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バーキン片手に靖國神社

映画「パレンバン奇襲作戦」後編

2014-02-24 | 映画

話が相変わらず一日で終わらず、冒頭にアップする絵のネタも尽きたので、
昔描いた丹波哲郎の絵を引っ張り出してきてリサイクルしております。

パレンバン降下作戦に参加する陸軍人には到底見えないけど、
こういう怪しげなシチュエーション(海軍軍人の美貌の妻に懸想し計略を謀る陸軍軍人)
だと、とたんにこの軍服が似合ってしまうという不思議。

日本人の俳優は大抵が・・・勿論年齢と恰幅によって位の違いはあれど、
陸軍なり海軍なりの軍服が似合ってしまうのですが、若い頃の丹波も役者として、
たとえば潜水艦の先任将校なんかやらせてもそれなりです。

ただ、丹波さん、どうも坊主頭にすることだけは拒否したらしく、
そのせいで似合ってはいるけれど「何か違う」妙に隠微な雰囲気が漂っております。
皇族の若様軍人たちも、バロン西始めLAオリンピックの乗馬選手たち(全員騎兵)も、
長髪のままでしたが、「陸軍軍人は坊主」というのはどこまで強制だったのでしょうね。



さて、この映画における丹波哲郎の役どころは、元精油所の技師で、

日本が戦争を始めたためそこから追い出されてしまった「大陸浪人」。

たいりくろうにん、とは映画の中で彼を説明するために憲兵がそういったのですが、
この「大陸浪人」とはwikiによると

明治初期から大東亜戦争終結までの時期に中国大陸、ユーラシア大陸、シベリア、
東南アジアを中心とした地域に居住・放浪して各種の政治活動を行っていた日本人

ということなので、放浪はともかく、単にふてくされて現地で喧嘩をしていただけの
砂見という男は、全くそのカテゴリに当てはまりません。
おそらく脚本家が大陸浪人の意味を知らずに使ってしまったのでしょう。

因みに大陸浪人の有名どころでは

宮崎滔天、児玉誉夫、川島浪速、二葉亭四迷、里見 甫(はじめ)

などがいます。

さて、そういう間違いはさておき、続きと参りましょう。



精油所近くのバーに、粋なスーツ姿にサングラス、というスタイルで潜入した砂見。
どこでそんな衣装を調達したのか、などとは言いっこ無しです。
技師時代の同僚であったケッスラー(岡田真澄)にこれも偶然出会い、
爆破装置の場所を聞き出すためにかれを潜伏先の教会に連れてきます。

ケッスラーはオランダとインドネシアの混血児(放送禁止用語)で、
オランダ人から蔑まれているという設定です。


ところで不思議なのですが、この映画の大前提は、
「オランダ軍が
精油所を爆破する」ということです。
日本軍が攻めて来たら、オランダ軍は何をおいても精油所を爆破して逃げる、
ということを確定事項としたうえに話が成り立っています。


実際のパレンバン作戦において、日本軍の侵攻に対し逃走したオランダ軍が、
退却の際に精油所に火をつけていったのは確かですが、 
当初両軍の間には激しい銃撃戦も起こっているわけです。
施設を爆破して逃げたのは結果に過ぎません。

この映画がなんとなく見終わってすっきりしない、というか、
なんかもやもやした納得のいかない後味をもたらすことの一つは、
この映画の主題となっている特攻作戦に、このような結果論から逆にひねり出した
後付けの理由しか
ないことにあると思われます。

もちろんそれだけではありません。(笑)

シーケンスとシーケンスのつながりで説明がなかったり、
登場人物の言動の真意が不可解であったり。

たとえばこのケッスラー。

「父の国(オランダ)を悪く言うな」

などと言ってなぜか爆発物のありかを
日本人に言うのを断固として拒むのですが、野尻中尉の

「君の国(インドネシア)で取れた石油は君たちのものじゃないのか」
「君の父の国(オランダ)は母の国(インドネシア)に何をしてくれた」

という言葉には返すことがもありません。
しかし日本がインドネシアの独立を約束をするという言葉を全く信用しておらず、
したがって爆発物の在処も頑として言おうとしない、という設定です。

よくわからないんだけど、日本にプラントを取られるなら
爆破させた方がまし、って考えているってことなんでしょうか。

「僕インドネシアの人間違う。オランダ人でもない。僕故郷ない」

そういうケッスラーに、砂見は

「ある!あの精油所が故郷だ。それをオランダ人が爆破しようとしている」

と畳み掛けるのですが、精油所がケッスラーの故郷だというのもなんか変だし、
オランダ人が爆破しようとしている、というのも違いますよね。
日本軍が侵攻しなければオランダ人だって精油所を爆破する必要もないわけだし(笑)

とにかく断固スイッチの在処を吐かないケッスラーに業を煮やし、
今まで何人もの人間を同じ理由で手にかけて来た軍曹がナイフを抜いて
「我々の計画を知られてしまったからには」と
殺めようとするのを、

シスター「ここは神聖な場所です。許しません!」
砂見「・・・・じゃ外(庭)に出よう。おれがやる」
シスター「・・・」

庭ならいいのかモレシャンさん。

しかも、軍人でもない砂見、もっと神聖なはずの庭の聖像の前で

ケッスラーに向かって銃を一発。
一日で銃の使い方も教えてもらったんですかね。



勿論わざとはずすというお約束なのですが、
打ち合わせもしていないのに
阿吽の呼吸でケッスラーは死んだふり。
シスターもケッスラーに祈りを捧げるふり。
中隊長も軍曹もなぜかケッスラーの死体を確かめもせず納得します。

おいおいおい。 

そして、案の定この銃声を聞きつけて教会にオランダ軍がやってきます。
彼らはさっそく納屋に車が止まっているのを発見し、ここに日本人がいたことを
確信するのですが、その足許に日本タバコのパッケージが落ちていたので、
シスターは足で踏んで彼らの目から必死に隠すのでした。
すでに車が見つかってしまった今では、その行為は全く意味がないのが残念です。

シスターは裏口から彼らを逃がし、ケッスラーと二人で窓の外を眺めます。



「あの人たちの成功を祈ってやりたいと思います」

とケッスラー。
そう思ってるなら、言ってやれよ。爆破スイッチの場所を。


さて、オランダ軍の基地に忍び込むことに成功したご一行様、
行動開始一分後に囲まれて捕らえられてしまいます。
もしかしたら、わざとかな?



そのころ日本軍基地ではパレンバンに降下する挺進隊が準備完了。



捕まった野尻中尉たちは全員がむち打ちの拷問を受けます。

「あと20分頑張れ。味方がやってくるから」

時計も無いのにどうして分刻みでスケジュールを予想できるのか。

しかし、オランダ軍は人道的なので拷問が済んだらソファーのある応接室で休憩でき、

見張りもついていないので皆でひそひそ打ち合わせることも可能。
手も足も縛られていないので、行動は自由です。



中隊長はなんとソファに横になることまで許されております。
やはり一番階級が上だからでしょうか。

とか言っていたら、基地のサイレンが鳴りました。



いよいよ上空に日本軍が飛来して来たのです。



あとはここから無事に逃げるだけ。
ま、イージーモードですけどね。



案の定オランダ軍は彼らを縛りもせず、二人の見張りを付けて
鍵もかけない応接室に残したまま全員がいなくなります。



なので、銃を持っている二人の見張りを4人で簡単にやっつけて、
なぜかそこにおいてあった四人分の、サイズぴったりのオランダ軍の制服を着て脱出。
この写真を見ればわかりますが、全ての窓は明けっ放しになっています。

そして、脱出成功した彼らはたまたま通りかかった列車に乗って精油所に侵入するのでした。
日本軍の飛行機が補足されているにもかかわらず、列車のダイヤは通常運行で助かりました。



砂見の手引きで爆破スイッチのある施設まで近づく一行。
っていうか、こんなに簡単に特定できるのならケッスラーに聞く意味ってあったのかしら。

「あろー!」

オランダ軍の服を来て、オランダ語で挨拶をすれば
日本人もオランダ人に見えてくる、てか?

誰ひとり並河兵長がオランダ人であることを疑いません。



ナイフでここのオランダ人全員を殺したところで腹部を撃たれてゲームオーバー。



そして、鬼の軍曹、武内も、たった一人で敵を食い止め、
弁慶の立ち往生よろしく目をかっと見開いたまま戦死。
ただし、ご予算の関係で銃痕などの目に見える外傷は全くありません。

砂見と中隊長が爆発スイッチのある部屋に入ると、なんと
そこには砂見が殺したはずのケッスラーが!



なんと、彼はたった一人でスイッチを押すことを阻止するつもりです。
中隊長も、なんでケッスラーが生きているのか疑問に思っている様子がありません。
いろいろあったんで忘れてしまっているのかもしれません。
二人の前でケッスラーはオランダ人の司令によって撃たれて死んでしまいます。

砂見と野尻中隊長、二人でそこにいるオランダ人と大立ち回り。
砂見は敵の司令を深々と突き刺した血まみれのナイフを
直後に口にくわえるという豪快さんぶりです。




彼らの仕事は任務成功の証に精油所のトッピングに発煙筒をつけること。
砂見が銃弾を体に受けつつ、トッピングに登っていき、発煙筒を焚くのですが、
こんな小さな発煙筒じゃ上空からはたぶん見えません。



おまけに凄腕のスナイパーがトッピングの上の砂見に一発お見舞いし、
なんと二発目も見事命中、砂見は高所から地上に落下。



「すなみ~~~!」

駆け寄る野尻中尉。
スナイパーがまだ近くにいるというのに・・・。



驚いたことに三発銃弾を受け高所から落下したのに、まだ生きてます。

「砂見、よくやったぞ!立派だ」
「よしてくれ。照れくさくていけねえや・・。
さっきの話(生きて精油所で働くこと)はやっぱりお預けだ」

そういって安らかに目を閉じる砂見。



「すなみ!
・・・・お前まで・・・お前まで殺してしまった・・・

許せ!

砂見の亡骸を抱きしめて嗚咽する野尻中尉。



爆撃が終わった後、空の神兵(予定)を乗せた輸送機がやってきます。



オランダ軍の反撃も熾烈になってきました。



トッピングの発煙筒を認めた空挺部隊。
「位置に付けえ!」



そして、降下が!



これ、実機なんですが、もしかして第一空挺団協力?



そして、突如鳴り響くのは・・・、そう、

「空の神兵」!

♪ 藍より青き~大空に 大空に

たちまち開く 百千の~♪ 



♪ 真白き薔薇の 花模様 ~

見よ落下傘 空を往く 見よ落下傘 空を往く♪



下界の景色はどう見てもインドネシアのジャングルではなく日本の田園。

だけど、まあいいか。

実は、わたくしそれまでこの荒唐無稽なアクション映画を
鼻で笑いながら見ていたのですが、この曲が高らかに鳴った瞬間、
恥ずかしながらなぜかうるっと来てしまいました。

音楽の力って、偉大だなあ・・・。



しかし、二番の最後にエリス中尉の「センサー」が作動。

「世紀の華よ 落下傘 落下傘
その純白に 赤い血を 捧げて悔いぬ」

次、ご存知ですよね?

「大和魂」(やまとだま)です。
ところがこの後の歌詞は

「二十歳」

に変えられてしまっていました。

にじゅっさい・・・・orz

何が「赤い血を捧げて悔いぬにじゅっさい」だよ!
あっているのは語呂だけで、全然意味わからないし。

大和魂の何がいけない!一体何のために、誰に向けての配慮なのか。
そもそもこんなセンスのない改変をして、作詞者の許可は得てあるのか。
著作権法は・・・・1962年当時には無かったのかもしれないけど・・・。



それはまあいいとして(よくないけど)

♪ この山河も敵の空 この山河も敵の陣 ♪

ってことで、オランダ軍も猛烈に撃ってきます。



この戦闘シーンは映像的にもなかなかちゃんとしていて感心させられました。
なんと、落下傘降下して来た自衛隊員(多分)、河の中に何人も降下したり。

降下して来た空挺隊員と地上のオランダ兵との熾烈な死闘もちゃんと描かれており、
この写真のようにプラントに向かって「伏せ」と「突撃」を繰り返しながら
進撃していく様子は、実際のパレンバン進撃について調べた後の目で見ても、
もしかしたら実際もこうだったかもしれない、と思わせる迫力がありました。



そして、砂見が命をかけて発煙筒をおいた同じトッピング塔には、
鮮やかな(白黒ですが)日の丸が翩翻と翻ったのでした。



死屍累々の精油所。
たった一人生き残った野尻中尉は、隊長に戦死報告を・・・。

「陸軍伍長、村越茂夫、スカランにおいて、戦死!
陸軍上等兵堀江誠一、パレンバン市郊外において、戦死!
陸軍軍曹、武内一、陸軍兵長、並河喜一・・」



「・・・陸軍軍属、砂見勝男、当精油所にて、戦死!」



教会の鐘の音が流れてきました。

「我等に罪を犯す者を我等が人に許すごとく、彼らの罪を許したまえ 」

シスターが彼らの死を悼み魂の平安を願って鳴らす鎮魂の鐘の音が・・・。


糸冬