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ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

ラペリングとファストロープ〜平成28年陸自降下訓練始め

2016-01-19 | 自衛隊

ヘリボーン、つまりヘリによって兵力が投入される様子が展開されています。



そこにもう一度ヒューイが狙撃手を乗せて飛来しました。
人員の投入の合間に、それを阻止する敵の攻撃を封じるためと思われます。
特に、この後行われるヘリからのラペリング降下を成功させるためでしょう。

何しろ戦場では、ヘリはホバリングするときが、一番狙撃・撃墜されやすいのです。



前回のヒューイからの狙撃を紹介したときになんとなく「上官と狙撃手」と書きましたが、
この様子を見ていると、アシストしている様子にも見えます。


ところで「狙撃」というのは「何か」を、つまり戦場では人を狙うことなのですが、
いくら訓練を受けていても、人間というのは「人間を殺す」ストレスには
とうていその精神は耐えられないようにできていて、特に顔の見える距離だと、
たとえ命令されたとしても、殺人につながる行動を本能的に避けるものなのだそうです。

だから、狙撃手の訓練というのは、とにかくその本能を磨耗させることに尽き、
優れたスナイパーになれるかどうかは、その本能に打ち勝てるかということだそうです。
大抵の人間は狙撃により人を殺傷した途端、「シェルショック」ともいう
戦争神経症を発して使い物にならなくなるという話もあります。

つまり映画「アメリカン・スナイパー」で描かれた史上最強の狙撃手、クリス・カイルは

その本能に打ち勝ち続けてきたゆえに、長年にわたって狙撃手として戦場にいられた、
という言い方もできるでしょう。

しかしその代償は彼のような特別の人間にも公平に訪れました。
彼がPTSDに苦しみ、それが彼自身を破滅に追いやる前に、

戦争による殺戮に耐えられなかった他の狙撃手の手によって殺害されたことは、
ごくごく自然の成り行きであったという気すらします。



重心の下に薬莢の袋がついています



ヘリが向こうを向いたので、狙撃手の(銃撃手かな)横の隊員の手が
出てきたのが見えました。
何をするのかと思ったら・・・・・、



銃の弾倉というかマガジンというのかわかりませんが、そういう部分に
手を添えて何かを固定しているように見えます。



そのまま空砲発射。
発射の瞬間手を添える必要があったということでしょうか。



さて、ヒューイから銃撃を行って敵を牽制している間に、
120mm迫撃砲とそれを引っ張るセットの高機動車、「コウキ」、
(防衛省の押し付け愛称”疾風(はやて)”)を牽引してうろうろしていた
チヌークが、それを地面に降ろす作業に入りました。



迫撃砲と車をおろしているチヌークは体も大きいため、狙われやすく、
そのため、ヒューイからは何度か銃撃が行われます。



迫撃砲を引っ張る高機動車を「重迫牽引車」と言います。
このタイプに限り、後部座席の床に弾薬を固定する金具等が設置されているそうです。



迫撃砲が先に地面に着くと、車が前輪からゆっくり降ろされます。
このホバリング、簡単そうに見えて実は大変難しいものです。
なぜかというと、こうして静止している間、前に進むベクトルがないため
機体が風・揺れ・姿勢の変化などを打ち消し、本来の姿勢に戻ろうとする
本来の性質を保持できず、それだけ姿勢を崩すリスクが大きくなるのです。


この動作はホバリングというより牽引物の着地を確認しながらミリ単位で
機体をゆっくり垂直に下ろしていくため、さらに高度な技術を要するはずです。



地面にどちらもが無事着陸したのを確かめて、牽引していたロープが外されました。



しかるのち離脱。
一般にホバリングの状態から前に進むとき、ヘリは姿勢を崩すリスクが大きく、
このコントロールも難しいといいますが、この大胆な傾き方を見ると
わざとそのようにやって見せているようにしか思えません。

チヌークの離脱と同時に、先ほどヘリから降りてきた小隊が
向こうから近づいてきました。

ヘリから降りて今日の仕事は終わり?とか言ってすみません。<(_ _)>



牽引されていたロープを外し、迫撃砲をコウキに連結します。



とそのとき、2機のチヌークが侵入してきました。
どちらも、防御のために銃が窓から外を狙っています。
このチヌークから、ラペリング降下が行われるのです。



降り口となる後ろのハッチを拡大してみました。
ヘリはすでに少し後ろ下がりの姿勢を保持してホバリングに入っています。
緑の迷彩カラーの太いロープが降ろされようとしています。



こちらは一つのハッチから2条のロープが降ろされました。
降ろす作業をしているのはヘリ隊員ではなく、降下する部隊の隊員です。




下まで届いたのを確かめています。



もう一つのチヌークからはすでに降下が始まっています。
こちらは大変低い高度からの降下なので、おそらくですが
空挺団のみなさんにとっては目をつぶってもできそうな感じです。
いや、目を瞑るというより、空挺団なら飛び降りた方が早いっていうか。

そう、三階から普通に飛ぶ人たちならね。 



ここでちょっと注意して欲しいことがあります。
2機のチヌークから降ろされているそれぞれのロープの太さの違いです。
これは「ラペリング」と「ファストロープ」、2種類の垂直降下が行われているのです。


「FAST」は「早い」の綴りで、ファストロープすなわち「素早くロープで降りる」

から作られた言葉だと思われます。
ファストロープはこの写真で見ての通り、手足でロープを挟んで滑り降りる方法で、
激しい摩擦が起きるので手袋を装着しないとできない方法です。

空挺団なら飛び降りた方が早いような高さからこれを行っているのも、
長い距離だと摩擦で危険だからという理由によるものでしょう。
ファストロープは「強襲」とでもいうべき短時間突入の際選択されます。

しかし、こちらのヘリのように低い位置でホバリングできないような場所では
否応もなく長い距離をロープを伝って降りなくてはなりません。



そこで「ラペリング」という方法で降下が行われるわけです。
「ラペリング」"rapering"とは懸垂下降を意味します。
ファストロープとの違いは、安全器具を使うこと。
そのため、太いロープでなく細いロープ二本を使うことです。



ファストロープで降りている先ほどの隊員の写真と比べてみると明らかな違いは
足の位置で、足はロープを挟んでいません。
降下する隊員の体は腰の位置でロープにつながっているように見えます。



最初に降下した二人の隊員は、下でロープを固定してピンと張っています。



降下している両者をみると、ロープと連結されているらしい腰の位置を中心に、
その上側と下側を両手で保持しつつ降下して行っています。



ラペリングにおいては、腰にハーネスをつけ、それをカラビナ(安全環)に通し、
ロープから落下しないような安全策が取られています。
二本のロープのうち1本にカラビナを通し、ロープを二本まとめて握れば、
カラビナごと下まで落下することはありませんし、高いところから降下しても、
手が摩擦熱で焼かれることもありません。

こちらにはファストロープほどの技術はいらず、相応の筋力さえあれば
誰でも実行可能、ということですが、問題はその「相応」がどれくらいかですね(笑)



救難活動などでも、よほど時間がない場合を除き必ず安全環を用いて行います。
ファストロープの方法は、自分の手足だけで支え、速度を調節するので、
落下の危険があり、だからこそファストロープのヘリの高さは
「飛び降りた方が早い」距離から行うことになっているのだろうと思われます。



二人目の降下員が地上に到達しました。
それぞれ右側が後から降りてきた方ですが、何をしているかというと、
ロープとハーネスを繋いでいた安全環(カラビナ)を外しているのです。



降下した隊員がロープから離れると、上に向かって合図を送ります。



合図を確認したら次の隊員が降下。
この写真の隊員の腹部に光っているのが、カラビナだと思われます。



ロープが長いのでやはり下で押さえておかなくては危険なのでしょう。



3組目も無事降下完了。



すごいのはピタリと同じ高度にホバリングを続けているヘリの操縦者でしょう。
ヘリが少しでも動揺しては降下する者に不安を与え、第一危険です。



簡単に見えるが実は簡単に見せているだけだ。
という「ライジング・サン」のセリフが思い出されます。

ちなみに、ラペリングだと、カラビナとロープが絡んだ点の摩擦により
たとえ両手を離しても降りられるのですが、速度が出すぎるため、
右腰の右手でカラビナ以降のロープの引張力を調整し、ブレーキをかけます。



ちなみに、「リペリング」という言葉をよく見るのですが、
どういうわけか自衛隊が公式にラペリングを「リペリング」としているので、
そのように呼ぶ人もいるということです。

ラペリングをリペリングと呼ぶようになった経緯はわかりませんでしたが、
最初にやりだした偉い人が「リペリング」と思い込んでいて、
誰も訂正できないまま自衛隊だけがそう呼んでるんだったら少し悲しい・・。

ちなみにこのリペリング降下、レンジャー資格者にしか行うことを許されていないそうです。
やっぱり「誰でもできる」って嘘ですよね(笑)


続く。




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3 Comments

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懸垂降下 (雷蔵)
2016-01-20 05:44:49
懸垂降下ですが、リペリング(ラペリング?)は、元々、岩登りで開発された手法だと思います。

昔、やっていたことがありますが、レンジャー程の猛者でなくても、私程度のヘタレでも訓練すれば出来るし、高所で窓ふきするおじさん達も似たようなことをやっています。

ただ、窓ふきのお姉さんやおばちゃんはあまり見ないので、握力は多少必要で、男の方が向いているかもしれません。ファストロープはかなり力が要りそうです。

M2重機関銃ですが、わかりやすい動画があります。これを見れば、UH-1の射手が手を添えて何をしているのかわかります。

https://www.youtube.com/watch?v=6U2aQKK4924

日本語に適当な言葉がないのですが、英語では射手の他に弾薬手の補助が必要な武器を「Crew Served」と言います。

M2重機関銃はCrew Served Weaponで弾薬箱毎、装填し、撃ち終わったら、弾薬手が弾薬箱毎、入れ替えます。
返信する
昔とった杵柄 (婆裟羅大将)
2016-01-22 22:44:20
岩登り経験者を呼びましたか?

岩登りをやる人たちはラペリングというより、ドイツ語のアプザイレンを良く使いますな。
あるいは懸垂(下降)ですか。

私が覚えたころは基本はザイル(ロープ)以外の道具を使わない 「肩がらみ」を教わりました。
道具に頼っても良いが道具を無くしたらどうするんだと言われてね。
(消防士はまだ練習するそうですが)

ただこの方法は荷物が重かったり(30kgとか)、降りていく途中で風に煽られたり 岸壁を蹴って降りている時に
下に保持する脚が他方の脚より上になると墜落するので危険なことは確かです。
それと股の下と肩、背中で制動をかけるので 厚手の服と手袋を着用しないとつらくて
ホルターと短パンでは無理です。

諸々の理由でしだいにデッセンダーと呼ばれる懸垂下降専用の器具が使われるようになりました。

これはカラビナとは違いまして、軽合金で出来た数字の8の形しているエイトリング(8の字環)が最初に入ってきました。
ただこいつは 使用中は安全なのですが ザイルを通してからゼルプストバンド(直訳:安全帯)に付け直さなければ
ならないので、その必要の無い形のものがたくさん出てきました。
でもそっちは使用中にロープのたるみを作ると危険な物が多く、一長一短です。

https://www.youtube.com/watch?v=Pdca5p0JA44

突然ゼルプストバンド(独語)という言葉を使いましたが、クライミングに使うハーネスのことです。
これも様々な形があり一長一短ですが、ただのザイルをブーリアンノットで腰に巻いただけの
人間は墜落時に幸運にもビレイ(確保:墜落を止めること)できても、宙吊りになってしまうと最悪の場合数分で
窒息や血行阻害で絶命するという教訓から生まれました。

ここでも年寄りは腰に二重にザイルを巻いてブーリアンノット(もやい結び)で結ぶ方法を暗闇でも
どんな天候でもできるようになるまで繰り返し練習させられました。
数種類の基本結び方を体が覚えてしまうと、何十年経っても覚えているものです。
まあ何の役にも立ちませんがね。

肩がらみでも器具使用でも基本的にチカラは要りません。 ロープを通す角度で制動が変わるので握力もあまり問題になりません。
ただ怯えて習ったことがその通りに出来なくなると失敗します。
高度にたいする恐怖というのは本能的なもので 恐怖に打ち勝つというと格好良いですが、これはある意味本能に反する不自然なことです。
「岩国城攻略戦」 で言ったのはそういう意味です。

http://plaza.rakuten.co.jp/vajra33/diary/201306130000/

学生時代山岳部で上級生の頃、女性部員が入ってきてみんなで可愛がったのですが懸垂下降には苦労させられました。
あるゲレンデ(練習のために行く岩場)で、たったの15mでも恐怖に体が固まって習ったことが出来ず
猛スピードで降りて(落ちて)しまいました。
最初は下降用とは別のロープで確保しながらの練習をさんざんするのですが、それが無くなったとたん固まりました。

後輩や新人の安全は先輩やリーダーが全責任を負うのは不文律でしたから青ざめました。
例えば女性部員が冬山で顔面に凍傷を負ったらリーダーが責任を取って結婚する、なんてことが実しやかに言われてました。

幸いこの急降下のときは少し制動がかかっていたのと、下が柔らかな土だったので 事なきを得ました。(誰が 笑)
ちなみに後日談があり、この子含め横須賀の鷹取山にトレーニングに行った時、登っている最中何回か墜落して(練習では普通のこと)
その度に黄色い悲鳴を上げるもので 取材中の新聞記者に写真を撮られ 地方版ですが顔の分かる宙吊り写真を
掲載されてしまいました。 見出し 「キャー」。

後日談2、女性部員が混じってると下山して銭湯行って食事とお酒で飲み屋に行ったときも、断然地元の人に受けが良いです。
女の子がいなくても地元のおっちゃんたちに、「どこ登ってきた?」 と聞かれ 「剣岳です、立山です」 と答えると
「そうかそうか剣岳は、立山は良い山だろ、 一杯飲め」 とおごってくれることが多いのに
女の子がいるとさらにヒートアップして おっちゃん、おばちゃん みんなが可愛がって お酒や食べ物奢ってくれます。


後日談3 この子 卒業後しばらくして クラブの同期と結婚して子供3人産みました。 やれやれ、これでももう責任無しだぜ。(笑)

(しまった 1エントリ 書けるほどの量を書いちまった。)




返信する
皆様 (エリス中尉)
2016-01-24 11:22:39
山登り用語はドイツ語がメインだったですね。昔のお医者さんみたいに。
ザイル、ハーケン、アイゼン、本稿で使ったKarabinerカラビナもドイツ語です。
スキーの「ストック」もドイツ語の「シュトック」だそうですね。

いただいたYouTubeを見ていたら機動隊と自衛隊の飛び込み降下が出てきたので
思わず歓声をあげつつ見入ってしまいました。
簡単そうに見えますが、下手すれば飛び込んだ後建物の壁に体を打ち付け、
命の危険さえもある降下ですね。

「雪山讃歌」に「娘さんよく聞けよ山男にゃ惚れるなよ」とありましたが、
その娘さんが讃歌じゃなくて参加するのはやはり大事だったんですね。
今は「山ガール」という言葉まであるようですが、山姥(やまんば)じゃなくて
山ガールの皆さんはやはり同じようにアプザイレンを行うのが基本なんでしょうか。
何れにしても今は責任を取って結婚しなくてもよくなっているような気がします。
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