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映画「U-571」〜"He torpeded me ! "(撃沈された気分だよ)

2019-07-15 | 映画

「U-571」というタイトルを見て、「Uボート」以来のドイツ潜水艦映画かと
ワクワクしながらクリックしてみたら、そうではなく
アメリカ映画で、しかも
エニグマ暗号機が絡んでいるらしいと知り、全く別の興味が湧いて、
結局観てみることにしました。

わたしはアメリカで第二次世界大戦時の軍艦を見学していたとき、どこかに
(戦艦『マサチューセッツ』だったと記憶)ぞんざいに展示してあった
このエニグマ暗号機を実際に目にしたことがあります。

当時まだ予備知識がなかったわたしには、現在進行形で見ている
「タイプライター」が
あのエニグマだとは信じられませんでした。

ただ、ドイツではエニグマは3万台以上発売しされ、軍のみならず
政府や国営鉄道などにも普及していましたから、そのうち一つが
戦後アメリカの軍艦内に展示されていても、不思議ではないのかもしれません。


エニグマを題材にした有名な映画は、

『エニグマ奇襲指令/ベルリン暗殺データバンクを強奪せよ!』(1982年英仏)

エニグマ』(2001年ドイツ/イギリス)

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014年、英=米)

などがありますが、これらがエニグマの解読を主題としているのに対し、
本作「U-571」は、暗号機本体を強奪する作戦を描いた異色作です。

ただ、しょっぱなからなんですが、エニグマの解読は、運用が始まってすぐ
イギリスを中心に試みが始まり、主にスパイ活動によって鍵と暗号が盗まれて、
各国がしのぎを削ってきたのであり、Uボートから本体を盗みだすことで
解読が捗った、というような単純なことではないのです。

そもそも、1941年5月に暗号機を手に入れたのはイギリス軍であり、
アメリカ海軍の潜水艦がUボートから捕獲した史実もありません。

残念ながら、物語の核となるエニグマ強奪は架空の作戦であり、
アメリカの潜水艦をヒーローとして描くための創作である、
という冷徹な事実(笑)を最初にお断りした上で始めましょう。

1942年の春、ドイツのU-571艦長が潜望鏡を覗き込む
👁こんな眼球のアップから映画は始まります。

開始から何分かは、まるで「Uボート」をみているかのような、
ドイツ海軍の潜水艦の描写をお楽しみいただけるというサービスシーン。

イギリスの貨物船を撃沈して、声を殺しながら喜ぶUボート乗員たち。

勝利を喜んだ次の瞬間、U-571にロイヤルネイビーの駆逐艦が迫ってきました。
ここからのカメラアングル、錘になる乗員たちが、全員でだだーっと
艦首に向かって突進していく様子、まさに「Uボート」そのままです。

Uー571のギュンター・バスナー艦長を演じているのは、トーマス・クレッチマン。
「ヒトラー最後の十二日間」や「ワルキューレ」「戦場のピアニスト」で
ナチの軍人を演じています。

雨あられと景気よく落とされる爆雷でU-571はもうぐちゃぐちゃに。
機関室は全滅、エンジン一部故障、電気系統故障・・・。

そこで、艦長はベルリンにエニグマで救援を要請することにしました。

雰囲気は一転、白い軍服に身を包んだパーティ会場に場面が変わります。
場面設定は5月ですが、全員が夏の白い軍服を着ています。

これは、潜水艦内のシーンばかりが続くこの映画の中で、唯一、
白い軍服の軍人さんたちやドレスアップした女性が出てくる華やかな画面で、
S-33の水雷長ラーソン少尉のウェディングパーティも兼ねています。

(少尉がウェップス?というのには突っ込まないように)

美しい花嫁とダンスするイケメンのラーソン少尉を見ながら場を持て余す、
あまり女に縁のなさそうな水兵くんたち。

左から”タンク”、マッツォーラ、”ラビット”。

S-33の副長、アンドリュー・タイラー大尉はクサっていました。

副長就任後、艦長のダーグレン少佐の下で頑張ったつもりなのに、
艦長は彼を艦長に昇任するための推薦状を書いてくれなかったのです。

パーティ中にも関わらず艦長に文句を言いにいく、空気読まないタイラー。
(マシュー・マコノヒー。艦長は”アポロ13”に出ていたビル・パクストン)


米海軍の昇進システムについて知らないのでなんとも言えませんが、
艦長に昇任するのに別の艦長の推薦状がいちいち必要なんでしょうか。

まあ、英語のサイトでも、これについては誰もツッコんでいなかったので、
そういうこともあるのかもしれません。

ただ、これだとひとりの上司に嫌われたらもう出世はできないってことよね。

艦長に食い下がるも、(っていうか、今更撤回させることができると
本気で思っていたとしたらかなり認識が甘いのでは・・)

「話は終わりだ(It's done.)」

とまで言われてしまったタイラー、やけくそで飲んでると、
年功章を洗濯板のようにつけたCPOのクラウ伍長(ハーヴェイ・カイテル)

「どうしました」

「撃沈された気分(He torpedoed me, chief.)

「また他にチャンスはありますよ」

「え・・知ってたのか?」(動揺)

スチュワードのカーソン(演じるのもテレンス・カーソン)にも、

「次は艦長になれますって」

「え・・知ってたのか?」

あー、なんなんだこの状態。なんで皆オレが艦長なれなかったって知ってるの。
もしかしたらオレ、みんなに同情されてる?

そこにいきなりMPが乱入してきて、パーティズオーバー。
出撃を命じられ、岸壁にいくと、S-33はなにやら改装工事の途中です。

まるでナチの潜水艦みたいだ」

正解ですエメット大尉。
ナチの潜水艦に見えるように工事してるんですよ。

右側のピート・エメット大尉はアンディのアナポリス同期。
ジョン・ボン・ジョビが演じています。

艦長はこの任務が特殊であることだけを総員に告げます。

ちなみに、艦長の訓示が終わると、副長が「気を付け」と号令をかけますが、
この時英語では、

「アテーーーンション!」

といっています。

艦長命令でタイラーがウェンツという水兵を資材室に連れて行くと、
そこには海軍情報部から来たというハーシュ大尉が控えていました。
そこにいた潜水艦隊司令に、いきなり

「He's the boss.」(彼に従え)

とかいわれて、またしてもムカッとする(多分)タイラー。

ハーシュ大尉は、いきなりウェンツにドイツ語で話しかけてきました。
ウェンツもそれにペラペラとドイツ語で答えてタイラー大尉唖然。

これは今回の任務に必要なドイツ語が話せるかどうかのテストだったのです。

ちなみにハーシュ役のジャック・ウェーバーはロンドン生まれ、ウェンツの
ジャック・ノーズワージーはボストン生まれのボストン育ちで、二人とも
ドイツとはなんの関係もありません。

ウェーバーはジュリアード音楽院、ノーズワージーはボストン音楽院卒で、
「ジャック」以外にも音楽共という共通点があるようですが。

この時、ウェンツは自分がブラウン大学(超名門校!)を出ている、といいます。

作戦のために、海兵隊からクーナン少佐なる偉そうな人も乗り込んできます。
そしていよいよ出航。
潜水艦初体験の彼らは珍しそうに潜行作業を見守っています。

出港後早速潜行することになり、ここで先任伍長が

「ダイブ・ダイブ・ダイブ!」

と三回いいますが、普通は二回だけだそうです。

沖に出てから乗員に作戦の全容が明かされました。

「昨夜エニグマを使って信号を打ったU−571を確認した。
我々はドイツの補給潜水艦のふりをして内部に乗り込み、
制圧後、エニグマ暗号機を奪う」


ここで、Uボートの乗員が、昨日撃沈したイギリス船のボートを
銃撃して殺すというシーンがあります。

しかし、基本Uボートの乗員は条約を遵守し敵を殺しませんでした。
大戦中におけるUボート行動記録の数千時間中、海上で撃沈した
敵を殺したという記録はわずか一件のみだったそうです。

わたしのアメリカ人知人(GEの偉い人)の父親は、海軍予備士官として
乗っていた船がUボートに撃沈され、漂流したのち、命からがら
生還した、
という壮絶な経験を持っていたそうですが、父親の話によると、
総員退艦後乗り込んだ救命ボートの近くに船を沈めたUボートが浮上し、
艦長が艦橋から、

「君たちの船を沈めてすまなかった」

と英語で丁寧に謝っていったということです。

Uボートの艦長は、救命艇に水は持っているのかと聞いたものの、
くれるわけでもなく行ってしまったそうですが、Uボートにしても水は貴重だし、
ましてや潜水艦に捕虜を収容するスペースなどあるわけがありません。

洋上の救命ボートの上ではこれから壮絶な生きるための戦いが始まるのです。

このシーンでバスナー艦長は救命艇の敵を射殺する命令を下しますが、
考えようによっては彼らに対する慈悲だったということもできるでしょう。

そして、このシーンは、のちの展開に対する伏線にもなっています。

バンク(兵員用ベッド)では、水兵たちが女の子の話をしたりしていますが、
中には潜水艦事故の話をして仲間を怖がらせるヤツも。

「ノーフォークのテストでS26は400フィート沈んでこうさ」(卵グシャ)

あー、いるよねこんなヤツ。

これは史実ではなく、実際のS26はパナマ沖で駆逐艇と衝突し沈没しています。

それはともかく、当時の潜水艦における食糧事情を考えた場合、もしこんな風に
卵を握りつぶしたりしたら、その途端周りからえらい目に遭うと思うのはわたしだけ?

しかし、周りの連中をビビらせるには十分で、

「ゴクリ・・・・・」

艦長はタイラーが艦長になれない理由を今更説明します。

「同期のエメットを例えばいざという時犠牲にできるか?下士官たちは?
君はきっと迷うだろうが、艦長は迷ってはいけない」

まあそうなんですけどね。

それが艦長になれない理由なら、今後タイラーが艦長になれる可能性は
ほぼゼロということになりませんかね。
だいたいダーグレン艦長、実戦に出たこともないのに、(ですよね)
アンディがいざという時ダメダメだって何を根拠に決めつけるのか。
副長として優秀、と実際にも認めているならもっと事務的に昇進させてやれよ。

実際には、アメリカ海軍ではこういうことが起こらないように、
XOを艦長にするときには必ず新しい艦に割り当て、今までの部下との
人間関係はほぼ消滅する環境で指揮を執れるように配慮したそうです。

だから、この映画のプロットにも前提から大きな穴があるってことなんですね。
しかし、言われたアンディは深刻にこれを受け止め、

「そうなんかな。オレ、迷ったりするかな」

考えながら通りかかった部屋では、ラーソン少尉が新妻に手紙を書いていました。

海上航走で揺れまくる中での食事にも平然としている潜水艦野郎に対し、
どうにも調子が出ない海兵隊と情報将校のおふたり。

そこに目標のUボートらしき艦影を発見したという知らせが入りました。

襲撃班に選ばれたタイラーは、自室でスクールリングを外しました。
鏡に貼ってある写真が犬であることに注意(笑)

パーティの時も一人だったし、もしかしてタイラー、もてない君?

この襲撃班なんですが、海兵隊、情報将校、ドイツ語が喋れる水兵はわかるとして、
XOのタイラー、エメット、ソナーマン、先任伍長、通信士まで含まれています。

常識的に考えて、こういうメンバーはフネに残しておくべきなのではないか、
とわたしが艦長なら思いますが、映画のストーリー的にはそれでは困るのです。

何故なら・・・・・おっと。

 続く。





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2 Comments

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迷ってはいけない (Unknown)
2019-07-15 07:52:21
>米海軍の昇進システムについて知らないのでなんとも言えませんが、艦長に昇任するのに艦長の推薦状がいちいち必要なんでしょうか。

これは軍隊だけでなく、民間でもそうだと思います。人事考課に「昇進不適」と書かれたら、人事担当者は昇進させないと思います。

なお、米軍は厳しくて、大尉になって少佐への昇任に最低限必要な勤務期間を過ぎた後、三年間連続で上司から「昇任不適」しかもらえない場合には辞めなければなりません。この措置で少尉に任官した士官の数は半減します。これが米軍の強さの大きな理由の一つだと思います。

>「同期のエメットを例えばいざという時犠牲にできるか?下士官たちは?君はきっと迷うだろうが、艦長は迷ってはいけない」

これも軍隊とか民間とか関係なく「言えてる」と思います。組織は緊急時には「民主主義」でやっていては前に進めません。「迷ってはいけない」のです。

人は基本的には人から命ぜられて何かをやることに抵抗がありますが、それを全部「民主主義」でやっていたら、災害等の緊急時には立ち行かなくなります。

軍隊でも民間でもそうですが、中間管理職だと役職でない人に近い分、どうしても下の人の考えに近くなりがちです。ある程度は汲まないと組織はやって行けませんが、同時に組織全体として、あるべき方向を追求しないといけません。そこに折り合いをつけられないと、今より上には行けないということでしょうか。

今ちょうど参院選挙を控えていますが、与党と野党の根本的な差異はここにあると思います。与党を支持する人は、公共の福祉のためには、ある程度、個人の自由が制限されることも致し方なしとする「公共心」の持ち主だと思いますが、野党はどんな条件下でも個人の自由の制限に抵抗する人のようです。だから、どれだけ話し合ってもお互いに理解し合えないんじゃないかと思います。

いざと言う時には「迷ってはいけない」んじゃないでしょうか。
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Uボートの戦法 (お節介船屋)
2019-07-15 11:32:08
狼群戦法と呼ばれ、1939年10月から西大西洋で試行、1940年6月から実施、1943年3月戦果がピークに達しました。当初はUボートのの投入隻数が少なく、失敗しましたが、8隻以上で哨戒線を張り、連合国の船団を捜索、船団を発見したUボートは潜水艦隊司令部に発見報告発信し、追尾しつつホーミング信号で狼群を集結させます。司令部はUボート、航空機からの通信情報を収集、評価・分析し、狼群に配布、統一指揮し、反復攻撃を実施しました。
成功の前提条件に水上航走による機動力とUボートからの電波発射でイギリス側のアスデイック探知不能な夜間水上攻撃での大戦果でした。
レーダーの出現で夜間でも発見、探知攻撃されることとなり、電波発射は高周波方位測定機(HF/DF)により捕捉されるようになり、また圧倒的な連合軍の対潜戦術で戦果は大幅に減少、1944年2月に狼群戦法は放棄されました。
潜水艦に対しては超長波(VLF)による放送通信が常用されましたが海域により違いがありますが深度十数メーターで受信可能であり現代でも使用されているのではと思われます。潜水艦側からの遠距離通信は高周波/短波(HF)が使用されました。これが探知されました。現代は衛星通信や極低周波通信等とのことです。
上記のようにエニグマによる通信内容ではなく戦術によって対応されました。
なおUボートは1,000隻以上が建造され770隻以上が戦没しました。日本が170隻余り建造で約130隻戦没と大きく違います。
参照海人社「世界の艦船」No766
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