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楽器の「お値段」~握手券付きチェロ購入の巻

2013-04-19 | 音楽

コメント欄でチェロの購入を考えているという話をしましたが、
その後いろいろあってついに決断しました。
「欲しいなあ」と思っても実際に買うとなるとやはりタイミング。
たまたまある楽器店のフェアを教えていただき、
それが購入のきっかけになったわけです。

ところで皆さん。

楽器の値段って、どういうものかご存知ですか?
いちおう音楽関係者であるエリス中尉も、楽器の値段、
特に弦楽器の値段については全く知りませんでした。


そこで購入に当たり少し調べてみました。
弦楽器の価格帯は次の通りです。

ヴァイオリン 1万~3億円
ヴィオラ 10万~500万
チェロ 10万~3000万
コントラバス 3万~500万


この価格は、いずれも

「一番安い価格」=「新品」
「一番高い価格」=「アンティーク」

つまり、高額の価格というのはいずれも100年200年、
ずっと使用されてきた楽器だけが持つ価値なのです。

管楽器はもっとも高いフルートで、純金製のものなどでも
せいぜい500万、たいていは300万どまりですから、
弦楽器の中で一番小さな楽器であるヴァイオリンが
値段においていかに特殊かわかるでしょう。

しかも、安いものはどの楽器よりも安い1万円から。
コントラバスなど安いものは新品でも3万円なのに・・・。

で、チェロです。

ヴァイオリンのレベルには及びませんが、
最高額がやはりダントツに高い弦楽器です。

わたしと息子の今までの二人の先生方も、
何千万クラスの楽器を持っておられます。
オーケストラにいたり、リサイタルをするようなクラスのチェリストは
当たり前のようにこのクラスの楽器を所有しているのです。


初心者は普通「スズキの練習用」の10万円から始めます。
息子は4歳の時にパリで当時確か700ユーロだった12分の1楽器で
練習を始め、それから二つの分数楽器を経てフルサイズになりました。

フルサイズのチェロを初めて購入することになったとき、先生に
「今お店にスズキの13万の楽器があるらしい」
と教えていただき、それを買うつもりで楽器屋に赴きました。

しかし敵(楽器屋)もさるもの。
最低ラインの楽器だけではなく上のクラスの楽器もちゃんと用意していて

「どうせ買うならもう少しいいものを・・」

という欲を誘ってくるわけですね。
いきさつについては以前も述べましたから割愛しますが、
結局このとき最終的に20万円くらいの楽器を購入しました。

20万の楽器。

・・・・・・・というのがどのレベルのものであるか。
少しこれをご覧ください。



上段三つがいわゆる「初心者向き」です。
このチラシを先生からいただいたとき、

「(右上の)ピグマリウスってどうですか」

と訊ねてみると、

「これは・・・・実は中国製なんですが・・・」

なーんだ。

唯でさえフリーチャイナを心がけているこのわたしが、
大金払って中国製の楽器など購入するはずがあろうか。
(いや無い)

「ええ、やっぱり中国製は・・・。
木材の質というか乾燥が甘くてお勧めできません」

と先生。

ん・・・・?

その中国製ですら33万円?
ってことは、20万(弓込み)の楽器って、いったい何?

「・・・・・・先生、ズバリ言っておいくらくらいの価格なら
今の楽器から『買い替える意味』があると思われます?」

「楽器本体だけで80万円くらいでしょうねー。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ガーンガーンガーンガーンガ~~ン

(エリス中尉がショックを受けた音)

そこでもう一度上画像の下部分を見ていただくと、
「初級から中級向き」の楽器のお値段が。

67万から149万円。

この149万円というのが「ハンドメイド」
であることにご注目ください。
わたしはこの瞬間まで夢にも知らなかったのですが、
弦楽器には「工場製」と「手作り」があり、
流れ作業で組み立て調整までする工場製、そして
一人の作家が木を削るところから最後まで作り上げるのが
ハンドメイドです。

わかりやすく価格で説明すると、その境界は100万。
工場製はどんなに高くても100万にはなりませんが、
ハンドメイドはどんなに安くても100万からなのだそうです。

そこまで聞いても、所詮趣味で弾いているだけのエリス中尉は、

「それじゃ60万くらいで気に入ったのがあれば買おうかな」

という軽い気持ちで楽器店に赴きました。
そのときのこと。

「今日私の生徒さんが来ます」

と先生から聞いていた楽器屋の人は、
現れたわたしが担いでいたチェロのハードケースを見て

「初心者だと聞いていたが・・・・・・・?」

といぶかしく思ったそうです。
それもそのはず、わたしがその時抱えていたのは
楽器よりはるかに高いプロ御用達のケース。
先生が全く同じケースを使っているというくらいのものです。
(上画像の商品案内にあるもっとも高額のケースより高い)

後で楽器屋さんが言うには

「ケースを開けて出てきた楽器を見てがくっとしました」(笑)

そりゃそうでしょうさ。

それもこれも楽器を買ったときに、
お店には「メイドインコリア」か「メイドインイタリー」しかなく
選択の余地すらなかったんですねー。

さて、楽器選びが始まりました。
楽器屋のフェアというのは、日頃より豊富な品ぞろえの中から
楽器を選ぶことができるという意味があります。

そこでターゲットの60万円から80万円までの楽器を中心に
いくつか弾いてみましたが、敵(楽器屋)もさるもの、
音の良しあしだけではなく、

「ハンドメイド楽器の持つ付加価値」

という観点で手作りの楽器を奨めてきます。
つまり、一人の作家がすべてを手掛け、最後まで責任をもって
心を込めて製作した楽器には、それだけ「気持ち」が込められていると。

曰く、


中でも今日展示されているこのチェロの若い作者は、

当店が「応援している作家」でもある。
この間コンクールで賞を取り、将来有望である。
でも、作家というのは材料を自費で仕入れ、
半年かけて楽器を仕上げてもそれを飛行機に乗って持ってくるので、
正直生活ができるのかどうか、こういってはなんだが心配(笑)している。


うーん。
そういう「物語」にエリス中尉が弱いということを
まるで知っているかのようなセールストーク。



これがこのフェアのハンドメイド楽器のおすすめ。

ハンドメイドと工場製の間には大きな壁がある。
それは、たとえば何年かたって楽器を売ることになった場合、
工場製は全く「値がつかない」が、ハンドメイドであれば
「中古」として中古市場に売れるので、買い替えも損ではない、
というお店の女性の説明も後押しして、
すっかり「それならハンドメイドを・・・」という気になりました。

この女性は自分でもチェロを弾くということでしたが、
客への説明においてそういう価値観にまで目を開かせたという意味で
敵(楽器屋)ながらあっぱれだったと言えましょう。


そんなこんなで、どうせ買う(つまり応援する)ならば、
と日本人作家の楽器に絞りこみ、
さらに評価のある程度定まった方ではなく、若くて
「これから」というイタリア在住の作家さんのものを買うことにしました。


さて、次に弓です。
「今の弓(おまけについてきたもの)では楽器がかわいそうです
と試弾に付き合ってくださった先生がやけにきっぱりと言い切ります。

やはりそうだったんですね。先生。

わたしが今まで使ってきたのは

「この弓で弾いてもかわいそうではない楽器」

だったと言うことですね。
それでは、この楽器に相応しい伴侶を見つけなければなりません。
「破れ鍋に綴蓋」であった今までの弓は忘れて、お似合いの相手を。




これがこの日出品されていた弓。
勿論300万の弓が悪かろうはずはありませんが、
楽器の二倍以上の値段の弓というのもいかがなものかと。

それに、この弓、試弾の際ずっとこれで弾いていたのですが、
はっきり言ってエリス中尉の演奏レベルでは、
これがそんなに価値のあるものだとは思えませんでした。

文字通り猫に小判豚に真珠。

おとなしく「本日の超お買い得」の、15万円の弓
(実は30万円くらいの値打ちあり)に決めました。

値段のことばかり書きましたが、実際楽器というものは
値段を実に正直に表すそうで、先生に言わせると、
今回購入した弓くらいの「掘り出し物」はあっても、一般には
面白いくらい値段とその価値は一致して例外はないのだそうです。



わたしが最終的に購入したこの楽器の作家さんですが、
今回楽器が売れたことを楽器店はさっそく報告し、
かれは非常に喜んでいたということです。

お店の方によると

「この作家さんはときどき日本に帰ってきますから、
楽器について問題点や調節したいようなことがあれば、そのときに
実際に会ってお話もできます」

これを横で聞いていたTOが、いよいよ最終決定をする段になって

「これがいいんじゃない?握手券付きらしいし」

と言いだし、それが結局購入の決め手になりました。

毎日弾いていますが、響きの良さは勿論のこと、
これまでの楽器(息子のオケ用に置いてある)
では弾きにくかった箇所が楽にできるようになったりするんですね。

初心者こそレスポンスのいい楽器で始めるべきなのではないかしら。

弦楽器は弾けば弾くほど楽器が鳴ってきます。
弾き出して一時間くらいでも音が変わってくることもあるのだとか。
この楽器は今のところ実感はありませんが、一年ほど弾きこめば
かなり鳴ってきそうで、これからが楽しみです。


しかし、今回知ったことで最も心に残ったのは

「楽器の値段は、その質そのものである」

卑俗な言い方をすれば銭ただ取らんという事実。

もし将来今の楽器で「物足りない」と思うようなときがきたら・・・
そのときはいったいどんなレベルの楽器を買うことになるのでしょうか。

TOにそれを言うと

物足りないというくらい上手くなったらその時考えれば?」

「その時」・・・・・来てほしいような来てほしくないような。





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