長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

千葉耕市ぬらりひょんの意義 ~ぬらりひょんサーガ 百鬼徒然袋ノ中~

2011年10月17日 14時18分20秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
《前回までのあらすじ》
 『ゲゲゲの鬼太郎』物語が1980年代によみがえる!
 戦後のかおりを色濃く残していた原作マンガに、大幅な現代的アレンジをほどこしたアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』がついにスタート。
 数々の名エピソードが「弱きを助け強きをくじく」勧善懲悪のヒーロー鬼太郎(演・戸田恵子)を中心に置いたストーリーに変換されていくなか、ヒーローに対立する強力な悪役妖怪の存在も必要となり、ついに! あのぬらりひょんにスポットライトが照射される。


 前回はアニメ第3期の「おためし」「パイロット版」という感じで、1985年8月に同じフジテレビで放映された実写特撮ドラマ『ゲゲゲの鬼太郎』と、そこで見事な悪役を演じきった「史上初の妖怪総大将ぬらりひょん」についてふれてみました。つってもまぁ、4~5匹の妖怪をしたがえていたというだけなんですが、まずまずのデビュー戦にはなったわけです。

 この実写ドラマ版の内容は、その2ヶ月後の10月から開始されたアニメ第3期とのつながりはまったくないのですが、それでも、原作マンガとはかなりスタイルの異なる「正義のアクションヒーロー鬼太郎」がバブル期の現代日本に活躍するというインパクトを十二分に予告宣伝してくれるものとなったのです。
 それと同様に、「今度のアニメに出てくるぬらりひょんも、実写版のようにひと味違う感じになるのか?」という予兆にもなっており、まさしくその通り、アニメの世界で1985年に登場したぬらりひょん先生はだいぶ印象の違った大活躍を見せてくれることとなりました。

アニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』第4話 『妖怪ぬらりひょん』(1985年11月)

 繰り返しますが、アニメ第3期のコンセプトは「原作マンガの1980年代版リメイク」ということになっており、このぬらりひょん初登場エピソードもまた、以前にこの「ぬらりひょんサーガ」で紹介した『週刊少年マガジン』版『墓場の鬼太郎』のぬらりひょん登場回をもとにした内容となっています。
 ただしアニメ第3期全体としては、その放映と並行して新たに連載されていた『新編 ゲゲゲの鬼太郎』(1986年5月~87年9月 水木しげるによる鬼太郎サーガとしては8番目のシリーズ)をすぐにアニメ化したエピソードも後半にいくにしたがって増えているため、全話が旧作の焼き直しというわけでもない、鬼太郎ワールドの新展開を見せてくれています。

 さぁ、原作マンガでは孤高の爆弾魔だった妖怪ぬらりひょん。リメイク版ではいったいどんなことになっているのでしょうか?

「ビルなどを急速に劣化させる特殊爆弾を使って、強引に建築事業を受注していく悪徳建設業者の社長」。

 な、なんというアレンジ……「爆弾」っていうワードしか残ってねぇ!!
 ただねぇ、この「悪徳建設業者」ってところが、いかにもバブル期の凶悪妖怪らしくていいんですよねぇ。

 原作マンガでは自分の気の向くままに自由に悪事を働いていたぬらりひょんだったのですが、アニメ第3期での彼は、人間社会に「企業人」としてかなり計画的にまぎれこみ、結果的に自分の儲けとなる地上げのための戦略として「劣化爆弾」を炸裂させたり手下の妖怪「朱の盤(しゅのぼん)」を暴れさせて土地の評判を落としたりする「社会ルールを利用した悪人」になりおおせているのです。原作マンガのように「社会ルールをいっさい無視した悪人」もこわいんですけど、こっちもこっちで手がつけられないワルです。「進学塾」といい「建築会社」といい、1980年代に入ってぬらりひょんは経営の楽しみを知るようになっていたのか? 手っ取り早く木の葉を札束にして使っていた過去と比較すると、かなりの心境の変化です。

 現在、『ゲゲゲの鬼太郎』でのぬらりひょんの名パートナーとして不動の地位を築いている、赤くてでかい顔の朱の盤(「朱の盆」とも)。このアニメ第3期・第4話での登場がお初となります。朱の盤自体が単独で鬼太郎に挑むという原作マンガは存在していないんですね。
 まぁ……そのしゃくれた顔で人を驚かすくらいしか能が無く頭もそんなによろしくないので、「名パートナー」と言うとぬらりひょん先生にキレられかねないくらいに頼りにならない朱の盤なのですが、東北(か中部)の山間部出身という人の良さがにじみ出てしまうキャラクターは、どうしても憎めない魅力にあふれています。
 朱の盤はアニメ第3~5期を通じてほぼ同じキャラクター&デザインでセミレギュラー出演を果たしているのですが、第3期を担当する初代声優は小林通孝(30歳)。

 アニメ第3期で一転、テロリストから悪徳業者社長になったぬらりひょんですが、会社はおかげで繁盛しているようで、東京都心にかなり大きな本社ビルをかまえ、移動は常に人間に化けた朱の盤にロールスロイスを運転させるといったリッチライフを満喫しているようです。長いこと鬼太郎サーガに出演しているぬらりひょんなのですが、生活上で彼が最も安定していたのは、鬼太郎に出会うまでのこの時期だったのではないでしょうか。

 さて、こんな「バブル期の大悪人」に変身したぬらりひょんだったものの、エピソードの大筋はだいたい原作マンガを踏襲したものとなっていまして、「ぬらりひょんがねずみ男を通じて鬼太郎と出会う」「ぬらりひょんが鬼太郎をだましてコンクリート詰めにする」「鬼太郎が秘術『鬼太郎憑き』を駆使してぬらりひょんを苦しめる」「困ったぬらりひょんが盟友・蛇骨婆に相談する」「ぬらりひょんと蛇骨婆が魔法の壺を使って鬼太郎に逆襲する」「鬼太郎が必殺『先祖流し』でぬらりひょんと蛇骨婆を過去に葬り去る」といった流れはまったく同じになっています。
 ニューフェイスの朱の盤がいるのに、やられ方がまったく同じって……朱の盤が役にたたなすぎるのか、鬼太郎が無敵すぎるのか。
 ちなみに、ここで蛇骨婆を演じていた2代目声優は山本圭子(42歳)。山本さんは鬼太郎サーガの中では、同じ婆さんでもむしろ「砂かけ婆」役として有名です。だって、アニメ2・4・5期で砂かけ婆やってるんですからね! たいへんな功労者ですよ。蛇骨婆としてゲスト出演したこの第3期では、のちにオリジナルキャラ・シーサー(沖縄の正義妖怪)としてレギュラー出演しています。ちなみにちなみに、白黒のアニメ第1期(1968~69年)で蛇骨婆を演じた初代声優は、『ウルトラQ』(1966年)の名キャラクター・カネゴンの声としても有名な麻生みつ子(37歳)さんでした。婆さん婆さんって、みんな若いじゃねぇか!

 ぬらりひょんの悪事の内容が変わっている他に特筆すべき変更点としては、最終的にぬらりひょんと蛇骨婆(と朱の盤)が放置された過去世界がマンモス時代でなくティラノサウルスが闊歩する白亜紀末期になっていること、ぬらりひょんが鬼太郎との因縁について「あいつには先祖代々、邪魔をされてきている……」と語るシーンがつけ加えられていることがあります。鬼太郎本人は明らかに戦後(1950年代)生まれなので、ぬらりひょん一族は鬼太郎の先祖にあたる幽霊族と抗争を繰り広げていた、という解釈になるのでしょうか?

 それにしてもさぁ……
 たぶん、「絵的にマンモスよりもハデだから。」という理由で恐竜のいる白亜紀に変更されたのでしょうが、マンモスと原始人のいた旧石器時代が「3~5万年前」だったのに対して、ティラノサウルスのいた白亜紀末期は「6850~6550万年前」なんだぜ。
 爺さん婆さんを置きざりにする時間を2千倍くらい昔にしてしまうとは……アニメ第3期の熱血鬼太郎は、どうやら原作マンガの鬼太郎よりも2千倍こわい少年のようです。

 みなさんもご存じの通り、のちにぬらりひょんと朱の盤のコンビは約7千万年の時を超えて1980年代ニッポンに奇跡の生還をとげるのですが、残念ながら蛇骨婆は第3期ではダメだったようです……ま、ま、第5期では戻って来てたみたいだから、いっか!


 最後に、バブル期にふさわしい巨悪としての再登板を果たしたアニメ第3期でのぬらりひょんについて。

 デザイン上はかなりのワル&クールぶりを体現した面がまえにリニューアルされており、なぜか冒頭にディスコに興じる若者たちの前に現れた際だけは原作マンガに準じた「背広姿にニヤケ顔」なのですが、悪事が成功した後は一貫してキリッとして背筋の伸びた眼光の鋭い和服の老人として描かれています。こういったあたりは、まさに前回の実写版にも影響を与えた水木しげるのイラスト「ダークぬらりひょん」を意識したものになっているようです。ハゲてるわりに下まつげが銭形警部なみにパリッとはえそろってるのがカッコイイ!

 つまり、一瞬ではあったものの原作マンガの風貌を見せているということは、このアニメ第3期・第4話でのぬらりひょんが、「過去」のマンガ版ぬらりひょんと「これから」の大悪役ぬらりひょんとをつなぐ重要なジャンクションの役目を果たしているということになるのです。
 そして! もうひとつ重要なのは、このエピソードのぬらりひょんだけが、アニメ第3期の中で「担当声優」が違っているということなんですよ!!

 アニメ第3期でのぬらりひょんの「声」といえば、言わずと知れた激シブ名優・青野武の名前が挙がるかと思われるのですが、実は超有名な青野さんはアニメのぬらりひょん声優としては3代目にあたり、アニメ第1期の槐柳二(さいかち りゅうじ)さんに続いて2代目をつとめたのはベテラン声優の千葉耕市(54歳)さんでした。
 そう、その後何度となく復活を遂げる第3期のぬらりひょんだったのですが、鬼太郎との最初の対決となるこの第4話だけは、青野さんではなく千葉さんがぬらりひょんの声をつとめているのです!

 なにゆえ、初登場という重要なこのエピソードだけ声優さんが違うのか……

 ここで見逃してはならないのは、千葉さんの声質!

 千葉耕市さんは、一言でいえば「にごったおじいさん声」の第一人者。
 彼のキャリアは、アニメの声優と同じかそれ以上に洋画の日本語吹き替えに定評があり、往年のホラー映画の名門、イギリスのハマープロで数々の名演をみせたクリストファー=リー(ドラキュラ伯爵など)やピーター=カッシング(ヴィクター=フランケンシュタイン博士など)の吹き替えを担当していました。とにかくホラーに水の合う声だったんですね。
 あと、千葉さんの仕事として特に有名なのは、あの『ロッキー』シリーズの老コーチ・ミッキー(演・バージェス=メレディス)役ね! これは当然おどろおどろしい役柄ではないのですが、歳月のこもった味わいのあるダミ声をいかんなく発揮しています。
 アニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』では、千葉さんはのちに劇場版第4弾の『激突!!異次元妖怪の大反乱』(1986年12月)で、ゲスト妖怪「ぐわごぜ(ガゴゼ)」役として、青野ぬらりひょんとの夢の共演を果たしています。

 とにかく、ひょうひょうとした軽さゆえに逆に怖かった初代・槐ぬらりひょんに比べ、正攻法で悪賢いジイさん妖怪を演じた2代目・千葉ぬらりひょんは「老獪」を絵に描いたようなピッタリぶりで魅せてくれていました。
 ただし大切なのは、そうでありながらもついついゲゲゲの鬼太郎を見くびって大失敗してしまう「ツメの甘さ」があること! 朱の盤ほどじゃないけど、どこかおっちょこちょいな感じがあるのねぇ。この愛嬌がなければ、いくら悪くてもぬらりひょんじゃあないんだなぁ。

 で、千葉ぬらりひょんはのちに見事復活した時の3代目・青野ぬらりひょんに比べると、実年齢から言ってもいかにも老人然としています。当時、千葉さんは54歳で青野さんは49歳ですね。
 つまり、自分の悪事が大成功してのほほんと余生を送ろうとしていた老人ぬらりひょんが、にっくき鬼太郎に出逢ってしまい敗北のズンドコに落とされ、復讐の熱意のあまりに若返ってゼロからの「妖怪総大将」ロードの出発を始めるという起伏の激しいぬらりひょんサーガにおいて、迫力のある青野さんが最初からぬらりひょんではいけなかった! どうしても「火がつく前の」老人ぬらりひょんを演じてくれる声優さんが必要だったのであります!!

 現代に通じる妖怪総大将ぬらりひょん。そこには必ず、アニメ第3期序盤での「総大将らしくないアブラのぬけた千葉ぬらりひょん」という前提が必要不可欠だったのです!
 さっすがアニメ第3期。なんという巧妙な設定構成!


 まぁ……そんなことよりも、声優さんのスケジュール上の都合とか、「ぬらりひょんがそんなによく出てくるレギュラーになるとは当初思ってもみなかった。」とかいうスタッフさんの事情とかがあるんでしょうけどねぇ。
 実は3代目を担当する青野さんは、この千葉ぬらりひょんの活躍するアニメ第3期・第4話の前週にあたる第3話に悪役の「猫仙人」役として出演しており、
「2週つづけて同じ声優さんがジジイ妖怪を演じるのはちょっと……」
 という配慮もあったのではなかろうかと、勝手に私そうだいはふんでおります。子どもが混乱しちゃうから!


 さぁさぁ、アニメ第3期の第4話はだいたい原作どおりだったわけですが、ここからついに! やっと! 新生・青野ぬらりひょんのサクセスストーリーが始まるのでありましたっ。
 無二のパートナー・朱の盤も加わったぬらりひょんの「妖怪総大将への道」。

 これからいったい、どんなことになるのやら~!?
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