘリから降りてきた骨戦闘員をまた高みから見下ろして、「探し物かね!?(ギロッ)」とドスのきいた声でにらみつけるというドッキリをしかけています。こわすぎ……
 しかし、それに対して失禁もせずに「まだ生きていたのか!?」と応じる骨戦闘員の姿に、後年にはとんと見られなくなった、ただでは死なないという気概を見たような気がして涙が出ました。勇気ありすぎでしょ! なんで歳を取ると、ヒーローよりも下っ端戦闘員さんのほうに感情移入しちゃうんでしょうかね……私だけか。
 諸事情により出演シーンがちょっぴり少なめな本郷猛なのですが、主人公感がここにきてピークを迎えた感があり、スマートながらも非常に男っぽくかっこいい本郷が堪能できます。悲劇の青年でなく、巨大組織に勇気と自信を持って立ち向かう文字通りのヒーローになったわけですね。相棒の滝和也の殺陣もノリにノッているし、アクションシーンがかなり爽快!

〇なにはなくとも地獄大使! 上司にしたい悪の大幹部ナンバー1!!
 いや~、映画のタイトル通り、やっぱりこの作品の魅力の大半は彼に負うところが多いですよ。っていうか、今回の作戦もショッカー大首領さまはノーコメントかい! もうこのころには、日本支部には愛想を尽かしきっていたのかしら……
 ここで、魅惑の地獄大使に関する情報のあれこれを。

 地獄大使とは( Wikipediaより)
 ゾル大佐、死神博士に続いてショッカー日本支部長に着任したショッカー大幹部。シリーズ第1作『仮面ライダー』の敵幹部としては登場期間が最も長い。前任の2名とは異なる改造人間然とした容姿や、演じた潮健児による怪演が視聴者にインパクトを与え、人気を博した。
 第52話でショッカー南米支部へ異動した死神博士に代わり、東南アジア支部から日本に着任した。世界各地に156にも及ぶ秘密基地を作った功績を持つ。首領への忠誠心が非常に強い。古代エジプトのファラオの仮面をモチーフにしたような特異なヘルメットや凝ったコスチューム、特注のショッカーベルトを常に身にまとっている。顔の毒々しいメイクは改造手術によるものらしい。戦闘時の武器は、電磁鞭と左手のアイアンクロー(鉤爪)。
 陣頭指揮能力が高く、他の日本支部幹部よりもアジトから出て前線におもむく機会が多い。大規模基地の建設や全国規模のテロなど大がかりな作戦を得意とし、さらに従来の幹部以上に細菌兵器を用いたりと、数多くの作戦を指揮する。しかし、感情の起伏が激しく冷静さや緻密さに欠けるため、作戦の詰めが甘くなりがちな一面を持つ。
 現場で部下に気さくに激励の声をかけるなどの鷹揚さや、人質とした人間にもショッカーを代表して礼を尽くすなどの人間性も合わせ持つ。しかし、前任の死神博士とは折り合いが悪く、自分の在任中に彼が来日した際には、協力的な素振りを見せつつ互いに牽制し合っていた。
 本名はダモン。アメリカはサンフランシスコのバークランド街出身。スラムで育ち、アルカトラズ刑務所から脱獄した経歴も持つ。
 ガラガラヘビの研究家として北アメリカ西部の砂漠地帯で研究を続けていたが、その後、新興国家のゲリラ軍大佐に任命されて革命を指揮する。その地で仲間の裏切りによる銃創を負い死亡した後、ショッカーによる改造手術を経て改造人間として復活し、ショッカーに所属することとなった。
 「地獄大使」という名は、「ショッカー本部(地獄)の外交官(大使)」という意味合いで名乗るようになったものである。
 地獄大使の原型は、原作者の石ノ森章太郎が提案した敵キャラクター「ビッグゼロ」で、人間的な容姿だった先の2大幹部との差別化のために機械的な要素を強調していた。だが、実際の地獄大使の衣装はビッグゼロのシルエットを踏襲しつつも、番組プロデューサーである平山亨の案により、演じる潮の顔が見えるデザインになった。平山によれば、特徴的なデザインに負けない役者は潮しかいないと考えたという。ビッグゼロの「コンピューターの怪物」というアイデアは、石ノ森のコミカライズ版『仮面ライダー』に登場するショッカー大幹部「ビッグマシン」という形で活かされている。

日本支部長赴任期間1972年4~9月、全27作戦 ※( W)表記は1・2号ダブルライダーと交戦した改造人間
ジャガーマン、海蛇男、ゴキブリ男、ギリーラ、ドクモンド、毒トカゲ男、ミミズ男、フクロウ男、ナマズギラー(一時来日した死神博士と共同)、ハリネズラス、サイギャング、セミミンガ、カブトロング、カミキリキッド、ギリザメス、カミキリキッド(映画版)、ギラーコオロギ、エレキボタル、アブゴメス、モスキラス( W)、シオマネキング( W)、シラキュラス、バラランガ、シードラゴン1~3世、イモリゲス、ウニドグマ、ガラガランダ(本人)

 出ました、ショッカー最後の日本支部長・地獄大使! まさにショッカーと共に生き、ショッカーと共に死んだ男。
 非常にざっくりした解釈をしますと、前任の死神博士が「理論派」、「ショッカー大首領哲学の共鳴者」、「天才肌」であるのに対して、地獄大使は「武闘派」、「現場のまとめ役」、「たたき上げ」という感じになるでしょうか。ショッカー大首領が織田信長ならば、死神博士は明智光秀で地獄大使は羽柴秀吉ってことになるでしょうか。ゾル大佐は……丹羽長秀ぐらいかな。
 ある組織が拡大する時、トップの理想をちゃんとわかっている幹部も、一方で末端で実際に働く構成員の意見や不満を聞く幹部も両方ともなければ、いつか上と下との間に認識の食い違いが生じて、それがひび割れのように組織全体を崩壊させてしまうことになると思うんですよ。ですから、『仮面ライダー』における死神博士と地獄大使の対立関係は、実は本郷猛ら反乱分子の存在以上に、ショッカーの命運に重大な影響をもたらす問題だったのではないのでしょうか。ほら、やっぱりああなっちゃったし。

 孤高のカリスマ性と氷のように恐ろしい雰囲気で日本支部を統括していた死神博士に対して、地獄大使はいかにも山賊みたいなゲリラ軍の親分と言ったていで、直接の部下に当たる改造人間にはもちろん、名もなき戦闘員のみなさんに対しても非常にフランクな態度をとっています。ただし、もちろん支配せんとする一般市民や失敗した部下は一転して残虐無比、冷酷非道な仕打ちで臨みます。また、その特徴的すぎるお顔の、笑った時と真顔になった時の表情の温度差がすごすぎるんだよなぁ! まさに稀代の役者・潮健児さんの独擅場でした。後年、平成を代表する名優・大杉漣さんも地獄大使を演じましたが、正直言ってあの大杉さんでさえ、コスチューム負けしてましたもんね、シックな黒にしたのに。ハデハデ金色のあのスーツを着てても顔がいちばん目立つ役者さんって、世界広しといえどもそうそうはいないよね!?
 作戦がうまくいきそうな時には、仇敵に対してもモニター越しにおどけた敬礼をして、「グッドバイ、仮面ライダー、滝和也。ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっ!」とおふざけをする地獄大使の人間味。そして笑う時は大爆笑、しかしちゃんと周囲にいる戦闘員の表情をひとつひとつ確かめて、「おもしろいよなぁ、みんな!」と意思疎通を図る細心ぶり。ここらへんの豪快さと繊細さとが一体になったカリスマ性と危うさは、映画『アンタッチャブル』(1987年)のロバート=デニーロもかくやというリアルさがありますね。野球バットこわいよ~!!

 今回ショッカーがしょうこりもなく企てた「スーパー破壊光線作戦」は、地獄大使の日本支部長として「16番目」の作戦になります。この時点ですでにゾル大佐と死神博士の作戦失敗数を超えちゃってるんですが、大使はそんなことは気にしないし、めげる素振りもない! まだまだこのくらいで殉職するタマじゃないんだよなぁ。そのメンタルがうらやましいよ!
 この作戦は、ショッカーが秘密裏に富士山頂に建設した大要塞から放つ破壊光線で、首都・東京をはじめとした日本の主要都市を直接焼き払うという実に分かりやすいものなのですが、どうやら欲ばりな地獄大使は、それをダシににっくき本郷猛と滝和也をおびき寄せてついでに殺してしまおうという一石二鳥の妙案を思い立ちます。思い立ってしまいます……
 映画の冒頭、破壊光線の完成に気づきもしないでのんきにバイクレースに参加する2人に自分からちょっかいをかけ、わざとらしくショッカーのマークをでかでかと描いて覆面の戦闘員がふつうに運転するトラック輸送隊をこれ見よがしに走らせ、大使おんみずからもまんまる漆黒のおしゃれなクラシックカーに乗って同道し、富士山大要塞へとご案内~。これで作戦が成功したらいいんですけれども、ね。この大胆不敵さが、地獄大使の魅力であると同時に、最終的に27回もライダーに敗れまくってしまう原因でもあるんだよなぁ! ショッカー大首領もその処遇にはそうとう苦慮したことでしょう。

 案の定、今回もライダーたちの活躍によって富士山大要塞はみごとに光線砲ごと破壊され、地団太を踏んで悔しがる地獄大使でしたが、崩壊するガレキが2回も自分の頭に直撃する(ふつうの人間なら即死×2です)という切迫した状況の中でも、「おのれ仮面ライダーめ……全員退避ぃい!!」と、冷静に部下の安全確保を忘れない態度には、昨今なかなか見られない上司の鑑をみた思いがしました。こういうところもあるから、地獄大使は嫌いになれないんだよなぁ! 紀伊半島の南端にでもドラム缶の陰にでも、どこにでもついていきま~っす!!

〇動員人数こそ少なくなっているが、再生改造人間の地位が向上している。人員配置が非常に効率的!
 このポイントは良い点か良くない点か、見方によってどちらともとることができるのですが、作中に登場するショッカーの改造人間軍団が、前作よりもかなり「少数精鋭」になっています。この「少数」と「精鋭」、どっちを評価基準にするかなんだよなぁ。
 今作で登場する改造人間軍団は、新型(じゃないけど)のカミキリキッドも含めて総勢19体。そのうち、前作のひそみに倣ってか中盤の大乱戦シーンの直前に富士山の中腹に並び立って名乗りを上げた戦闘部隊は11名となっております。
 もうこのくらいで十二分に総動員なはずなんですけれども、まぁ前作が「総勢40体、名乗りシーン28体」でしたからねぇ……変身ブームのさなかで目の肥えた子ども達にとっては「あれ? このくらいなの……?」と見えちゃったかも知れません。

 ただ、ここで声を大にして言いたいのは、前作に比べて、人数が少なくなったぶん再生改造人間の見せ場や個性がかなり丁寧に描かれるようになり、実際に作戦への加わり方としても非常に堅実かつ計画的な運用がなされているという、実にショッカーらしくない「成長」が見られることなのです。これはすごい!

 再生改造人間の個性という点で言うと、本郷と滝を空中から爆撃するショッカー飛行部隊の構成員として登場するセミミンガとゴキブリ男を見逃すわけにはいきません。ところでゴキブリ男って、そんなに飛行部隊っていうほど長距離飛べるか?
 まずゴキブリ男は、その名の通り非常においしい汚れ役を演じていまして、ライダーに捕らえられショッカー大要塞の場所を詰問され苦し紛れに「富士のぉ……」と白状しかけたところを、カミキリキッドのレーザー光線を浴びて粛清されます。「富士」って言っちゃったから口封じになってないよ~!!
 その末期の、カミキリキッドとの会話が実にふるっています。

ゴキブリ男  「どうしておれがやられるんだ!?」
カミキリキッド「貴様が間抜けだからだ!!」
ゴキブリ男  「くやしい~!! ゴリゴリゴリゴリ……(爆死)」

 さすがはゴキブリ男、非常に味わい深いキャラクターです。ゴキブリ男もそうなんですが、地獄大使時代の改造人間ってスーツ造形もかなりいいですよね。予算が潤沢だったろうし。
 もう一方のセミミンガは、これこそ映像を観てもらうより他はないのですが、朝霧高原での騎馬戦闘シーンでの乗馬した姿が異常にサマになってるんですよね! なんか、肩から頭にかけてのシルエットが戦国武将の当世具足みたいでか~っこいいのなんのって!! 硬質な翅が乗馬で上下するごとにいい感じにはためくし、頭部なんか完全に兜そのものですよ。ダークブラウンな体色も抑えめで曇天の朝霧高原に絶妙にフィットしていて、大河ドラマ『葵 徳川三代』の関ヶ原合戦シーンに紛れ込んでいてもぜんぜん遜色ない風格になっています。セミよ、セミ!? セミが騎馬部隊を指揮してライダーをロープでがんじがらめにして「引きずりまわせぇい!!」って言ったり、「退けい! 退けぇえい!!」って配下に下知したりするわけですよ。妙に時代劇がかってテンションの高いセミ……これには地獄大使もにっこりでしょう。こういうノリノリで仕事をするタイプ、大使は絶対好きですよね。この騎馬アクションシーン、全体的に覆面の戦闘員やらセミやらバッタやらに乗られている馬のみなさんの表情が、「今日はヘンなお客さんが乗ってるなぁ……」というあきれ顔になっているようで非常に味わい深いです。

 他にも、今回は自分の名前をちゃんと正しく発音しているムササビードルとか、陽動作戦の指揮を執って「ライダー! おれたちショッカーの勝ちだ!!」というショッカー日本支部全職員が希求してやまなかったセリフを大喝するザンジオーなど、随所で再生改造人間が光る場面が多いのですが、いちばん注目したいのは、登場した改造人間19体中、ノーダメージで生還したのがなんと9体という奇跡の数字なのです。前作『仮面ライダー対ショッカー』では、名乗るだけで退場とかでなく実際に作戦に参加した14体はもれなく全員ダブルライダーに屠られるか、ダメージを受けて画面から消え「やっつけられたこと」になるかしていたのですが、今回は「自分の役割が済んだら速やかに撤退する」という現場ルールが徹底されており、無駄死にが激減しているのでした。これはすごい!

 登場した19体の改造人間、その動向(殉職かその可能性のあるものは×、生還は〇)
×カブトロング(1号のふつうのパンチで倒れ込み生死不明)
〇ハリネズラス(本郷猛の動きを確認して戦闘員に配置を指示し、撤退)
×ギリーラ(1号のふつうのチョップを受けて崖を転がり落ち生死不明)
×ゴキブリ男(苦しまぎれにショッカー大要塞の場所を漏らしかけたところをカミキリキッドのレーザーで粛清される)
〇ジャガーマン(ショッカー戦闘員バイク部隊の全滅を受けて撤退)
〇サイギャング(ショッカー戦闘員バイク部隊の全滅を受けて撤退)
〇セミミンガ(ショッカー戦闘員騎馬部隊の劣勢を受けて撤退)
〇ゴースター(1号との混戦の中、坂の上をウロウロしてその後は生死不明)
〇キノコモルグ(1号を包囲した後は生死不明)
〇ムササビードル(1号を包囲した後は生死不明)
×プラノドン(1号のふつうのパンチを受けて倒れ込んだ後は生死不明)
×海蛇男(1号のふつうのチョップを受けて坂を転がり落ちた後は生死不明)
×ドクモンド(1号のふつうのパンチを受けて倒れ込んだ後は生死不明)
×ザンブロンゾ(1号の「ライダーパンチ」を受けて爆死)
×毒トカゲ男(1号に投げ飛ばされ爆死)
×ミミズ男(1号に投げ飛ばされた毒トカゲ男の爆発に巻き込まれ爆死)
〇エイキング(1号の撤退により生還)
〇ザンジオー(1号の撤退により生還)
×カミキリキッド(1号の「ライダー返し」、「ライダーパンチ」、「ライダーキック」を受けて爆死)

 うむむ、これも改造人間の処遇に手厚い地獄大使のなせる業か! 効率が非常に良い人員配置です。まぁ、結局全部失敗するんですけど。
 よくよく考えてみますと、とにかく数多く再生させときゃいいだろみたいな印象のあった死神博士の作戦展開に比べて、地獄大使時代のショッカー日本支部は再生改造人間の作戦投入がかなり少なく、この『仮面ライダー対じごく大使』までの時点では、

第66話『ショッカー墓場 よみがえる怪人たち』(1972年7月)、第68話『死神博士 恐怖の正体?』(1972年7月)、映画『仮面ライダー対じごく大使』(1972年7月)

 これだけなんですよね。2件目は完全に死神博士主導の作戦だし。
 おそらく地獄大使は、過去の改造人間の大量再生産よりも、新型で強力な改造人間の開発を優先させる方針だったのではないでしょうか。それはやっぱり、自身も普段から顔以外は改造人間としての本性(果たしてそうかな?)を隠さずにいた大使なりの「改造人間の人権」と人類の革新を考えた哲学だったのでしょう。適材適所、適性最優先の合理的感覚ですよね! 雪のまだ残る富士山にエイを投入してたのは……まぁなにかの手違いでしょう。
 また、ジャガーマン以降の自分の「手塩にかけた部下」を集中的に再生している感じも、実に地獄大使らしいですよね。今回も、死神博士が派遣したナマズギラーは再生させてませんからね。逆に、そんな中でも特別に再生されたムササビードル、キノコモルグ(日本支部長不在時代に初登場)、ザンブロンゾ、エイキング(ゾル大佐時代に初登場)、ゴースター、プラノドン、ザンジオー(死神博士時代に初登場)あたりの面々が、どうして大使のお眼鏡にかなったのかが気になる~!! さすがに旧1号時代の改造人間はキツかったか……タイツじゃ寒かったろうしね。

〇天候は良くないが、朝霧高原と富士山ロケはやっぱり壮観。
 これはもう、映画作品ならではの魅力ですよね。基本的に曇り空だったのが、かえすがえすも残念! でも、朝霧高原は曇天の方が雰囲気が出ていて良かったかも。
 作戦規模はまさに映画らしく壮大で、作中でもジープの爆破やショッカー東京支部(東京都町田市のお化けマンション)の大爆発シーン、目玉となるショッカー富士山大要塞とその周辺の兵器施設の威容、人質になって磔にされた立花藤兵衛たちの遠景といったカットでミニチュア撮影が多用されるのですが、ちょっと円谷プロだったらとうてい許されないような「ほんわかした。」手作り感に満ちているのが逆にすばらしいですね。トカゲロンのその他の爆殺シーンからぜんぜん成長してないよ~! でも、そこらへんが『仮面ライダー』なんだよなぁ。ライダー変身シーンの手書きアニメエフェクトと同じ温かみがありますよね。


 字数もだいぶかさんできたのですが、それらの「 good!」に対して、決して無視できない「ビミョ~」なポイントもあるんですよね~。これらに触れないわけにはいかないのです。

●なかなか改造人間が登場しない……つかみは大切だ!
 始まって10分も経とうかというタイミングで(9分20秒後)やっとカブトロングが登場。しかも、その役割が「毒ガス室の天井の非常口のおもし」とは……なんという、しみったれた改造人間の使い方! 「選ばれし超人類」の理想って一体……
 参考にすると、前作『仮面ライダー対ショッカー』では、始まって6分45秒後にハエ男が登場し、しかも味方のはずの人間(阿野くん)が実はハエ男の擬態だったという驚きの展開もあり、仮面ライダーとの虚々実々の「変身合戦」の開幕を飾る印象的な演出となっていました。
 でも今作では、ショッカーの改造人間も人間に擬態するシーンはなく、本郷猛さえも最初は変身シーンをカットして唐突にライダーになってしまいます(変身シーンは16分45秒後までおあずけ)。これは撮影時に主人公が不在とかいうありえない事情があったからなのでしょうが、「へんしん大会」のメインプログラムなのに最大の盛り上がりどころが遅くなってしまうのは、作劇的にちょっと痛いですよね。ましてや、お客さんは大人以上に我慢のきかない子ども達が中心ですから。

 子ども達待望の再生改造人間とライダー&滝の集団戦がスタートするのも(ショッカー飛行部隊の登場)、始まって15分以上経ってから(15分55秒後)なんですもんね。これも、前作の「始まって8分35秒後」に比べると実に遅く感じます。もったいぶってるんだよなぁ~。

●立花「ショッカーの新怪人!」、本郷「ショッカーの新怪人か!」 誰かさんのせいで、新怪人じゃなくなっちゃったの……
 不運だなぁ、カミキリキッド……本作での大看板の新型改造人間のはずなのに、もう TVで出ちゃってるんだもん! 前作のギルガラス以上にごまかしのきかない見切り発車の被害者ですよね。必殺技の触角からのレーザーが、仮面ライダーシリーズでは非常に珍しい光学処理になっているくらいの強豪なはずなのですが、立花レーシングクラブを襲撃したら、百戦錬磨のおやっさんに、

カミキリ 「おれはカミキリキッドだ。おれと一緒に来い!」
立花   「来いと言われて行くバカがあるか!!」

 って返されちゃうし……カミキリキッド、完全になめられてるよ~。
 先ほど言及したゴキブリ男の粛清のように目立つシーンもあるにはあるんですが、前作で再生ドクガンダー成虫に「やれい!」とこき使われていたザンジオーのほうが強く見えていたのは、なぜなんでしょうか。クライマックスのアクションが、前作の「ザンジオー VS 2人のライダー feat.クマだか犬だかよくわかんないぬいぐるみ」という趣向を凝らしたものだったのに対して、TV本編とそう変わらないライダーとの1対1の淡々とした闘いだったのも、今一つ強さが伝わってこない原因ですよね。

●ライダージャンプのカットとか、明らかにカメラのピントが合っていない撮影がある。
 曇天の野外ロケは大変ですよね。うまくいかなかったカットをスクリーン大写しで流されてしまう制作スタッフも、プロとしてキツいものがあったろうなぁ。でも、そんなことも言ってられないギリギリスケジュールだったということで。

●調子に乗った地獄大使が悪いのか、連絡調整が不十分だったザンジオーが悪いのか……
 滝の「バッチリ、ショッカーのマークつきだ!」という発言や、車両班の運転手戦闘員たちが全員覆面をつけたまんまでいる時点で、完全に自分から本郷を作戦の中核に招き入れている地獄大使の計略なわけなんですが、う~ん……ライダーを確実に抹殺できる戦力、ちゃんと用意してた!?

 戦略の面から見ると、今回の「スーパー破壊光線作戦」失敗の原因は、あえてだったにしろ、本郷たちに作戦の存在を嗅ぎつけさせてしまった地獄大使にあるのですが、細部の戦術の面での最終的な失敗の責任は、まだ破壊光線の射出準備が整っていない段階なのに、自分達が陽動であることを盛大にバラしてライダーの眼を大要塞に向けさせてしまったザンジオーにあるような気がします。

ザンジオー 「仮面ライダー! 貴様がおれたちと闘っている間に、大要塞の破壊光線装置は、完全に備えつけられたのだ!! 今ごろは、東京に向けて発射の秒読みの頃だ。」

 ……これでほんとに秒読みが始まってたら、さすがのライダーも間に合わず少なくとも東京ひとつは壊滅していたということで、まずはショッカーの勝ちと言ってよい成果だったでしょう。その後ブチギレしたライダーに大要塞で何をされるのかはわかりませんが……
 ところが、悲劇だったのは肝心の大要塞のスーパー破壊光線発射「秒読み30秒前」が告知されたのが、ザンジオーの話を聞いたライダーが富士山の五合目から山頂の大要塞目指してライダージャンプで出発した35秒後。そして先に大要塞に潜入していた滝とライダーが合流したのが(ちなみに滝が山頂の大要塞に潜入したのは、「富士山の五合目で」本郷に先に行くようにと促されて別れてから1分38秒後です……え!?)1分05秒後だったのですが、30秒たってるのに、なぜか破壊光線は発射される気配もなく……
 その後、大要塞動力室の中枢コンピュータを、ライダーがこれ見よがしにパネルについていたダイヤルを3ヶ所「きゅっ、きゅっ」とひねっただけで破壊光線装置は大要塞ごと爆破、崩壊。なんでしょう、先ほどの「秒読み」発言は、緊張した秒読み係戦闘員のマイクテストだったのでしょうか。

 私も実際に富士登山をした経験がないので確たることは言えないのですが、富士山の五合目から山頂までって、滝のような一般人類(まぁたいがい強いけど)が1分30秒くらいで行けたり、ライダージャンプで1分ちょいで行けるもんなんですかね……画面で見ると、雪も積もってたし相当遠そうに見えたんだけどなぁ。
 まぁ、これは編集された映像作品から計測した時間なので、ほんとは五合目での戦闘から大要塞への2人の潜入まで、常識的に考えれば5~7時間くらいかかっていてもおかしくはないのですが、だとしたらなおさら、富士五合目でのザンジオーの「秒読みの頃」発言は完全な事実誤認だったということになります。少なくとも1分たっても発射されていないということは事実なのでした。
 ザンジオーさんよぉ……誰から聞いたのかはわかりませんが、確信の無いリップサービスをするのは良くありませんね! ま、なにはなくとも、改造人間をポンポン生産する技術があるのだったら、富士山頂から五合目までの距離くらいの電波が届くインカム程度のものをザンジオーに持たせて、正確な情報を大要塞からこまめに伝えても良かったのではないでしょうか。
 意気揚々としてどこかのショッカー基地に帰還したあとのザンジオーの処遇に胸が痛みます……さすがの地獄大使もこれにはちょっと堪忍袋の緒が……でも、珍しくバレずに完勝できそうだった今作戦を必要の無いギャンブルでフイにしたのは、もとはと言えば大使のせいですからね!


 いろいろと言いましたが、結論としましては、数分で富士山頂と五合目を行ったり来たりできる人類とライダーを相手にしてるショッカーの勝機は、限りなくゼロに近い、ということですな!! それでもめげない地獄大使は、やっぱりすごいよ。
 端的に言えば、この『仮面ライダー対じごく大使』は、TV本編のそれなりなスケール拡大版に留まっているという感じで、主人公失踪という事情からかんがみれば完成しただけで奇跡という見方もできますが、やはり前作のインパクトを超えることは難しかったか、といううらみが残ります。ハードルも高くなってただろうしなぁ。それにやっぱり、ダブルライダーでないのはちょっぴり寂しいですよね。
 あと、この作品をして「石ノ森章太郎のコミカライズに忠実」というのは、さすがに厳しいような気がしますよね。あくまでロケーションが同じというだけで、内容はまったく別物ですよ。コミカライズもおもしろいですけど!

 そんなこんなで、ちょっぴりトーンダウンしたというか、無難におさまっちゃったような感のある仮面ライダー劇場版シリーズだったのですが、この後、あらゆる意味で当時の常識を覆す、真の伝説的作品がついに世に出てしまうのでありました! 正確には、次の次かな。

 次回、『仮面ライダーV3』オリジナル劇場版の、平和な四国をゆるがす驚天動地の一大爆発絵巻に、ご期待ください!!
 さて本文は、いつのことになるのやら……

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