長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

時をかけるじじい ~ぬらりひょんサーガ 続百鬼・明~

2011年10月05日 14時27分24秒 | ゲゲゲの鬼太郎その愛
《前回までのあらすじ》
 恐怖の落とし穴&コンクリート詰め作戦によって鬼太郎を倒したかのように見えた凶悪妖怪ぬらりひょん!
 しかし、驚異的な生命力の鬼太郎は右手首を分離させ、「鬼太郎憑き」を駆使してぬらりひょんを苦しめる。
 命の危険を感じたぬらりひょんは盟友・蛇骨婆の助けをえて鬼太郎の右手を分離させることに成功し、ただちに反撃に転じるのだった!


 蛇骨婆のまさかの「ぬらりひょんの手ごと直火焼き」作戦によって、たまらず分離した鬼太郎の右手首。
 しかし、蛇骨婆の家から抜け出した手首はトテトテと5本の指を使って疾走し、古代岩の落とし穴でコンクリート詰めになっている鬼太郎本体(とねずみ男)のもとに駆けつけます。
 どこかから拾ってきたカナヅチで必死にコンクリートを叩き壊す手首!
 苦労の甲斐あって、上半身を地上に出した鬼太郎は右手首をもとに戻し、フーよっこらせっとコンクリート穴から立ち上がろうとします。

 ところが、その鬼太郎の胴体を持って引きあげる2人の影!
 ぎょっとする鬼太郎。助けたのは他ならぬ、ぬらりひょんと蛇骨婆のシルバー妖怪ペア。なぜ?


ぬらり「鬼太郎さん! ほんとにえらいあやまちをしてしまって、ぼく、とても反省してるんです。」
蛇骨婆「鬼太郎さん! ぬらりひょんがとんだことをしまして、ゆるしてくださいね。ひひひひひ。」

 まさしく手のひらを返したような物言いで鬼太郎に平謝りする2人。

鬼太郎「(穴を指して)この中にもうひとり(ねずみ男)いるんですけど……」
ぬらり「ま、そんなのあとでもいいじゃないの。」
蛇骨婆「さ、そこで甘酒でものみましょ。」
鬼太郎「甘酒? そりゃあ気がききますなぁ。ぼくも長いあいだ飲んでいないもんですからねぇ……」


 蛇骨婆は、甘酒が入っていると思われる、栓をした古風な壺を持っていました。
 甘酒のもてなしに態度を軟化させる鬼太郎。親友であるはずのねずみ男の救出よりも甘酒を優先させたのは、ねずみ男の強靱な生命力を信頼したからだったのだ……たぶん。

 言うに及ばず、甘酒は罠。
 蛇骨婆の持っている壺はあらゆる物体を吸い込み封印してしまう「魔法の壺」であり、甘酒に酔っぱらった鬼太郎を中にシュポン! 永久にサヨナラ、というのがぬらりひょんの考えた第2の作戦だったわけなのです。
 さすがは凶悪妖怪。みずからが苦労して相手と闘うという発想はまるでありません。使えるものは友だちの秘蔵武器でも使う! ジャイアンイズム全開だ……

 一見、甘酒の話を信じきってウキウキしているような鬼太郎だったのですが、なぜか飲む場所だけは指定し、藁でできた小さなあずまやのような無人の建物に2人を連れていきます。


蛇骨婆「どこでもようごさんすよ。ひひひ。」
ぬらり「(ひそひそ声で)成功しそうだよ。」


 鬼太郎が親切心で飲む場所を用意してくれたと思いこんだ2人は、早すぎる勝者の余裕で鬼太郎の誘うあずまやに入りますが、中には、直径1メートルもの巨大な石ウスが意味ありげに置かれていました。十数本の取っ手がついた、船のかじを横にしたようなフタがあり、これを回して中の穀物を挽くという形式の本格的なものです。ここをカウンターにして立ち飲みしようというのか?


ぬらり「あっ、これはなんですか?」
鬼太郎「ああ、これ。なーに、これをまわすと外の景色がかわるんだよ……まぁ、いってみれば、ぼくの映画かも知れないね。」

 かなりの上から目線で自分のホームシアターらしきものを説明する鬼太郎。窓の外の風景が変わる? がぜん興味を示すぬらりひょん。

ぬらり「おばば! さっそくまわして見ようじゃありませんか。」
蛇骨婆「その前に甘酒を一ぱいずつのもうや。」


 さすがは水木しげる神先生! ここで注目しておきたいのは、「テンションが上がって大事な目的を忘れてしまう男子」ぬらりひょんと、「目的が気になっていまいち場の盛り上がりについていけない女子」蛇骨婆の対比が見事に描写されているところなのね。
 嗚呼、男と女……妖怪の世界でも永久に埋まらないミゾは確かに存在していた。

 ともあれ、少なくともこの場では蛇骨婆の冷静な判断の方が断然正解だったはずなのですが、年甲斐もなく鬼太郎の自慢にアツくなってしまったぬらりひょんは、甘酒作戦もそっちのけで石ウスを回してくれとせがみます。

 リクエストにこたえ、巨大な石ウスを左へ左へとクルクルかろやかに回す鬼太郎。
 すると、鬼太郎の言った通り、見る見るうちに外に広がる天気が変わり、季節が変わり、生えている植物の種類が変わり、地形までもが変わっていきます。
 昨今の3D映画ブームにさかのぼること40年以上! 1967年当時では東京の一流映画館でも観ることができなかったド迫力の光景に度肝を抜かれる2人。
 思わず、冷静だったはずの蛇骨婆までもが見とれてしまいます。


蛇骨婆「うわあっ、おもしれえや……もっとまわしてみろよ……」
ぬらり「あっ、マンモスだ!」


 いつしか外では、石ヤリを手にした原始人たちがマンモスを取り囲む壮絶な狩りが展開されていました。
 そう、鬼太郎の招いたあずまやは、中にある石ウスを左に回せば回すほど空間を過去に逆行することができる一種のタイムマシンのような装置だったのです! これは男子にはたまんねぇや!!
 そして、マンモスと原始人がいるということは、この時点であずまやは旧石器時代、少なくとも3万年前の世界までさかのぼっていたことに。

 なんというダイナミックアトラクション! 汗びっしょりで興奮してしまったぬらりひょんは、ついに窓の外に身を乗り出してしまいます。


ぬらり「おばば! あの活劇を外に出て見よう。」
蛇骨婆「おい! あわてるでねえ……」


 さすがにこれはなんかヤバいと思ったのか、ぬらりひょんを静止しようとする蛇骨婆。

 しかし。この瞬間を鬼太郎は待っていたのだ……

 すかさず、ぬらりひょんと蛇骨婆を後ろからあずまやの外に押しだし、魔法の壺もぽいっと外に投げて、なんの良心の呵責もなく石ウスを「右」にクルクル回しだす鬼太郎!
 「左」に回して過去に行くとしたら、「右」に回せば……

 あずまやは一転、老いさらばえた爺さまと婆さまをマンモス時代に取り残して未来へと急進していきます。
 外に出た瞬間にパッと消えてしまったあずまやを見て、2人の胸に去来したものはなんだったでしょうか。


思ったよりも   夜露はつめたく
2人の声も    ふるえていました
「僕は君を」と  言いかけた時
街のあかりが  消えました
もう星は帰ろうとしてる
帰れない2人を残して       (作詞・井上 陽水)


 『墓場の鬼太郎 妖怪ぬらりひょん』、完。


 以上です……

 いや、ほんとほんと!
 実はですね、水木しげるが描いた純粋な「ぬらりひょんと鬼太郎との対決」は、『週刊少年マガジン』で1967年10月に展開されたこの1回(前後編)だけなんですよ!
 つまり、この回に登場した凶悪妖怪ぬらりひょんと連れの蛇骨婆は、3~5万年前の旧石器時代に置いてきぼりにされたまま、それ以降現代日本には戻ってこなかったのです……死んじゃった?

 ただし、蛇骨婆に関しては確かにそれっきりなんですが、正確に言えば、ぬらりひょんは以後、水木しげるによるマンガの世界に「2回」再登場しています。
 ところが、具体的にはそれぞれの時に説明しますが、「あの時マンモス時代に流されたぬらりひょんと同一人物かどうか怪しい」や、「どちらかというとアニメ版の設定よりのゲスト扱いになっている」という理由もあり、最初の「無差別爆弾テロを楽しむ凶悪妖怪ぬらりひょん」その人が復活することは、水木先生本人の手ではいまだ実現していないのです。

 要するに、のちのち『ぬらりひょんの孫』のヒットまでに拡大していく強力な「妖怪総大将ぬらりひょん」イメージは厳密な意味では水木しげるの発案ではなく、その点ではぬらりひょんは、今や「鬼太郎にとってかけがえのないヒロイン」にまでのぼりつめてしまったあの猫娘と非常に似た距離感を原作マンガとのあいだに持っているのです。良くも悪くもアニメのほうが影響が大きいんですね。


 ともあれ、以上のごとく、鬼太郎の秘技「先祖流し」(あのあずまやが原作で使用されたのは、この1度だけ!)によってあっさり葬られてしまった妖怪ぬらりひょんだったのですが、この『墓場の鬼太郎』の大ヒットによって始まった戦後初の「妖怪ブーム」の波に乗って、虎視眈々と妖怪総大将の座をねらいながら命脈をたもっていくこととなります。

 原作ではさっさと退場せざるをえなかったぬらりひょんがどうやって有名になっていくのか?
 おのれ鬼太郎! 復讐の炎に燃えるぬらりひょんのサクセスストーリーは、まだ始まったばかりなのだ~。
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