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アキュムレーターとカタパルト〜空母「ミッドウェイ」博物館

2019-08-25 | 軍艦

しばらくヨーロッぱ旅行記が続いておりますが、ここで
久しぶりに、空母「ミッドウェイ」についての話題をお送りします。

 

かつて空母「ミッドウェイ」勤務で、もちろん横須賀にその期間駐留し、
日本人の奥さんをもらった元海軍軍人、「ミッドウェイ」の著者ジロミ・スミス氏は
2004年、サンディエゴで13年ぶりに「ミッドウェイ」に再会しています。

スミス氏は「ミッドウェイ」に特別な思いを持っていました。

「俺とお前の間柄は他の奴らとはちと違う。
俺とお前にはお互いに日本人の血が流れていて、日本人の血を持っている。
だから特別な間柄だ」

はて、「ミッドウェイ」に日本人の血が流れているとはどういうことでしょうか。

母親が日本人で日本語も堪能なスミス氏は、空母「ミッドウェイ」が
18年間にわたる日本での勤務中、実に一度もアメリカ本国の港に入らなかったことや、

自分のように日本人の妻を持った乗員がたくさんいて、何よりも空母の艦体が
この期間ずっと、日本人の技術者や、港湾労働者に支えられてきたをして、
「日本の血が流れている」と解釈しこのように思い入れを持ってくれていたようです。


さて、そんな「日本人の血を持つ」「ミッドウェイ」でしたが、任務を終え、
横須賀を出航して初めてアメリカの港に入り、その後、

サンディエゴで空母博物館として半永久的にその姿を留めることになりました。

久しぶりの「ミッドウェイ」との邂逅。
舷門をくぐる時、もうそこで敬礼をしなくてもよくなったことに
違和感と一抹の寂しさを感じながら、
スミス氏はハンガーデッキに足を踏み入れます。

「格納庫前方の左舷、右舷の両側には、ジェット機を発艦させる時の
カタパルトを動かす巨大なアキュムレーターも当時のまま設置してあった。

このアキュムレーター、ジェット機が発艦する食べ、耳をつんざくような
シューっというものすごい音を出し、その周辺の温度は軽く50度を超えた。

私の仕事場は、このアキュムレーターのすぐ横にあった。
恐ろしく暑くて、ものすごい騒音が一日中、時には一晩中続いていた」

これが「空母ミッドウェイ」のチャプター1の終わりの部分です。

わたしは結局三年続けて「ミッドウェイ」を訪れ、ここでもお話しする途上、
スミス氏の著書をかなり参考にさせて頂いておりますが、最初に読んだ時、
この「アキュムレーター」の記憶が全くなく、今度訪問したら
ぜひその写真を撮ってこようと楽しみにしていました。

ハンガーデッキから入場し、右の前方に向かって進んでいくと、
「STARBOAD、スターボード(右舷)」と書かれた俵形の大きなタンクが見えてきました。

ワクワクしながら(こんなものを見てワクワクするのはわたしくらい以下略)
近づいていくと、小さく「スティーム・アキュムレーター」という字が見えます。

 

アキュムレータ(hydraulic accumulator)を一言でいうと、圧力を蓄える、
すなわち蓄圧器のことで、電気で言うところの充電式電池のようなもの。

流体の圧力を利用して仕事に供給する高圧流体を蓄えておく装置で、
この「ミッドウェイ」における「流体」とはすなわちスチームのことです。

カタパルト発進には途轍もないエネルギーが必要なので、その動力には
安定した圧力が必要ですが、アキュムレーターはこのために
過剰蒸気またはボイラー水を熱水として蓄え、高負荷時にボイラーに送り、
ボイラー蒸発量を増加させる方式でそれを得るという仕組みです。

もう少し平たく言うとアキュムレーターとは、

「圧力を溜め込んでおいて、いっぺんに解放することでエネルギーを得る」

装置、といえば良いでしょうか。

アキュムレーター図解

近年の日本の企業が作っているアキュムレーターは縦型が多いようですが、
昔は写真に見える「ミッドウェイ」のそれのように横に寝かせる形が一般的でした。

「ミッドウェイ」のカタパルトは最初は油圧式で、大改装後、
  蒸気式のC-11型3基を搭載することになったそうですから、それこそ、
このアキュムレーターは日本で、日本の技術者によって換装された
と言うことになりますかね。

アキュムレータは蒸気の負荷変動を吸収することができるので、
常に安定した圧力を供給し、これを回転エネルギーに変換します。

高速回転する滑車でワイヤを動かし、カタパルトのレール(シャトルトラック)
のうえを、シャトルが高速で動くわけですが、その際、ブライドルと言う
使い捨てのワイヤによってシャトルと航空機を繋げておいて、
航空機を「放り投げる」形で空中に射出するのです。

 

これはWikipediaページの「ジョン・C・ステニス」のスチームカタパルト。
最終チェックをしているところですが、まるで雲に乗っているように
蒸気がレールの間から吹き出しているのにご注目ください。

スティームカタパルトは、シャトルを高速で移動させると、
レールの下からものすごい量の蒸気が噴き上がってきます。

Steam Catapult VS EMALS, Electromagntic Aircraft Launch System
 

面白い動画を見つけました。
前半は従来の蒸気カタパルト。
後半はイーマルス(EMALS)、電磁式カタパルトの航空機射出です。

航空機じゃないので赤い台車がカタパルトの後派手に海に落ちていきますが、
思わず「あああ〜」と声が出てしまいます(笑)

イーマルスの実験は2017年に終わったばかりで、
「ジェラルド・R・フォード」に実験的に搭載されたそうですが、動力に
原子力などを必要とし、電力が失われたら射出できなくなると言う欠点があります。

2019年、今年の春に横須賀の第7艦隊を訪れたドナルド・トランプ大統領は、
イーマルスについてはっきりと

「以降の空母には使用しない」

と断言したということなので、アメリカではこれ以上の発展はなさそうです。

いかなる理由でそのことをわざわざ日本に来て横須賀で言明したのか、
その経緯がよくわからないのですが、コストパフォーマンスの点で
あまり意味がないということになって打ち切りが決まったばかりなのでしょうか。

 

こちらにはタンクの穴のようなものがありますが、これは
手前の赤いリールに巻いてある黒いホースを繋げるのでしょう。

ボイラー水を供給するためのホースだと思うのですが、わたしのことですから、
例によってとんでもない勘違いをしているかもしれないので、
断言はしないでおきます(笑)

USS「ミッドウェイ」において

FODをしなかった日は

最後にFODをしたのは■月■日

CRUNCHがなかった日は

最後にCRUNCHがあったのは

 

FOD(Foreign Object Debris/Damage)とは、甲板を皆で
並んで歩きながら小さなゴミを回収するという空母ならではの慣習です。

ここではデブリス(ゴミ)ではなく『ダメージ』と言っていますね。

小さなゴミでも航空機のインテイクが吸い込むことで、
大事故が起こるため、このFODは徹底して行われます。

クランチ、というのはわたしもこれで初めて知ったのですが、
航空機同士の接触や航空機が構造物にハンガーデッキで当たることです。

私見ですが、航空用語というわけでもなく、「クランチ!」という言葉は
金属同士がぶつかった時の音のイメージから来ているんじゃないでしょうか。

ハンガーデッキで牽引車の操作をしていた人の証言です。

「数え切れないほど、トラクターを運転している時、わたしは
自分がトウイングしている航空機を振り返って見たものです。
そしていつも運転するとき、センターラインのエレベーターが
降りている時には、
大きな穴に落ちてしまいそうでものすごく怖かった」

自分だけ落ちるならまだしも、その時には何億ドルもする航空機と一緒。
ただでさえ事故の起きがちな空母での仕事には、何回やっても慣れは禁物で、
また何回やっても怖いものなのに違いありません。

しかし、どんな作業一つとっても、そこには、アメリカ海軍が
USS「ラングレー」以降積み重ねて来た、気の遠くなるような体験と
そして失敗による犠牲のうえに築き上げられたノウハウが集約されているのです。


 

続く。





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5 Comments

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ミッドウェーの改造 (お節介船屋)
2019-08-25 17:02:46
SCB-110
大型の攻撃機A3Dスカイウォーリアの運用の能力を付与するための改造でアングルドデッキやエンクローズドバウとした事や武器の換装等大々的な改造でした。
この改造時、カタパルトも油圧式H4-1 2基から蒸気式C-11 3基に換装、増設も実施されました。
エリス中尉には申し訳ないのですがこの工事は1957年ビュージェット・サウンド工廠で実施されました。

SCB-101/66
1980年代までの戦略戦術に合う使用を考慮しての改造で1966年2月から1970年1月までの長期工事で前部エレベーターの舷側への移動や能力強化、飛行甲板拡大等であり、カタパルトも強力なC13に換装、ただしアングルドデッキの1基は廃止され飛行甲板前部の2基とされました。
この工事もメア・アイランド工廠で実施され、横須賀配備は1973年10月であり1991年8月まで18年間横須賀が事実上母港でした。残念ながらカタパルトの換装はアメリカの工廠であり、横須賀は18年間のメンテナンスやブリスター取り付け等の延命工事が実施されました。

アメリカ空母の蒸気カタパルトに2本の長いシリンダーが飛行甲板下に埋め込まれて、2本のピストンがアームで繋がれてそのアームの真ん中上にシャトルを支えています。ピストンが蒸気でシリンダー内を走る時、アームがシリンダー上部に切られた溝を通りますが溝から蒸気が漏れないように帯上の軟鋼が溝部分を覆っており、ジッパーを開け閉めするようにピストンは前側の腕で金属帯を押し広げ、後の腕で帯を押し下げ、シリンダーの溝を閉めますが、ある程度の蒸気の漏出は避けられません。

なおEMALSはリニアモーターによって航空機を加速、射出するのですが蒸気カタパルトより、航空機発艦重量や風速に応じて加速度や終末速度のコントロールが出来る事、パイロットや機体に無理が掛からない、射出速度の無段階変速可能、軽量無人機の射出可能、装備スペースや重量が半分、操作人員の大幅削減、整備性が優れている等利点が多く、戦力化に苦心していますがトランプが如何に言うとも海軍は諦めないと思います。
参照海人社「世界の艦船」No757,776、870
返信する
アキュームレーター (お節介船屋)
2019-08-25 17:36:18
日本語で蓄圧器ですが添付されている図解はボイラーと併用であり、ちょっと違うのではと思います。
この図解によって赤いリールのホースで水供給と思われたのでしょうがボイラーではないので配管や全体像から高圧蒸気の蓄圧器だと思います。缶室のボイラーから蒸気をそれぞれカタパルト用の蓄圧器に供給していると思います。

EMALS用電気等大電力が必要であり、蒸気タービン発電機からの供給でしょう。原子力を失う状態であれば行動力も失い、カタパルトどころではない状況となります。現代の軍艦の必要発電量は鰻のぼりであり、発電機の台数は多く必要となっています。何台とするか、予備をどうするか等、発電機の信頼性も含め、現代軍艦の最大考慮事項でしょう。
返信する
お節介船屋さん (エリス中尉)
2019-08-26 01:25:24
改装についての改めての詳しいお話ありがとうございます。
イーマルスについても、アメリカ政府と現場では温度差があるということなんですね。
よくわかります(笑)

アキュムレーターの図解はどんなに形を変えて検索しても軍用が出てこないので
(当たり前か)、民間企業の、
明らかに目的が違うと思われるものでとりあえず私を含む超初心者に
アキュムレーターのイロハというものを説明しようと思ったのです。
しかし、どうもまだ説明したはずの本人に理解が足りないことがわかりました。

機械関係はどんなに頑張っても基礎ができていないのでダメですね。
もうお節介船屋さんにお任せです。
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レーガン帰って来ました (Unknown)
2019-08-26 06:30:25
土曜に四か月の行動からレーガンが帰って来て、日曜はファミリークルーズでした。

艦載機は厚木から岩国に移動しましたが、ファミリークルーズでは発着艦を披露するため、何機かが厚木に来ていて、昨日は久々に相模湾で爆音がしました。ガーンと聞こえたので、音速越えしたと思います。

電磁式エレベータ。航空機用と共に武器用も開発されています。フォードには11基搭載されているそうですが、公試が始まった時点で2基しか稼働しないそうです。原因はソフトウェアの不具合だそうです。頑張れー

搭載量が増えたのと、昇降速度が向上したので、かなり能力向上したそうですが、日本で「公試開始時で、11基のうち稼働2基」だったら、張り倒されそうですね。
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任さないで下さい。 (お節介船屋)
2019-08-26 07:38:59
エリス中尉が色々な事を取り上げてくださるのでコメントできるのであり、私も色々な資料を調べて大変勉強になります。
確かにもともと機械屋であり、船屋ですが、専門バカのところもあり、字句で如何に分かって頂けるか、また基となる資料を探す等楽しく実施させて頂いてます。
決して疑問等の投げかけはやめないで下さい。船に関しては専門家が基礎の基礎等の本を出しておられますが私も日本に取って重要な船をエリス中尉おひとりでも分かって頂きたい。
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