
台南で宿泊していたホテルの隣には、国立成功大学のキャンパスがありました。
興味を持って少し調べると、このキャンパス内に日本が統治時代に建てた
建築物が残っており、まだ現役で使用されていることがわかったので、
それを見学がてら、キャンパスを探検してみることにしました。
右側は正門のところにあった「国立空中大学」の宣伝。
うーむ、「空中大学」。
これはなんだろう。
「修身学習とか学位がもらえるとか書いてるし、通信教育じゃない?」
とTO。
さすがは大学が好きで何年も行っただけのことはある。
おそらくそういう意味なのでしょう。
大学正門横の受付。
守衛さんが学内のマップをくれました。
英語も日本語もしゃべれない人ですが、十分意思疎通できました。
雰囲気がまるで日本の大学と同じです。
TOは奨学金をもらいながら大学院まで行き、何年間も学生をやったうえ、
卒業後は大学に就職することも考えていたという筋金入りの学校好き。
同大の航空工学科にいた彼の兄も同じように学校に居座っていたため、
祖母から「あんたら兄弟はいつまで学問極道を続けるつもりなのか」
と説教されたという逸話を持っています。
そんなTOですから、大学の空気すら気持ちを浮き立たせるらしく、
「やっぱり大学はいいねえ」とはしゃいでおりました。
「ところでこの大学、台湾ではどんな位置づけなんだろう」
「京大か阪大って感じ?」
「少なくとも都内のいくつかの大学よりはるかに立派なキャンパスだね」
「なんといっても敷地が広いし」
今日は日曜で人影はまばらです。
見よこの立派な大樹を。
「このー木なんの木気になる木ー」という歌は、
言ってはなんですが音楽関係者の間で評判が悪く、
おそらく「音楽関係者がこの世で最も嫌いなCMソング」というアンケートをしたら、
まず間違いなく三位以内に入選するであろうと思われますが、
こういう木を見ると当たり前のように浮かんでくるのもまたこの曲です。
この木はガジュマルの木。
小さな鉢植えに植わっているところから想像もできませんが、
何十年もたつとこんな風に育つんですね。
植えられたのは1923年。
どうしてこんなことまでわかるかというと、この木は(前にプレートがありますが)、
この年に皇太子時代の昭和天皇が植樹されたものであるからです。
原木は鹿児島から取り寄せたもので、台湾国内でも有名な木となっているのだとか。
どこかの国ならとっくに「過酷な日帝支配の象徴!」と糾弾され、
切り倒されて今頃は跡形もなくなっていたことでしょう。(たぶん)
実はこの成功大学、建物は台湾で一番古いのだそうです。
元はというとこの大学、日本が統治時代に作った「台南工業高校」がその前身。
この日本が作った教育機関がそのまま現在の学校として受け継がれている例に、
台北帝国大学(現台湾大学)、台中師範大学(台中教育大学)などがあります。
おそらくその昔からあったに違いない木の下では、
太極拳をしているおじさん一人。
台湾旅行中太極拳をしている人を見たのはこれが最初で最後でした。
この成功大学キャンパスは台湾の中でも美しいことで有名なのだとか。
これが「大成館」。
統治時代、大正元年に造られました。
当時は陸軍本部が置かれていたそうです。
写真では美しく見えますが、近づくとあまり手入れはされていません。
「江田島の旧兵学校の校舎に似ているね」
TOが言いましたが、こちらの方が後に建てられたのに、
保存状態は言ってはなんですが雲泥の差。
台湾の街並みを見ると、一般に建築物のメンテナンスにあまり技術がないのでは、
と思われるような小汚いものが非常に多いのですが、こういう歴史的建物は、
それなりに気を遣って遺していただきたい、と思いました。
まあ、あまり気を遣わないのに普通に使えているというあたりが、
日本の建築技術のすごさというべきなのかもしれませんが。
趣はありますが・・・・すごく・・・・汚いです・・・。
大学の研究科が開発した商品などが展示されていました。
この実に手入れの悪い(と日本人には思える)建物ですが、
雰囲気があって美しいので、結婚記念の写真スポットになっているとか。
シャングリラホテルで披露宴を挙げるカップルかもしれません。
リサーチが行き届かず、帰ってきてから知ったのですが、ここには大学の歴史を展示した
大学博物館があったのだそうです。
日曜だったので休みであった可能性もありますが。
今回、この成功大について書いてあるいくつかのサイトを見ると、
「北の台大、南の成功大」
と言われるほどの一流大らしいことがわかりました。
高雄の駅構内で見つけた「中国医薬大学」の宣伝ですが、
この左に見えるのは、どうやら世界の大学ランキングですね。
台湾のナンバーワン大学の台湾大は121位。
次いで精華大、僅差で成功大が三位。
世界ランキングでは279位、という年のランキングです。
ちなみに、この2012年度のランキングで日本の大学と並べてみると、
東京大学・・・・30位
京都大学・・・・35位
大阪大学・・・・50位
東京工大・・・・65位
東北大学・・・・70位
台湾大学・・・・80位
名古屋、九州、北海道大
精華大学・・・・192位
早稲田、慶応、筑波大
交通大学・・・・238位
成功大学・・・・271位
このような感じです。
まるで日本の予備校のような学習塾の看板。
こんな塾が街中には本当にたくさんありました。
シンガポールほどではないにせよ、台湾も非常な学歴社会で、
初対面でいきなり出身大学を尋ね、出身大学で人を測るにおいては
日本の比ではないそうです。
このような補修班では、成績を
一位「状元」、二位「傍眼」、三位「探花」
とし、上位三人を「三鼎甲」「三魁」と呼ぶそうです。
なんて読むのか全く分かりませんが、これは科挙試験に使われた用語。
今日でもここ台湾では、入試を科挙に譬えるほど学歴を得るための競争が激しいということでしょう。
「学歴どころではない」という国ならともかく、学歴がものを言わない世界は
先進国と言われる国にはないのではないかと思われますが、
日本が統治中に大学の前身を作り、そして昭和天皇が植樹をされてから終戦まで、
台湾には日本式の教育が根付いてきました。
蔡さんや「トウサン世代」の古き台湾人が言うように、教育勅語がモラルと精神基盤を育て、
まじめに労働することが尊いことだという教育であったわけですが、
少なくともこの「科挙」から来ていると思われる学歴偏重からは、日本式の
「職人を大事にする」「老舗の重みを尊重する」
といった、いわば日本が日本らしさで世界に認められてきた「独創性」は
生まれにくい社会ができてしまうのではないかと思えてなりません。
もっとも、日本の教育は今「それどころではない」混乱を迎えています。
大津のいじめ自殺、大阪の体罰自殺、そして日教組問題。
台湾も日本も「教育勅語」を、少なくともその精神を見直すことを
もう一度始めてはどうかと思うのはわたしだけでしょうか。
成功大学キャンパス入口のブロンズ像。
これは、おそらくこの学校を出た文学者だと思いますが、
誰だか調べてもわかりませんでした。
お約束。