
さて、練習艦隊は5月21日に出航し、今現在も平均時速12.7ノットで
一路インドネシアに向けて航行しているわけですが、当ブログでは
少し時間を巻き戻し、体験航海の続きについてお話ししたいと思います。
わたしとTOが格納庫に呼び戻されたのは、出航時間に人員を把握するため、
エスコートの自衛官がグループに招集をかけたからだとわかりました。
出航作業を行うために待機するボースンの皆さん。
職域的には運用員ということになるのでしょうか。
舫を扱うための手袋をきりりと身につけます。
サングラスの幹部は甲板作業を率いる指揮官です。
階級は二尉、旧軍の中尉ですが、このクラスの幹部が束ねるのは
三十人くらいの部隊、ということになっています。
甲板での作業は肉体的にも大変だと思いますが、最近の自衛艦では
女性自衛官の姿をここに見ることは決して珍しくなくなりました。
彼女はタグボートから受け取った牽引用の舫を固定しているようです。
出航を補助する曳船と「まきなみ」が舫で繋がれます。
「あすか丸」、芝浦通船所属の中大型タグボートです。
右舷側ではおなじみの「舫ダッシュ」が始まりました。
引き上げる舫を持って数メートル走って放ち、
また根元に行って同じことを何人かで繰り返します。
着岸した時にサンドレットを受け取り岸壁で行われる舫ダッシュと違い、
この舫は太く結構重たそうです。
この作業に女性が参加しているのを見るのは初めてです。
自衛隊こそ男女共同参画職場ですよね。
ここでふと興味が湧いて、この「舫取り、舫取りはずし」の作業が
民間では金銭的にいくらに換算されるのか調べてみました。
作業を行うのが岸壁なのか、片浮標か、両浮標かで料金は違ってきて、
当然船の大きさによっても違ってきます。
この場合は岸壁での作業なので、小さな船、299トン以下であれば
綱取料 9,500円、 放料5,800円といったものですが、
「かしま」クラスを総トン数5.400トン強だとすれば(最大排水量で計算)
今やっている舫はずしはある会社で19,400円。
ちなみに舫取りは31,700円、基本料金(おそらくどちらも行う)は
51,100円となっていました。
これらは平常の料金であり、
時間外割増 自 6 時 01 分 至 8 時 30 分······ 70%増
自 16 時 31 分 至 22 時 00 分·················· 60%増
自 22 時 01 分 至翌 6 時 00 分··············· 120%増
また、 荒雨雪天(気象庁の発表する注意報発令下)では
自動的に50%増となります。
これらの民間企業の行う舫作業と、海上自衛隊のそれは
どのようにかはわかりませんが、おそらく全く違うものでしょうから、
金銭に換算すること自体、意味がないかもしれませんが。
たくさん写真を撮っているので長時間やっているように見えますが、
実は作業そのものにかかる時間は15秒くらいのものです。
彼らの手袋を拡大して見ると、どの人のものも真っ黒でボロボロです。
昔は軍手で行なっていたんでしょうか。
岸壁の舫が放れると、同時にタグボートが引っ張りにかかりました。
その時、向こう側に自衛隊のタグボートがいるのに気がつきました。
はて、なんでここに?しかも何も仕事をしていません。
これは、後で甲板にいる自衛官に聞いて理由がわかりました。
晴海に「かしま」と「まきなみ」をメザシ状態に係留するのに、
両艦の間に入れていた防眩物を持って帰るために横須賀から来たのです。
YT10くんは、この後「かしま」から防眩物を回収して、
我々と同じ航路で横須賀に向かうことになっています。
タグボートの巨大な巻き取り機をアップにしてみました。
大型船を引っ張るタグラインはタグボートのものです。
艦首側のタグは「武蔵」という東港サービス所属の船です。
「あすか丸」は芝浦通船。
同時に作業を行う船が必ずしも同じ会社ではないみたいですね。
「まきなみ」の作業が終わり、「武蔵」は早速「かしま」に近づき、
「かしま」に今からタグラインを渡すところです。
ここで面白い光景を目にしました。
「あすか丸」の乗員が差し出した虫網のようなものに、乗員が何かを入れています。
トランシーバーのようですね。
タグボートと大型船の間では、トランシーバーや書類などを受け渡しするのに
原始的なようですが、この方法が一番確実で話が早いのだとか。
いつの間にか「まきなみ」は出航しましたが、格納庫の中からは
艦尾にいるダイバーの帽振れしか見ることはできません。
トランシーバーを受け取った「あすか丸」も「かしま」の作業にかかります。
「かしま」の左舷側にYT 10の回収する予定の防眩物があります。
そこに水産庁の漁業取締船「はまなす」が通りかかりました。
この時には知るべくもなかったのですが、写真を点検していて見覚えがあるのに気がつき、
海保の観閲式のパンフを調べてみたら、この子も参加していました。
「はまなす」は、密漁などを防止・摘発し水産資源を保護することを目的に、
水産庁が運用しており、外国漁船の違法操業に対しても
拿捕などの主権行使できるという結構強面のやつです。
乗組員は非殺傷性とはいうものの、手榴弾や警棒で武装していますし、
自身もボディアーマーに身を包んでいます。
HOS302 三連装短魚雷発射管については、もう今やTOの質問に
スラスラと答えられるくらいにわたしも成長いたしました。
「これどうするの」
「海に向かって落とすの」
「どうやって?」
「撃つ時は筒が海の方を向くの」
というか、「むらさめ」見学の時に、船が魚雷を撃つとは知らなかった、
と言って恥をかいたのを忘れたのか君は。
晴海を出港してすぐ、レインボーブリッジの下を通過します。
聞いた話ですが、この橋の下を通れない船って結構あるそうですね。
クイーン・エリザベス二世が干潮のときに通れる高さ、という基準で設計されましたが、
実際に女王陛下は晴海にご来臨されたことはないそうですし、
帆船でも「日本丸」「海王丸」豪華客船「飛鳥」も通れません。
そして、なんと自衛艦のうち半分以上、イージス艦は全部アウトだそうですが、
これは正確な資料を見たわけではないのであしからず。
国際都市である東京の港への入り口なのにこんな微妙な高さなのはなぜかというと、
近くに羽田空港があり、高さに規制がかかっているせいだそうです。
昨今は大型の外国客船が続々と増えているのにも関わらず、
そのほとんどが東京に入港できないというのはかなりの問題かもしれません。
「まきなみ」がレインボーブリッジ下に差し掛かります。
甲板の運要員の皆さんが帽振れをはじめました。
実習幹部らしいこの人も。
どこに向かって帽振れしているのかな?
レインボーブリッジ真下なう。
ブリッジ下の公園で自衛艦旗を振っている人がいたのでした。
この後、もう一度帽振れがあったのですが、なぜかわからなかったので
帽子を振っていた一人に聞いて見ると、
「あそこで自衛艦旗を振ってる人がいたので」
指差す方向を探しましたが、わたしには見えませんでした。
後でメールにより、それが知り合いの一団だったことがわかりました。
余裕でレインボーブリッジ通過。
わかっているけどついつい息を飲んで見てしまいます。
東京湾には実にいろんな船が生息しているものです。
警視庁の巡視船「かわせみ」が通りかかりました。
そして、またしてもわたしはこのとき知るべくもなかったのですが、
この直後海保観閲式で受閲船隊として邂逅することになった
本庁所属HL01、測量船「昭洋」の横を通り過ぎました。
測量船とは、海図、地図の作成や海上工事の資料収集等を目的とした測量、
測地を行う船舶のことです。
自衛隊では艦種記号AGSで「海洋観測艦」と称しており、現在就役しているのは
「わかさ」「にちなん」「しょうなん」の3隻です。
さて、晴海を出港してレインボーブリッジ下を通過した「まきなみ」。
この後には、東京湾航行中に練習艦隊旗艦「かしま」に追い抜かされるという、
ある意味この航海におけるメイン・イベントが待ち受けていました。
続く。
海図の作製に必要な沿岸・海底地形の測量、船舶に提供する海流・海況情報の収集が主務ですが、日本海側の大陸棚調査や防災のため海底の地震観測を実施しています。
「昭洋」は海中への機関の雑音放射低減のため海保初のデイーゼル電気推進船です。
マルチビーム測深機、無人搭載測量艇マンボウⅡ、マルチチャンネル反射法探知装置を装備、改造で海底地殻変動観測装置、海中音速計測装置、浅海用マルチビーム、3タイプの採泥器を装備しました。
平成27年噴火した西之島周辺海域を調査したがマンボウⅡは火口から4キロの噴火警報範囲内も調査しました。
総トン数3,359トン、速力17.6kt、航続距離12,000浬、平成10年三井玉野で建造。
なおわが国の海洋境界に対して、尖閣諸島等への中国等の理不尽な圧力からわが国の正当な主張を裏付けるため既存の測量船に浅海域調査機材を装備するとともに4,000トンの大型測量船を増強することとし三菱下関で1隻建造中でもう1隻の予算が確保されました。
参照海人社「世界の艦船」No881{海上保安庁創設70周年)
海保の船艇のはSマークが描かれるようになって長いのですがまだ船体が灰色で描いていない艇がいます。
このSマークは7つの意味を表しているそうですがどうでしょうか?
Safety,
Search and Rescue,
Survey,
Speed,
Sumart,
Smile,
Service
YT10「えい船10号」は260トンタグですが本年3月竣工のピカピカの1年生のようです。
「まきなみ」の艦橋を大写しにして頂いたので明瞭に分かりますが、前面に防弾板が張り付けてあります。
ソマリア沖海賊対処に出動する場合仮設して、帰国すれば取り外していましたが常設されたのですね。
ただ錆汁が流れますので、取り外して整備が容易ではないので乗員泣かせと思います。数トンかもしれませんが上部に重量物が付いたままだと復原性能上はあまり宜しくありません。
漁業取締船には官船と用船があります。
上の添付したように「はまなす」は水産会社からの用船でした。取締官の乗船や所要の機材の装備で漁業取締船となります。
ただ速力に速い船はいないようなので、金ねんの漁船の速さに対応出来ているのかな?
最後に建造された「ちょうかい」が竣工した後すぐに移転したと聞きました。
お節介船屋さん
YT10君は新人だったんですね。
この後「かしま」と一緒に追いついてきて、ずっと横須賀まで併走していました。
Lはラージですか。
測量船って大きいものなのだなあと観閲式の時に思いましたが、
それだけのものを搭載していれば当然ですね。
測量船について調べた時、その活動は得てして国際紛争のきっかけとなりうる、
ということ、乗員もその責任を常に負って任務に当たっていることを知りました。
>「まきなみ」艦橋の防弾板
何か艦橋下の様子が違うなと思っていたのですが、防弾板だったんですか!
やっぱりソマリア派出の際にはそのような防備を施すものなんですね。
海外派遣と言葉で聞くだけでは、その実情は片鱗もわかることはないのを実感しました。
防弾板をつけたまま遠洋航海に出たのには何か理由があるのかもしれないですが、
もしかしたらはずす時間が無かっただけとか・・?
ラージでは巡視船で総トン数7,350トンの「あきつしま」型が3隻建造中、新型2タイプの6,000トンヘリ搭載船が各1隻、ヘリ甲板はありますがヘリ搭載しない新型、3,500トンが1隻、その他「くにさき」型1,700トン2隻も建造中です。尖閣対応なのかソマリア沖海賊対処に海自と交代するのかそれにしても種類の多い新造です。
また良く分からないのが建造費によって軍艦構造と商船構造があるような説明です。また「しきしま」は核燃料輸送の護衛用に建造されましたが核燃料情勢変化で使用は1回のみでした。対空レーダーやソーナーも装備しているように漏れ聞きますが要目等も公表されていません。
参照海人社「世界の艦船」No881
「まきなみ」防弾板ですが、見ても分かりますが、ボルト止めであり、クレーンと足場が必要ですが造船所等では結構簡単に取り外せますので、常設としたのではと思いました。
本当は建造時から内部にケプラー等で弾片防御を考慮しておけばよかったのでしょうが、高価であり、必要の都度、外部に仮設は旧海軍でも実施していました。二重の鋼板での防御は小さな弾、弾片対処です。窓も海保のように防弾ガラスとする必要があるとは思いますが、費用との兼ね合いでしょう。
「晴海埠頭 帆船」「晴海埠頭 飛鳥」
で画像検索すると、
晴海埠頭に日本丸、海王丸や飛鳥Ⅱがいます。
レインボーブリッジの下を通過できるのではないでしょうか。
普通、観光船は朝、入って夕方に出て行く(昼間は観光のために乗客は上陸)ので、レインボーブリッジの高さだと、こういうスケジュールを組みにくいのではないかと思います。