長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

さそり女に『電人ザボーガー』への羨望を見た!? ~映画『シン・仮面ライダー』~

2023年03月25日 23時37分47秒 | 特撮あたり
 どもども、こんにちは! そうだいでございます~。
 いやはや、なにはなくとも花粉症……カンベンしてよ花粉症!! 今年はほんとに最悪ですね。
 おかしい、年齢を重ねると体力も落ちていくはずなのに、なんでこうも花粉症に対する不必要な体内抵抗運動だけは激化する一方なのでありましょうか。そんなに過剰に反応しなくてもいいのに……ちょっとは、「カラダ」という、同じ釜の栄養素を摂り合う秘密組織の同志である「鼻の下の皮膚」支部とか「目のまわりの皮膚」支部の惨状もおもんぱかって、液体は気持ちひかえめに分泌していただきたいと!! ホント、いい加減にしてください! 「脳みそ」本部からのおねがい!!

 ってな感じで、どこの世界でも「組織の横の連携は大切ネ」という、強引きわまりないつなげ方をもちいまして、この早春に話題沸騰の、この映画の感想記に入らせていただきたいと思います。入って……いいよね? ちゃっちゃとやっちゃいましょう。
 まぁ、「話題沸騰」と言いましても、『シン・ウルトラマン』から間もないこともありますし、具体的に言うと、私の周辺では「鍋の壁にちょこちょこっと泡がついてきたかな。」くらいのくつくつ感でしょうか。ゆで卵そろそろコロコロするかぁ、みたいな。


映画『シン・仮面ライダー』(3月17日公開 121分 東映)


 満を持しての、庵野秀明さん、おんみずからによる脚本&監督作品のご登板ですね。

 庵野監督と言えば、わたくしにとって決して忘れることのできない思い出は、何と言っても、関東地方で独り暮らしをしていた時代に観に行った、池袋・新文芸坐におけるオールナイト上映企画「ウルトラマン45周年記念 『帰ってきたウルトラマン』庵野秀明セレクション10+1」(2010年9月18日開催)での、生・庵野秀明監督&生・団時朗さまトークショーへの謁見でございました。じ、自分で昔の記事をひっぱり出してビックラこいちゃった……もう10年以上前のことなのか。
 これは言うまでもなく、ステキな体験でした。個人的には、間近で見たそのお2人も当然ステキだったのですが、それ以上に感動してしまったのが、客席にいらっしゃっていた「新マン」その人・きくち英一さんに挨拶をして、握手をしていただいた、そのてのひらのあたたかさ。最高のオールナイトでしたね。
 団さんも、まさか、あのあたりのウルトラご兄弟の中で、いちばん早く光の国に旅立たれるとはねぇ。残念でなりませんが、あの日も陽気で飾りっ気のないトークが非常に印象的でした。あちらでバーベキューパーティの準備をしているのか、それとも、久しぶりに再会した「兄さん」岸田森サマと、お互い身体のことなんかいっさい気にせずおいしいお酒をかっくらっていらっしゃるのか。こちらとしても、海岸を走りながら笑顔で手を振って、送ってさしあげたいところです。

 それはともかくとして今回は、おそらく、その『帰ってきたウルトラマン』と同等に庵野監督の思い入れが強いと思われる伝説の特撮ヒーロードラマ『仮面ライダー』(1971~73年放送 全98話)の、庵野監督ご自身によるリメイクでございます。

 さて、『仮面ライダー』のリメイクと申したときに、我が『長岡京エイリアン』として無視するわけにはいかないのが、同じくさかのぼること10年以上前に世に出た『仮面ライダー』のリメイク作品である、映画『仮面ライダー THE FIRST』(2005年)と、続編の『仮面ライダー THE NEXT』(2007年)の2作であります。なつかし~!
 この2部作については、すでに過去の記事でつらつらつづっていはいるのですが、簡単にかいつまんで言いますと、私はこの2作の「キャラクターデザインとアクション演出」を高く評価して、その一方で「原典になかった平成オリジナル要素との水の合わなさ」が良くなかった、と言っていたかと思います。『THE FIRST』は「善悪のあいまいな世界観」が、単純明快なライダーアクションをなんとも感情的にすっきりしないものにしてしまっていたし、『THE NEXT』は、ショッカーそっちのけでしゃしゃり出てくる「Jホラー(化石語)」要素に物語をいいように引っ掻き回されていた感じでした。もう恥ずかしくて見てらんないよ、長い黒髪の怨霊が「ずずず……」なんて!!

 ともあれ、『仮面ライダー』の平成におけるリメイクは、そんな感じで「当時のトレンドに寄り添いすぎた。」みたいな感じで失敗……してしまっていたと思います。でもこれはこれで、平成らしくていいのかもしんないですが。やたらと線が細くて悩みまくる黄川田将也さんの本郷猛も、実に平成らしい主人公像ですよね。基本的にヒーローではないんだなぁ。そして、そこらへんに対する気持ちいいくらいのカウンターパンチとして、あの「鬼神」本郷猛のあらぶる大怪作『仮面ライダー1号』(2016年)もあるわけでして……タケシ~♡

 ほんでま、今回の「令和」リメイクであるわけです。でも、監督が庵野さんなんですから、令和100%になんてなるはずがなく、「120%昭和で令和成分は1%もしくは無果汁」というファンタみたいな映画になっていました。いや、クセの強さで言うのならば、これはネーポン映画と称するべきか……アジアコーヒ日の出通り店!! あ、ネーポンは果汁10%ですか。
 で、ごたくはここまでにしておきまして、肝心の『シン・仮面ライダー』を観た感想はといいますと、


ライダーサイドはいいんですが……ショッカーサイドが雑すぎやしないかい!?


 こんな感じでございました。わたくし、ど~にもこ~にも、ショッカーが大好きなんだよなぁ。

 映画自体は、非常におもしろかったです。庵野監督のこだわりが強すぎて娯楽作品になっていない、という声もあるようなのですが、いや、そんなにマニア向けな問題作でもないし、庵野監督お得意の「オーグメンテーション」だの「プラーナシステム」だの「ハビタット世界」だのという聞きなれない専門用語は確かに氾濫しますが、そんなのはテキトーに「こういうことかな。」程度に理解して受け流しちゃえば、物語の大筋もおおむねスッと頭に入ってくると思います。わかりやすいですよね。
 なんてったって、『仮面ライダー』の「仮面」と「ライダー」、どっちも非常に誠実かつ丁寧に描いているのが、ものすごく良かったと思います。そりゃもう、昨今の「変身おもちゃの売れ行きが一番大切」みたいな後輩新人連中の横っ面をビビビビビンとひっぱたくような単純明快さでしたよね。人を殺める異常な能力の代償として醜くゆがんだ顔を隠すための仮面。そして、1号にとっては変身のためのエネルギーを得るために、2号にとっては孤独を癒すために必要不可欠なパートナーとしてのバイクの大活躍!!

 そして、とらえようによっては完全に緑川博士の狂気に振り回される被害者になってしまった境遇を呪うことなく、震えるその身体を理性で抑え、正義の心を持った大自然の使者・仮面ライダーとして命を賭す覚悟を手にした本郷猛を演じきる、池松壮亮さんの立ち居振る舞いの説得力よ!! さすが第33代・金田一耕助の名跡を背負うだけのことやは、ある!!
 今回のリメイクは、本当に池松さんの本郷猛で、その品質がもっている部分が大きいと思います。そりゃまぁ、他の役者さんがたの演技もいいんですが、作品に占めるウェイトがあまりにも違いすぎます。当然、ラストシーンで本郷から仮面ライダーの名を継承する一文字隼人を演じる柄本さんも、そのひょうひょうとしたヒーロー感が素晴らしいわけなんですが、やっぱりそこに、冷静で優しい本郷の声が加わるからこそ、この作品は非常にあたたかい朝日のような、希望に満ちたエンディングを迎えることができると思うのです。♪ひっとりっじゃないってぇ~、すってきっなこっとっねぇ~!! あのメガネピンクの女の子がいたら、絶対この歌うたってたでしょ。
 このエンディングの「1号から2号への継承」は、原作者である石ノ森章太郎のコミカライズ版『仮面ライダー』(1971年連載)のちょうど真ん中あたりのエピソードとなる第4話『13人の仮面ライダー』の展開をベースにしているのですが、ここをエピローグに持ってきたところに、庵野監督の『シン・ウルトラマン』脚本にも通じる「人間愛賛歌」を感じることができます。ホント、思春期にあの『新世紀エヴァンゲリオン まごころを、君に』の洗礼を受けたわたくしといたしましては、あんなにほっこりしたエンドロールを観ることができるのが、心の底からうれしいわけなんですよ……ハッピーでよかったぁ~!!

 この『シン・仮面ライダー』は、本郷猛・緑川ルリ子・一文字隼人という3人の「仮面ライダーサイド」の若者たちの魂の響きあいと克己・成長の物語であると考えれば、とっても気持ちよくルートの整理された群像劇であると思います。繰り返しますが、特に本郷を演じる池松さんの演技が、いい! 砂浜でトンボを切った後の、ちょっと足元を踏み固めながらはにかんだ時の少年っぽい微笑……いいね!! これから死ぬかもしれない決戦に臨もうとする人間が、そういう一面を信頼する仲間に見せて安心させようとしている。自分の命よりも他人の安心に気をつかう人間であるという、この本郷像が、父の生きざまに見事にリンクしているんですよね。これは、庵野脚本というよりは、それを元に緻密な演技プランを構築した池松さんの功績だと思う。すごいよ、このお人は!!

 ……と、まぁ、わたくしが申しあげたいこの作品の良いところは、だいたい以上でございます。

 それでまぁ、その一方で気になったところなんでありますが、ざっと大きく分けて、3つほど。


1、それは……組織なのか? ショッカーの説得力が、なんかイマイチ。

 先ほども言ったように、この作品における悪の秘密組織「ショッカー」の存在感が、ど~にも納得いかないんです。あ、網タイツ女戦闘員が多めなのは、良いと思います。女性進出バンザイ!!
 私の考えが古いのかも知れませんが、やっぱり組織って、そりゃ改造して苦しみから解放してくれたっていう恩義も大事でしょうけど、「同じ目的に向かって時に競争し、時に協力し合う」信頼関係(共犯関係)がないとやっていけないと思うんです。たとえその目的が世界征服だとしても。
 でも、今回の『シン・仮面ライダー』におけるショッカーって、「緑川チーム」だとか「コウモリ研究室」だとか「死神グループ」とかいう派閥っぽい名前だけは出てくるんですが、結局どういうテリトリー分けをして、どういった感じで作業人員(改造人間の素体とか戦闘員)を確保する経済力を得ているのかが、さっぱりわかんない。
 いや、そのあたりの現実的な資金源がはっきりしないのは、歴代の悪の秘密組織のほとんどがそうなので見逃すとしても、「人類全員をハビタット世界に送り込む=死んでもらう」なんていうのを目標にしてる改造人間なんて、「この世の人間、一人残らずわらわにひれ伏しなさ~いオホホ!」みたいなゆかいな人たち(ハチとかさそりとか)と同舟できるわけないじゃないですか。全員ニコニコ顔で死んじゃったら、誰が女王蜂サマにおいしいワインを納入するんですかって話ですよ。
 それは……果たして同じ組織に所属していると言えるのか? っていうか、そんな利益の食い合いしかしないような奴らをポンポン生み出してる状態のものを、組織というんですか!? ライダーとか政府とかが何かしなくても、そんなの自然につぶれちゃうんじゃないの?
 そうなんですよ。この『シン・仮面ライダー』は、半分以上確信犯的に「カリスマ的なリーダーなんていない。」という、実に現代的な悪の組織のスタイルを打ち出してはいるのですが、それはすでに『仮面ライダーストロンガー』におけるデルザー軍団の教訓が指し示すように、「ありそうで一番ない」悪手なのです。かと言って、『仮面ライダー THE NEXT』みたいにヨボヨボ声の大首領さまが出てきてもどっちらけなんですけどね。

 だから、緑川イチローを、「緑川チーム初の改造人間」なんていう規模にとどめないで思い切ってショッカー大首領にしちゃった方が、いっそのことわかりやすくて良かったのかも知れませんが、そこはそれ、そうしちゃうと続編が作れなくなっちゃいますから、保険として「ショッカーいまだ健在なり」の形でおしまいにしたかったんでしょうね。そうは言っても、おそらく庵野監督自身に続編を作る意思はないと思われるのですが。コブラ男……どこまでもふびんなヤツ!
 でもほんと、イチローさんって、本郷と一文字がなんとかしなくても、そのうち死神博士か地獄大使ポジションの人が排除しちゃってたんじゃないかな。思想がアブな過ぎますよね……生産力も労働力も一切がっさい滅ぼしてどうすんだよ! そういうのはNERV かゼーレでやってちょうだい!!


2、なぜクライマックスにいくにつれて、戦闘アクションがつまんなくなるの!?

 これ、不思議なんだよなぁ。映画って、後半にいくにつれて、敵が強くなるにつれて、どんどん盛り上がっていくものだと思うんだけどなぁ……やっぱりこれも、私の考え方が古いのか?
 具体的に言いますと、私としましては、この作品内でアクション的にいちばん面白かったのは、VS 蜂女戦でした。その後は、あんまりピンとこないか、暗くて見えにくい戦いばっかりで、ねぇ。
 あ、途中ですみません! 『シン・ウルトラマン』の感想記事でもそうでしたが、我が『長岡京エイリアン』において、いわゆる「シン」シリーズで庵野さんが改めた「禍威獣」だの「なんとかオーグ」だのという言葉遊びはいっさい採用せず、原典通りの呼称で通させていただきます。理由は、原典をわざわざ改める必要性も面白さも感じないからです。

 その蜂女戦も、高速移動する蜂女の残光をネオン上に表現する感じはとっても良いと思ったのですが、なんで「スズメバチの毒」という、いかにもありそうな要素が劇中に全く反映されなかったのでしょうか……いや、わかりますよ!? そこで蜂女も毒を持ってきちゃったら、あのエピソードのきれいなオチにいきませんからね。
 でも、毒系の武器も無いし、毒への耐性も無い蜂女って、どうなんだろ……確か、シン・仮面ライダーチップスのライダーカードでも「刀に猛毒が塗ってある」って書いてあったから、楽しみにしてたんですが。これだったら、あの和智正喜先生の小説版『仮面ライダー』の蜂女の方がよっぽどハチっぽいですよね。

 ただ、今回の『シン・仮面ライダー』におけるアクション演出は、どの改造人間戦でも、ちょっと凡人には理解しかねる「はずし」が多すぎるような気がします。蜂女戦も、2対1の日本刀アクションの時に、カメラが3人に近すぎて太刀筋が見えにくいのなんのって! もうちょっと離れたところから観たかったですよ。『キル・ビル』みたいにすれば、西野さんも最高に映えたはずなんだけどなぁ。

 だいたい、冒頭のバイクとダンプカーの爆走カーチェイスからして、ダンプカーが停車していたパトカー2台を事もなげに蹴散らすっていう、昔の『西部警察』みたいなアクションドラマだったら何個かのカメラでアップ撮影して繰り返し流しそうな瞬間を、遠景空中撮影でさーっと流しちゃってるじゃないですか。正気を疑いますよ……何百万かかってるんだってとこを、そんな、もったいない! いや、もしかしてあそこ、CG なのかな?
 それで、「2対11の VSにせライダー戦」にいたっては、最悪のまっくらトンネル内での展開ですもんね。なんで!? なんで暗闇で処理すんの!? コミカライズ版でも外で戦ってたよ!? 雨だったけど。

 わかんない……また引き合いに出しますが、ことバトルアクションに関して、この『シン・仮面ライダー』は、『仮面ライダー THE FIRST』と『仮面ライダー THE NEXT』に圧敗していると思います。そりゃもうあーた、『THE FIRST』と『THE NEXT』のアクションは、その道ウン十年のプロの職人さんがたの仕事ですから! 屋敷内の大乱闘で、伸ばしたヒザをボギッと逆方向に踏み折られていたにせライダーさん、めっちゃくちゃ痛そうだった~!! そういうとこ! そういう生々しい痛さが、いくら血しぶきがあがっても血へどを吐いても、今回の『シン・仮面ライダー』にはいっさい感じられなかったのです。そこの違い、大きいですよね。

 最後の VSイチロー戦も、なんか長期戦に持ち込んだらパワー切れで勝てました、みたいななし崩し感、ありましたよね。そんなに強そうじゃないんだよなぁ。波動攻撃を受けてライダー2人が血を吐くっていうのも、ハビタット世界に連れてかれて笑顔で死ぬ人たちっていう伏線とぜんぜんつながってなかったし。
 なんだかんだ言って最後は話し合いで決着がつくっていうのも、そりゃまぁ締め方としてきれいなのかもしれないけど、あの実写版『キューティーハニー』(2004年)からまるで変わってないなぁ、みたいな既視感と脱力感に襲われました。あの映画の VSゴールドクロー戦が、庵野監督の実写版ベストバウトなんじゃないですかね。お金、かかってたねぇ。

 あと最後に、これだけは言っておきたい。

カマキリカメレオン、天狗の隠れ蓑を捨てて戦って、どうする!? あと、隠し武器のカマ、リーチ短すぎ!!

 あいつ、本物のあほやで……これにはさすがに、モニターで見ていたであろう死神博士と開発チームご一同も、そろって開いた口がふさがらなかったことでしょう。改造人間2体ぶんの手術開発費、返せコノヤロー!! クモ先輩も草葉の陰で泣いているぞ!


3、『シン・仮面ライダー』なのか『シン・石ノ森章太郎ランド』なのか、はっきりしてくれ!!

 これ、実は内心、ほっとしている部分もあるのです。あぁ、庵野監督は、『シン・仮面ライダーV3』を作る気はないのだな、と。

 今回の『シン・仮面ライダー』って、これまでの『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』にも増して、原典となった作品以外のフィクション作品から引用されたとおぼしき「雑味」が多いような気がするんですね。ちなみに、『シン・ウルトラマン』は『ウルトラマン』やその周辺の公認二次史料書籍(でたらめ)にヒントを得ている部分が多く、『シン・ゴジラ』は主に1984年版『ゴジラ』を意識している部分が非常に多いものの、「形態変化するゴジラ」という新要素は、「作品ごとに顔つきも大きさも性格もコロッコロ変わるゴジラ」という楽屋落ちネタを逆手に取ったアイデアだと思います。だからこそ、一般の人にもマニアの心にもささる面白さとなったのでしょう。あと、東日本大震災の記憶を巧妙に思い起こさせる国難のイメージも上手に取り入れていたし。

 それに引き換え今回はと言いますと、ラスボスたる緑川イチローの変身イメージは、『仮面ライダー』サーガとは直接の関係の無い『イナズマン』(1973~74年放送)を、ショッカーの改造人間たちの活動を無言で見守る不気味な紳士ロボット「ケイ」は『ロボット刑事』(1973年放送)を、その前身であったと語られる車椅子のロボット「ジェイ」の外見は『人造人間キカイダー』(1972~73年放送)を元にしたものになっているように思われます。それらの作品の共通点は、「石ノ森章太郎原作の特撮ヒーロー番組である」ということです。
 そして、イチローとその妹ルリ子(母は違うそうですが)の兄妹の因縁は、『仮面ライダーV3』の主人公・風見志郎とその妹・雪子のネガとも見える愛情関係ですし、イチローの白いマフラーと、回転するタイフーン機構が2つ並んでいるベルトなんかはまるまる V3のイメージと重なります。確かに、ダブルライダーを向こうに回してあんなに貫禄のある対処ができるんですから、あのイチローさんが単に「アマゾンの毒蝶ギリーラ」とかコミカライズ版の数少ない「ライダーに倒されなかった改造人間」である蝶だか蛾だかよくわかんない改造人間だけを元にしているわけがないでしょう。ドクガンダーのリファイン……にしては、もふもふ成分が足りないですよね。

 要するに、『仮面ライダー』単体が好きなマニアにとっても、『仮面ライダー』もなんにも知らない一般の若い人たちにとっても、「うん? なにこれ?」と戸惑ってしまうイメージが過剰に詰め込まれてしまっているので、「石ノ森章太郎原作による1970年代の特撮番組が好きな人」がストライクゾーンという、そりゃ間口もせまいわなという設定になっているのです。そりゃそうでしょう、私も『ゲゲゲの鬼太郎』に悪魔くんとか河童の三平が出てきたら、一瞬は盛り上がるかもしれませんけど、なんかしらけてしまいます。そんなサービス、重心がブレるだけでなんの特にもならないのです。庵野監督は、『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』(2011年)という映画のラストバトルにおけるどっちらけなゲストパートは見ていないのかな? あれ、あんな尻切れトンボなお茶のにごし方をして、誰がよろこんだの?

 そりゃあなたね、こんなニッチな作品が『シン・ゴジラ』の80億円とか『シン・ウルトラマン』の40億円に匹敵する大ヒットになるのは、そもそも無理な話なんじゃないの? 「仮面ライダー」シリーズ映画作品の興行記録である19億円(『劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』)を超えたら、御の字なんじゃないかなぁ。
 べつに、そこらへんの諸作を入れなくてもいいはずなのにねぇ……たぶん庵野監督は、そこらへんの石ノ森作品系の「シン化」は、仮面ライダーシリーズの後続作もひっくるめてもうやりませんよ、という意思を明らかにしたかったのではないでしょうか。そりゃ、もういいですよね。「シン屋さん」じゃないんですから。

 ところで、『仮面ライダー』以外の作品からの本作へのイメージの引用ということで、私としてちょっと見逃せないのは、作中のさそり女の、なんとも中途半端な「半分スケキヨ」みたいなのぺ~っとしたゴム製のフルフェイスマスクのデザインなのですが、これもまた、同じく石ノ森章太郎原作の特撮ヒーロー番組『快傑ズバット』(1977年放送)に出てきた悪の組織の大幹部格のゲストキャラがよくやっていた半分マスクがイメージ源となっているようです。
 そうではあるのですが、わたくしといたしましてはそれ以上に、石ノ森作品ではないものの、あの「日本特撮ヒーロー番組史上最高のリメイク」とも讃えられる2011年の映画化も話題となった、『電人ザボーガー』(1974~75年放送)における番組前半の悪の組織「Σ(シグマ)団」を統べるラスボス・悪之宮博士の「顔の半分がサイボーグ」というバカバカし……いやさ、業の深いメイクを想起せずにはいられません。

 この、なんともチープで不格好で、そもそも石ノ森先生が『仮面ライダー』シリーズに導入することを許さなかった半ゴム仮面メイクを、お客さん置いてけぼりでダダ滑りすること承知の上でさそり女におっかぶせた、庵野監督のシンの意図とは……?

 これはもうひとえに、「日本のエンタメ界の未来を担うシン・なんとかかんとかブランド」とか、「エヴァの庵野が次に何を見せてくれる!?」とかいう、常人ならば1秒として耐えられないような、メガトン怪獣スカイドンも真っ青の超絶重圧プレッシャーの中で生き続けている庵野監督の、「なんのプレッシャーもない、なんの期待もされない、ただ人を『くっだらねぇなぁ~オイ!』と笑顔にしてくれる世界へのあこがれと嫉妬」の、なんとも哀しすぎるあらわれなのではないでしょうか。嗚呼、時代の寵児ともてはやされる稀代の天才ゆえの苦悩、ここにあり!!

 そして、思い出していただきたい。『シン・仮面ライダー』であんなに真顔で緑川弘博士を演じていた塚本晋也監督(俳優じゃなくてまず監督!!)は、あのリメイク版『電人ザボーガー』で緑川博士と同じポジションの「正義のヒーローの開発者」となる大門勇博士を演じた竹中直人さんの盟友であり、俳優としては竹中監督作品の常連でもあるのです! どっちが監督なんだか非常にややこしいけど、『119』は最高だ!! 塚本さんに関しては、あの絶対に笑うところではない往年の緑川家の家族写真の中で見せる、明らかにかつらであるとしか思えない不自然にフッサフサな頭髪も、ある意味で竹中さんの異次元コント世界への憧憬であるとも解釈可能でしょう。可能なの!!
 それに加えるダメ押しとして、リメイク版『電人ザボーガー』でくだんの悪之宮博士を演じたのが、何を隠そう『シン・仮面ライダー』で大いに男を上げた一文字隼人役の柄本佑さんの父・明その人であるというところにも、何かしら因縁めいた善悪表裏一体の相関関係を感じ、戦慄せざるを得ません。佑さん、ほんとにいい俳優さんですよね! 『ハケンアニメ!』も非常によかった。

 まぁそういった、庵野監督の心の叫び&ガス抜きが、あの一見なんの意味もないように見えるさそり女のくだりには潜んでいるのですな。ですから、あのさそり女の挿話は、庵野監督にとっては絶対にカットするわけにはいかない、蜂女の能力を大幅に弱体化させてまでもねじ込まなければならない重要なシーンだったのでしょう。単なる『シン・ウルトラマン』のキャスティングにからめたファンサービスじゃないんですね。まぁ実際、劇場内で笑い声があがった数少ない場面のひとつでしたが。
 余談ではありますが、原典『仮面ライダー』において、かつてメイン登場人物(本郷猛)の親友だったという非常にドラマチックな前歴を持っていた改造人間は、他ならぬさそり男だったのです。その関係をまんま盗み取ってしまった「蜂女ひろみとルリ子」のエピソードに、さそり女もみごと一矢報いたわけで、両者には本作で新たな因縁が生まれてしまいましたね。同じ組織どうし、仲良くして~!!
 さらに余談。緑川ルリ子の親友ひろみという人物は原典にもコミカライズ版にも登場する準レギュラー的な人物なのですが(演・島田陽子!)、コミカライズ版ではあの蝙蝠男のせいでかなり残酷な最期を迎えてしまいます。改造されたほうが幸せだったのか、どうだか……

 あんな仕事を堂々と受けてくれた長澤まさみさんは、ほんとに度量の広いお方です。菩薩じゃ……伊達にモスラ呼んでませんよね。

 そんなこんなで、『シン・仮面ライダー』、そうとうクセの強い作品だけど、庵野監督「最後のシン作品」になることを切に願いつつ、いち特撮ファンとして「よくがんばりましたね。お疲れさまでした!」と暖かい拍手で迎えいれたいと思います。

 個人的には、基本的に男のおじさん(私もそうです)ばっかりだった劇場の中で、お父さんと一緒に見に来たらしい小学生くらいの男の子が、息をはずませながら興奮ぎみに、
「最初っからエンジン音全開だったね! ぶぉん、ぶぉおん!!」
 とお父さんに話していた姿を見て、心底うれしくなりました。

 そう。仮面ライダーの物語は、それで、いいのだ。

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2 コメント

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Unknown (mobilis-in-mobili)
2023-03-31 16:10:52
幕前しか観てないのにテキトーなことを書いちゃうワタシ。今になってみると仮面ライダーってツッコミどころ満載なんですよねー。
https://blog.goo.ne.jp/mobilis-in-mobili/e/8e6e7f89eaf86b662e64dea55263a775
淡々と職務を遂行するクモオーグの律儀さだけが印象に残ったカンジでした。
返信する
鋭いですね~!! (そうだい)
2023-04-01 19:24:43
 mobilis-in-mobili さま、コメントまことにありがとうございます!!

 本日4月1日は映画ファーストデイでしたが、足を運ばれましたか?
 と申しますのも、あなたさまがコメントの通りに蜘蛛男のキャラクターに魅力を感じられたのならば、わたくし個人の印象からしますと、「じゃあ観に行きましょう! 他の改造人間の方々もそれ以上の魅力にあふれていますから!!」とは言えないのであります……料金が安い日に、気がお向きになりましたらどうぞ、みたいな。

 作中に登場した改造人間勢の性格描写は、よく言えばわかりやすいのですが、悪く言えばマンガかゲームのように単色で幼いです。予防線のように意味ありげなセリフもつぶやいてはいるのですが、そもそも言葉でなんとかしようとしている時点で、監督は根本的に俳優の実力を信用していないのでは……なんて考えてしまったりして。だからこそ、大森さんの圧倒的な力を浮き彫りにし、動員テコ入れのために蜘蛛男戦だけ公開するという策に出たのでしょう。蜂女の七瀬さんは、非常にがんばっていたと思います!

 バッタ男と風力の関係は、まさにご明察でございます! そんな感じの理屈を作中で言っていたような気がします。だからこそ、バッタなんでしょうか。でも、なんで初期に開発した改造人間がバッタとかクモとか、かけ離れているにも程のある生物なのでしょうか……コウモリはなんとなく近いのに!
偉大なるショッカー大首領の御心は、常人には理解しがたいものがありますね。

 ショッカーへのツッコミどころといって私が忘れられないのは、昔なにかの4コマギャグマンガで見たネタです。

「ショッカー基地内で、蜘蛛男や蜂女が次々と消息を絶つ謎の事件が発生。原因をいぶかしがる地獄大使が他の改造人間たちに行方を尋ねてまわるのですが、ガマ男はげっぷをしながら『……さぁ?』と答えるのでした。」

 半分人間なんだから実際にそうはならないにしても、身体の半分を流れる本能が、「あいつとだけは絶対に仕事したくない……」と叫ぶ職場内の人間関係だらけの中で、いい仕事なんかできるわけないでしょ!!
 『仮面ライダー』、深いですね。まさに現実社会のカリカチュア!
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