長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

真の妖怪総大将とは!? ~ぬらりひょんサーガ 第15回~

2011年10月24日 14時34分06秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
《前回までのあらすじ》
 バブル期の過剰なエネルギーにまともに乗ったかたちでスタートしたアニメ第3期『ゲゲゲの鬼太郎』。
 水木しげるテイストから自由に逸脱したこのシリーズは足かけ4年、全115話にわたる大ヒット作となり、正義のアクションヒーロー・鬼太郎に対峙する悪の大ボスキャラとしてのポジションにいつの間にかおさまっていた我らが妖怪ぬらりひょんは、未曽有の「妖怪総大将景気」に大いにわくこととなったのだった!
 まさか、洋装軍服にサーベルをひっさげて凶悪妖怪軍団をしたがえたり、鬼太郎に顔をかち割られて国会議事堂のてっぺんから墜落したり、挙げ句の果てには身長50メートルの巨大ゾンビになり果ててしまうとは……
 にやけた顔をして遊郭に出入りしていたあのころがなつかしい。っていうか、瀬戸内海に帰りてぇ!!


 まぁ~こういったノリでさんざん悪者扱いされてしまった妖怪総大将ぬらりひょんだったわけなのですが、ぶっちゃけ悪の大ボスの立ち位置は「悪賢そうな顔をしている妖怪」ならば誰でも良かったようで、ぬらりひょんが彼本来の個性を発揮しているシーンはほとんどありませんでした。ひたすらその悪そうな雰囲気と、人も妖怪も誰彼かまわずだまくらかす知能と舌があったというだけ。いや、そこがぬらりひょんのパーソナリティそのものといえばそうなんですけど。

 とにかく、昭和末期の「第2次妖怪ブーム」でてんてこまいの働きぶりを見せることとなったぬらりひょん先生(と朱の盤)だったものの、それがアダとなってしまったためか、そもそもの鬼太郎サーガの創造主である水木しげる先生に完全に無視されてしまったという哀しい現実は、前回の『新編 ゲゲゲの鬼太郎』の項でふれました。
 あくまでも、水木先生の中にいた妖怪ぬらりひょんは『週刊少年マガジン』版(第2シリーズ)や『週刊実話』版(第6シリーズ)に登場する「ひょうひょうとした悪人」なのであって、鬼太郎への復讐に執着しつつ日本妖怪を統べる総大将になろうという野心に燃えるアニメ第3期での「確固たる信念を持った悪人」というキャラクターにはまるで興味が湧かなかったのではないでしょうか。

 ところが、TVアニメという爆発的な浸透力を持つメディアの中で、「鬼太郎のライバルといえばぬらりひょん!」というイメージを第3期がここまで広めてしまった以上、さすがに水木先生も相手にしないでい続けるわけにもいかなくなったのか、ついにぬらりひょんは原作マンガの中で3回目、2011年の現時点では最後となる出演を果たすこととなりました。素晴らしい、水木先生とアニメ第3期との和解ですよ!


 その瞬間は、アニメ第3期が無事に終了し、「平成」の時代が幕を開けてすぐの1991年にやってきました。意外とすぐだったのネ。

『鬼太郎国盗り物語 決戦!箱根城!!の巻 前後編』(1991年7~8月 講談社)

 これは、講談社の『月刊コミックボンボン』(第18話から『月刊DXボンボン』に移籍)で連載された鬼太郎サーガ9番目のシリーズ『鬼太郎国盗り物語』(1990年11月~93年3月 全28話)の第9~10話にあたり、箱根山中にあるという妖怪城(たんたん坊先生の妖怪城やアニメに何回か登場した妖怪城とは別の本格的な城塞)に籠城した日本妖怪軍団の大激戦をつづった白熱のエピソードとなっています。

 1990年の秋、「水木しげる画業40周年」を記念し満を持して開始された新シリーズ『鬼太郎国盗り物語』は、残念ながらいまだにアニメ化はされていないのですが、パッと見は「雷虎」「旧鼠王」「魔女ゴルゴーン」「五徳猫」といったゲスト妖怪を鬼太郎が退治するといったおなじみの一話完結もののようでありながら、連載が進むにしたがって、徐々にそれらを背後からあやつっていた太平洋の地底に住む地球の先住民族国家「ムー帝国」の日本征服の野望が見えてくる、という長編ストーリーの骨格も持ったシリーズとなっていました。これに続く第10シリーズ『鬼太郎霊団』(1996年2月~97年3月)が実質3回で頓挫してしまったため、現時点では「ちゃんと完結した鬼太郎もの」としては最後のシリーズとなっています。

 また、おなじくアニメ化と縁がない第7シリーズ『雪姫ちゃんとゲゲゲの鬼太郎』(1980年8月~81年6月 少年画報社『月刊少年ポピー』連載 全11話)のメインヒロイン「雪姫ちゃん」のように、鬼太郎の兄弟と目される新キャラクター「寝太郎」が登場するという衝撃の展開もあり、めずらしい悪女キャラクター「毒娘」や、まわしをキリッとしめて鬼太郎と因縁の相撲対決にいどむ「バックベアード」(本当)が活躍したりと、なんでこれがアニメ化されていないのかが不思議でしょうがない相変わらずの水木ワールド大爆走が観られる素晴らしいシリーズとなっています。現在は全3巻の角川文庫版と全5巻の講談社ボンボンコミックス版が手に入りやすいでしょうか。

 物語の設定によると、ムー帝国の国民はどうやら人類と妖怪っぽい種族が混在しているらしく、善良な国民と皇帝一家をさしおいて帝国を牛耳った妖怪系の総理大臣と大臣の「歯痛殿下」が、配下の軍勢や賛同する世界の妖怪を率いて日本に侵攻するという筋になっており、それに対する鬼太郎ファミリーが日本や世界各地の悪役妖怪を倒しながらムー帝国首都に攻めのぼっていくという、タイトル通りの「国盗り物語」となっております。


 さて問題のぬらりひょん先生なのですが、この『鬼太郎国盗り物語』では、なんと大方の予想を裏切って「正義側の頼りになる助っ人」として大活躍するんだなぁ!!

 物語の前半戦、ムー帝国が復活させた古代日本の大魔王「凶王」ひきいる「巨大はにわ軍団」が、鬼太郎ファミリーの籠城する最終拠点・箱根の妖怪城を完全包囲。
 妖怪城の落城も目前となり絶体絶命の危機に陥った鬼太郎たちでしたが、そこにさっそうと現れたのが羽織袴姿のりりしいぬらりひょんだった! でも、顔は『マガジン版』のまんまのにやけ顔。


「鬼太郎。今は過去の因縁を語っている場合ではない。
 日本の妖怪の存亡にかかわる危機ならば、ここは手に手を取り合ってともに闘おうではないか。」

 そ、総大将ォオ~!!

 言葉少なに「過去の恨みは水に流す」と言い切った漢気あふれるぬらりひょん。
 原始時代に流されたことも、三原山の火口に落とされてドロドロのゾンビになったことも、地獄の血の池に突き落とされたこともぜ~んぶ忘れてくれるというのか……ちょっと、いくらなんでも水に流しすぎなんじゃないかと思えてしまうような大物っぷり。

 ともあれ、ここでのぬらりひょんはアニメ版とはまるで違う「妖怪総大将」ぶりを見せつけてくれます。水木しげるによる原作マンガの世界で彼が日本妖怪の軍勢を指揮したのはこれが唯一!
 ぬらりひょんは扇をひるがえし、「一つ目小僧軍」「化け狸軍」「カラス天狗軍」「輪入道軍」といった複数の軍隊をムー帝国軍に激突させます。一つ目小僧って、そんなに部隊を組むほどバトル向きか……?

 思わぬ日本妖怪軍の猛攻にひるんだムー帝国軍は巨大な雲のような生物兵器「ひとだま」を投入。ひとだまはあらゆる妖怪を呑み込んで再び鬼太郎側は劣勢に陥ります。やっぱりダメか?
 しかし、ここで総大将ぬらりひょんは、動揺して退却案を口にしだす日本妖怪たちを一喝。

「だめ!! 退却する必要もないし、城もまもれる。」

 そう言ってぬらりひょんが最後に召喚したのは、その「ひとだま」を大好物とする妖怪「ひとだま喰い」!! 誰!?
 「ひとだま」よりもさらに大きく、妖怪「野槌(のづち)」が空を飛んでいるような、南方の妖怪「ペナンガラン」のような口だけがついた、ニュルっとした謎の妖怪「ひとだま喰い」。

 登場するや、「ひとだま喰い」はあわてて逃げようとする「ひとだま」をツルツルッと食べてしまい、げっぷをひとつして、

「ごっつおさんでした。」

 という一言を残して、唖然とする両軍オーディエンスをしりめに飛び去っていくのでした。

 ……ハッ!? 日本妖怪の勝利だ!! やった~。


 まぁこういった、いきあたりばった……いや、的確な采配をふるって日本妖怪存亡の危機をみごとに救った妖怪総大将ぬらりひょん!!
 鬼太郎と固い握手をかわしたあとはひょうひょうと去っていき、その後の鬼太郎ファミリーによるムー帝国への反撃にはいっさい関わってきません。カッコエぇ~。
 正確に言えば、先ほどにもふれた貴重なバックベアードの力士ルックが観られる第20話『妖怪大相撲』(1992年7月)の巻に親方衆の1人としてチラッと出演しているのですが、これはお遊びということで。

 やっぱり、水木しげる神先生の手がける「妖怪総大将ぬらりひょん」は、ひと味ちがうわ。


 思わぬ頼もしさを見せてくれるワンポイントリリーフとして出演したぬらりひょんだったのですが、こういった意外な一面を発揮して始まった「平成のぬらりひょんサーガ」は、その後、昭和以上に起伏に富んだ道のりを歩んでいくこととなるのでした。

 次回は、待望のアニメ第4期『ゲゲゲの鬼太郎』にいく「まで」の、ぬらりひょん先生のアルバイトみたいな活躍を2つ紹介したいと思いま~す。

 キーワードは、「忍者戦隊」と「地獄先生」。あんびりーばぼー!
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