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HMAS「アルンタ」オーストラリア海軍の「アンザック」級フリゲート〜国際観艦式

2022-11-29 | 軍艦

今回の国際観艦式では、全く公開されなかった外国軍艦もあります。
ご存じ韓国海軍の「ソヤン」もそうですし、
この不思議なシェイプのオーストラリア海軍のフリゲート艦、

HMAS「アルンタArunta」FFH 151

もその一つです。

Kさんの下さった「アルンタ」観音崎沖を通過している写真を見て、
この独特の上部構造物と、向こうの観音像との組み合わせが絶妙だったせいか、
わたしなどてっきりこれをタイ海軍(仏教系の国)の艦だと思い込んでいて、
後からオーストラリア艦だと知りびっくりしたのはここだけの話。

今回、この「アルンタ」が佐世保港に入港する様子を
動画に挙げている方がおられました。

超高画質で独特の構造物もアップで見ることができます。
お馴染みの赤いカンガルーもバッチリ映っておりますが、
この動画を見て、

「カンガルーは船の進行方向に向けて飾る」

らしいことが判明しました。
右左どちらに向いていてもOKとされていたのはこのためだったのか。

オーストラリア海軍フリゲート艦アランタ」(Ⅱ)入港 


おっと、右舷になんか怪しげな傷が・・。
これは何かにこすったかな?( ̄▽ ̄)



「アランタ」の艦バッジに描かれた謎の原住民。
実は、艦名の「アランタ」の名前の由来は、

アランテ人(Arrente、Aranda、Arrantaどれでも可)

というオーストラリアのアボリジニの一民族なのです。

この艦章にはそのアランタ?アルンタ?人そのものと、
彼らの日常の狩猟道具であるブーメランなどがあしらわれています。

アルンタの民の「歓迎の踊り」1901

そしてインシグニアのアレンテ?人の下にあるのが艦のモットーで、

"Conquer or Die" (征服か死か)

うーん選択肢極端すぎ。

ところで、「Arunta」という艦名の綴りは、
たくさんあるアレンテ族を表す単語の綴りと一つも一致していません。
このことは当事者も十分理解の上で、修正も検討されましたが、
RANは前艦と同じ綴りを使うことにしたということです。


■ アンザック級フリゲート

HMAS「アレンテ」は、「アンザック」級フリゲートの2番艦です。



「アンザック」級(ANZAC級、MEKO 200 ANZ型とも)

は、

オーストラリア海軍(RAN)
ニュージーランド海軍(RNZN)


二カ国によって運用されているフリゲート艦です。


今回の横須賀での一般公開で、オーストラリアとニュージーランド海軍艦艇が
仲良く同じ岸壁に係留していたのを見て、
隣同士の国なのに珍しく仲がいいのね、と思ったのですが、
実は1980年代頃まで関係は悪くはないが別に良くもなかったようです。

なのにそんな両国が共同で同じ軍艦を持つに至った経緯、というか、
現在に至る「仲良し」のきっかけは、1980年代、
RANがイギリス製の護衛艦「リバー」級の後継艦を検討していた同じ頃、
RNZNも「リアンダー」級の代替を模索していたことでした。

その頃ニュージーランドは、安全保障と非核をめぐって(多分核実験の件で)
アメリカとの関係が悪くなっていたのをきっかけに、
隣国と関係を改善することにし、オーストラリアもこれを了承しました。

そこで、両国は軍艦取得計画をすり合わせて、その結果、
同じ軍艦を共同で取得することを決めたのでした。

というわけで、艦級名の「アンザック」という名前は、第一次世界大戦中、
共同で戦ったオーストラリア・ニュージーランド陸軍部隊を意味する

Australia and New Zealand Army Corps
→ANZAC

となりました。
仲良きことは美しき哉。

入札の結果、ドイツのブローム・アンド・フォス社案が選ばれ、
モジュラー設計されて6つの部分に分けられ、
別々のところで完成したものを最終的に統合しました。

RASの「アンザック」級フリゲートは全部で8隻、
それぞれの名前の由来も書いておきます。

「アンザック」Anzac 150 =Australia and New Zealand Army Corps

2「アルンタ」Arunta 151 =Arrente族

3「ワラムンガ」Warramunga 152 =Warumungu族

4「スチュアート」Stuart 153=スコットランド・スチュアート朝

5「パーラマッタ」Parramatta 154=Parramatta河

6「バララット」Ballarat 155=Victoria州の都市

7「トゥーンバ」Toowoomba 156=Qeensland州の都市

8「パース」Perth 157=パース(都市)


命名に基準というものはないんか、と思うのはわたしだけでしょうか。
ついでに、ニュージーランド海軍に行った2隻はというと、

1「テ・カハ」Te Kaha 110=マオリ族の言葉『戦闘力』『強さ』

2「テ・マナ」Te Mana 111 =マオリの概念『地位と権威を持つ高潔な人物』


となっています。


ただし、全く同じスペックの艦体と言いつつ、搭載する武装については
RAN と RNZN は、個別に追加や能力向上を試みています。

■ 改造と改良

二カ国から発注を受けたという特殊な事情のせいだと思うのですが、
「アンザック」級は最低基準の攻撃・防御兵器を搭載し、
その他の装備は「あってもなくてもいい」?ように設計されていました。

RANとRNZNは、すべての艦が就役する前にアップグレード計画を始め、
これらのアップグレードは国家単位で計画・実行されました。

【オーストラリアの改修】



バックの巨大観音像とあまりに違和感なくマッチしていたため、
よもやオーストラリアの艦だと思わなかった独特の上部構造物。

これは案の定、アップグレードの為せるもので、HMASパースに装備された

CEAFAR能動電子走査型アレイレーダー

でございます。

RANは、フリゲート艦の戦闘能力を向上させるアップグレードを
1996年から計画し始め、研究と試験を経て2012年には
6億5千万豪ドルの改装作業が開始し、 2017年に全8隻が完成しました。

この計画完成以降、同級は、シースパローミサイルの代替として
RIM-162(ESSM)を搭載・発射できるようになりました。

「アンザック」級3番艦の「ワラムンガ」Warramun FFH152
ESSMを搭載した世界初の艦船となりました。

また、オーストラリアのフリゲート艦の魚雷発射管には
フランス・イタリアのMU90インパクト魚雷を搭載することに変えられました。

「アンザック」級7番艦「トゥーンバToowomba」
2008年、試験発射でオーストラリア艦として初めてMU90魚雷を発射、
4番艦「スチュアートStuart」は武装MU90の
「warshot」発射を初めて実施しています。

なお、オーストラリアは、2024年までにハープーン対艦ミサイルを
コングスベルグ海軍打撃ミサイル(NSM)に置き換えることを計画しています。

この海軍打撃ミサイルは、陸と海の両方の標的に対して使用することができ、
射程を大幅に増加させることができるとされます。

RANは2024年までは「アンザック」級を運用しますが、
それ以降は代替艦として「ハンター」級新型フリゲートを建造する予定です。

新型艦は最大7,000トンの排水量を持ち、対潜戦を指向しつつ、
航空・水上・陸上目標に対しても有効なものとされています。
(これは世界的な海軍の傾向みたいですね)


■ HMAS「アルンタ」

オーストラリア海軍からは、潜水艦「ファーンコム」も入れると
総勢4隻で来日してくれていたわけですが、
「アルンタ」は観艦式の日、Kさんが撮った写真によると
こうやってちゃんと観艦式会場に向かっています。

一体いつ来てどこに係留していたんでしょうか。


船級・艦種 
「アンザック」級フリゲート

容積 3,810トン
全長 118m(387フィート)
ビーム 15 m (49 ft)
喫水 4m(13フィート)

推進力
General Electric LM 2500 ガスタービン
MTU 12v 1163 TB83ディーゼルエンジン
速度 27ノット(50km/h、31mph)
航続距離 11,000km、18ノット(33km/h、21mph)時

乗員数 約170名
士官22名下士官兵141名

兵装

砲とミサイル
 1 5 in/54 (127 mm) Mk 45 Mod 2 砲
Rafael Mini Typhoon 12.7mm (.50 cal) CIWS、

小型武器
4 Harpoon Block II 対艦ミサイル
Mk 41 Mod 5 VLS for Sea SparrowおよびEvolved Sea Sparrow

魚雷
2基の324mm Mk 32 Mod 5発射管とMU 90魚雷

搭載機 
Sikorsky MH-60R Seahawk

■ HMAS「アルンタ」運用の歴史

【タンパ号事件】

2001年8月、オーストラリア政府が、438名のアフガニスタン難民を載せた
ノルウェー船「タンパ」号(MV Tampa)の海域への立ち入りを拒否した、
「タンパ号事件」が発生。

この時、「タンパ」の難民要請をオーストラリア政府は拒否。
「タンパ」船籍のあるノルウェー政府はこれに反発しますが、
難民に食料を与えた上ですかさず国境保護法を提出し、
海軍を出動させて船ごとナウル共和国に送ってしまいました。

この事件後、「アルンタ」はオーストラリア北部海域に展開し、
やはりアフガン難民を乗せた不法侵入船の侵入阻止と返還に関与しています。

【テロ対策作戦】

2002年、「アルンタ」はイラクに対する国連の制裁の実施に関与し、
国際テロ対策連合軍の一員としてイラク沿岸に近いところで活動しました。

【ペルシャ湾派遣】

2007年、「アルンタ」はペルシャ湾で2回目の現役任務に就き、
イラクの石油プラットフォームの保護、船舶のプラットホームへの乗船を保護、
イラク海軍の訓練に貢献などを行いました。

【人命救助】

2008年12月19日、「アルンタ」は、単独世界一周ヨットレースに参加し
負傷したヨットマン、ヤン・エリーズを救助しました。

エリーズはパースの南西1480キロメートル で、
大波に足を折られて座礁していたということです。

Rescue of Yann Elies, Generali by HMAS Arunta.

救助した乗員のスマホか何かで撮ったらしく、何が何だかわかりませんが、
とにかく大変だったらしいことだけはわかります。

【アップグレード完了】

2014年6月、対艦ミサイル防衛プロジェクトのアップグレード完了。
「アルンタ」はアップグレードされた同級の2番艦であり、
18ヶ月の改装中にCEAFARフェーズドアレイレーダーと
アップグレードされたSAAB戦闘管理システムなどの改造が行われ、
6月末に改装後の海上試運転が開始されました。

【哨戒警備作戦】

2017年7月、「マニトゥ作戦」の一部として中東に配備され、
この地域で長期パトロールを行うRANの最初の艦船になりました。

 2020年11月、「オペレーション・アルゴス」
北朝鮮に対する制裁を強化するための作戦に参加しました。

この作戦で、RANは哨戒機「ポセイドン」を嘉手納基地に配備、
「アルンタ」以外にも「ワラムンガ」「バララット」など、
同級のフリゲートが参加しています。


続く。





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2 Comments

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オーストラリアの「あさぎり」 (Unknown)
2022-11-29 08:23:13
アンザック級フリゲート。調べて見たら、オーストラリア艦は多機能レーダーを搭載したので仏舎利塔みたいになってしまいましたが、ニュージーランド艦はそうではなく、伝統的な形のままですね。

多機能レーダーですが、アクティブフェイズドアレー方式なので、アンテナ面の内側に送受信モジュールがあります。アンテナ面から奥に数十センチの長さになるので、貼り付ける場所を膨らませないと、お互いに内部で干渉してしまい、仏舎利塔になっているのでしょう。

もう少し下にアンテナを貼り付けられれば膨らまさず、仏舎利塔は避けられたと思いますが、すぐ後ろに煙突があり、排熱対策で上に付けざるを得ず、仏舎利塔になったのでしょう。自衛隊の「あきづき」型や「あさひ」型は、最初からアクティブフェイズドアレーレーダー搭載を想定して設計しているのできれいですが、後付けするとそうは行きません。

米軍のイージスも、最初のタイコンデロガ級は、多機能レーダーに加えて、遠距離探知用のSPS-49(アンザック級と同じレーダー)を搭載していましたが、多機能レーダーだけで十分とわかったので、次のアーレイバーク級からは多機能レーダーだけになりました。アンザック級の多機能レーダーは、アンテナ面が小さい分、モジュール数が少ない(=出力が小さい)ので、遠距離探知は難しく、頭でっかちですが、SPS-49を残していると思われます。

オーストラリアとなると、艦隊の編成も日本と似ている気がします。対空戦主体のイージス(ホバート)に対潜戦主体のアンザック級。アンザック級は、自衛隊の「はつゆき」型や「あさぎり」型と大体、同じ武装、乗員数で、番号も同じ(あさぎりDD151)です(笑)
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MEKO200型 (お節介船屋)
2022-11-29 10:00:47
ドイツのブローム・アンド・フォス社が共通の船体にモジュール化した兵装を搭載することにより各国海軍の多様なニーズに柔軟かつ低コストで対応する考えで開発したフリゲートです。
MEKO360型として最初に採用したのはナイジェリアでしたが船型が過大でコストが高くついたことからMEKO型の代名詞となったMEKO200型が開発されトルコが採用しました。

オーストラリアもニュージーランドと共同で導入して、1,2番艦はドイツで建造、3番艦以降オーストラリアで建造されました。
隻数を揃えるため調達コスト低減を図り、建造当初は軽武装でした。
2003年発展型シースパロー短SAMを世界初で装備、エリス中尉の記述のとおり2017年までに対艦ミサイル防御能力強化のアップグレード改造が実施されました。
 
MEKOとはMehrzweck Fregatten Konzeptの略とのことです。

ブローム・アンド・フォス社はこの新しいアイデアで多くの艦艇輸出で注目されましたが船舶需要が低迷し、1993年ティッセン・クルップ・グループに吸収されました。
MEKO型フリゲートは7か国以上が採用し40隻を超え、揚陸艦等もこの考えが提示されています。

参照海人社「世界の艦船」No598,951,970
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