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映画「ブルー・マックス」~リヒトホーフェンになりたかった男

2012-04-05 | 映画

撃墜王マンフレート・フォン・リヒトホーフェンは、その飛行技術のみならず、
敵を尊重する騎士道にのっとった戦い方、優れた容姿と貴族の血を引くこと(男爵)などから、
第一次世界大戦中のスーパースター的存在でした。

映画「レッド・バロン」で、敵国であるフランスの、しかも歩兵にサインをねだられるシーンが
ありましたが、その名は広くヨーロッパ、アメリカ、そして日本にも鳴り響いていたのです。

同じドイツ軍のパイロットがその名に憧れ、第二のリヒトホーフェンになることをいかに熱望したか。
この映画は、ある下層階級の野心的な青年が撃墜王になることを目指し、軍に利用され、
そして失墜するまでを描きます。

主人公スタッヘル少尉

伍長上がりの少尉が航空学校で優秀な成績を取り、陸軍が航空部隊に赴任してきます。
この映画、ドイツ空軍を扱ったものでありながら、ハリウッド製作なので言語は全て英語。


隊長のハイデマン。胸に「ブルー・マックス勲章」が輝く「20機以上撃墜のエース」。
英語なので「ブルー・マックス」ですが、正式名は「プール・ル・メリット勲章」と言います。
プロイセンの勲章なのに何故かフランス語で直訳「メリットのための」。
ブルー・マックス或いはドイツ語でブラウアー・マックスは、その色から来た通称です。

この最高名誉勲章を得ることが、スタッヘルの野望です。


彼が父親の職業を報告しているときの皆さんの意地悪そうな顔。
スタッヘルの父は部屋数5つのホテルの従業員。
それを皆の前で報告することになり、屈辱を感じます。



しかし、成り上がりであるからこそ何としてでも欲しいブルーマックス。
隊長の説明を聞かず、首のブルーマックスをガン見するスタッヘル。



パイロットとして腕に自信のある彼は、出自をも大逆転できる、このブルーマックスに、
全てを賭けることを決心します。



初出撃で念願の初撃墜を喫する彼ですが、一緒に出撃した僚機を失います。



彼の撃墜を確認していた僚機の士官が死んだので、この撃墜は未確認扱いになります。



そうはさせまじと目を剥いて主張するスタッヘル。
「ここや!ここに落ちたんや!一機撃墜確実や!」(なぜか大阪弁)



「陸軍が未確認と言ったら未確認なの!」

とすげなくされるもあきらめられないスタッヘル。
豪雨の中、下士官にサイドカーを運転させ、撃墜した飛行機を探しに森の中へ。
もう、コイツ一人のために大迷惑。
部下も仕方がないから言うことを聞いていますが、内心「なんじゃこのおっさん」と
忌々しく思っているらしい表情を隠しません。
撃墜機は結局見つからずに、隊に帰ってきて、「御苦労」一言だもん。
全くいい性格してるわ~。
上にも下にも嫌われる、嫌われ者決定。



くやしまぎれにずぶぬれのまま、隊のエース、ウィリ・クリューガーに噛みつきます。
「撃墜機は20機っていうことですが、今まで未確認は?」
「あるとも。三機だ」
「なら撃墜数は23機ですね!」
「いーや、20機だよ(笑)」



隊長には
「搭乗員がいちいち撃墜した飛行機を探しに行って基地を留守にしてどうする!」
と怒られるわ、ウィルには
「君はどうやら僚機を失ったことより、未確認機の方が大事みたいだな」
と嗤われるわ、
皆からは


こーんな目で見られるわで、踏んだり蹴ったりのスタッヘル。
でも、こんな奴、誰にも好かれないですよね。

この映画が、決して悪い映画でも、つまらない映画でもないのに、全く有名でないのは、
この主人公が一貫して全く共感できないイヤーな奴のまま終わってしまうからではと思います。
最後まで、主人公に感情移入できる「それならばこんなになっても仕方ないね」みたいな、
情状酌量に値する「いい人エピソード」が一つもないのですから。



今度こそはと張り切って出撃した空戦で、敵機をキャプチャーしたスタッヘルは、
相手を強制着陸させるために誘導します。
が、後ろで死んだと思っていた狙撃手が息を吹き返したのを見るなり、スタッヘルは
パイロットごと飛行機を皆の目の前で撃墜してしまいます。



「なんだって、殺さないといけないんだ」
皆、スタッヘルのやり方に非難の目を向けます。
好かれている人間ならば、撃墜してしまったとしても何らかの事情があるかもしれない、
と思ってもらえる可能性もありますが、日頃の行いが悪くて、誰も
「狙撃手が生き返った」
というスタッヘルの言い訳を信用してくれません。


そんな皆の視線の中、挑戦的に敵機の機体番号を(布だから)ナイフで切り取り、
「撃墜確認を」と言い放ち、さらに嫌われるスタッヘル。



しかし、そんな彼に目をつけるお偉いさんが登場。
なんと、撃墜王クリューガーのおじさんでやはり伯爵のクリューガー司令
貴族のリヒトホーフェンに対し、今度は庶民出身の撃墜王スターを造ろうと目論みます。
このあたりこそが貴族の傲慢さとも言えるのですが、またそのヨメというのが(画像右)
絵にかいたような貴族ビッ×で、自分の甥、ウィリとできているんですねこれが。
見るからに肉食女のケーティ(ウルスラ・アンドレス)
この女優さん、腰ミノつけてマンモス時代の映画に出ているのを見たことがありますが、
きれいとかきれいでない以前に、猛烈に香水つけてそうなタイプですね。



甥の寝室に忍んでいくついでに、部屋を間違えたふりしてスタッヘルにコナかけるのも、
しっかり実行。
この手の女性を見ると思うのだけど、もう少し西欧の女性はたしなみというか、恥じらいを
知らなければいけないのではないだろうか。

しかし、そんなこんなで目先のご褒美ができたスタッヘル、頑張って撃墜数を伸ばし、
8機を落としたころ・・・。



狙われている赤いフォッカーDr.Iを助けて、自分が撃墜されてしまいます。



なんとそれは彼のアイドル、リヒトホーフェン男爵でした。
ここでもさりげなく「オレの友人だよ」と知り合い自慢をする貴族のクリューガー。
なんと、自分が助けたのはリヒトホーフェンだったのか!



とか言っていたら本人登場。
うわー、いい男。
しかし、周りのだれより背が低いのはいかがなものか。
185センチの身長で、死んだ時はまだ26歳ですぜ。
外国人は老けるのが早いとは言え、これはおじさんすぎる・・・。



礼を言われ舞い上がるスタッヘルですが、一緒にベルリンに来てオレの下でやらないか?
というリヒトホーフェンの誘いを断ります。
なぜなら、彼の野望はリヒトホーフェンになることで、部下になることではないから。
(だと解釈してみました。違っていたらごめんね)

そして決定的な事件が起こります。
スタッヘルが伯爵夫人と一夜を共にしたことを知ったウィリ、怒り心頭。
そんな二人が一緒に組んで出撃、ウィリはさっそく2機撃墜し、余勢をかって、
「やーいやーい、お前こんなことできないだろう」
と橋の下を飛行機でくぐって挑発。



負けん気の強いスタッヘルがさらに狭いところをくぐって挑発し返すので、
それに応じたウィリ、くぐれたのはいいけど、前を全然見ていなかったので木に激突。
もしかしたら、馬鹿ですか?
ウィリの飛行機は大破してしまいます。
驚くべきはこれを見ていたスタッヘルの表情。



薄笑い浮かべてるんですよ~。
引くわー・・・・。



おまけに、死人に口無し、クリューガーの撃墜を自分の手柄にするスタッヘル。
もう、この目を見てくだされば分かりますが、この人、危ない。

このあたりでちゃんとした人間に描いてあげないものだから、
観ているものはこいつの人格に見切りをつけてしまうわけですね。
どうしてここまで徹底的にこの主人公をクズに描いたのか、謎。



このクズっぷりをさらに強調する、ウィリの葬儀の後の二人の濡れ場。
こういう横顔を見ると、この女優さんの「底が知れる」というか、
「あれ?もしかしてあんまり綺麗じゃないんじゃね?」と思われる方も多いかと。
なんだか・・不自然な横顔だと思いません?

しかし、スタッヘルが、何かと出自に対して卑屈の裏返しのような、ナメた態度を取るので、
ビッ×といえども伯爵夫人、「下賤な平民ごときが何を言うの!」と腹を立てます。

ともあれ、ヒーローでっち上げ作戦は功を奏して、スタッヘルは今やヒーロー。
仕掛け人のクリューガーさん、大得意です。



ついに20機を超える撃墜数に達した彼に、念願のブルーマックスが与えられることに。
そして、その式典で新型の単葉機の試運転をさせようと軍は計画します。



式典前日、豪華なホテルの部屋を用意され
「とうとう俺もここまできたか・・・」と感慨にふけるスタッヘル。
感慨にふける間もなく、部屋に伯爵夫人が押しかけてきます。
ところが、何を思ったか、夫人、一緒にスイスに逃げましょう!
などと言いだします。



だって、ドイツはもうすぐ負けるんだから。
私と一緒にスイスに行って、わたしのお金で軍服を脱いで暮らすのよ!
スタッヘルにしたら
「いや、なんで俺が軍人やめてアンタと一緒に逃げなあかんの?」

「だって、ウィリと張り合っていたのも、わたしを取りあってたからでしょ?うふふ」

それ、ぜんっぜん違うから!全く勘違いだから!
こういう人いますよねー。
自分を張り合う男たちを見て喜びを感じる女。
「けんかをやめて~二人をとめて~わたしのために~争わないで~」
と言いながら実は得意になっている女。
それは違います、とあっさり男が言うと、



そして、くやしまぎれにスタッヘルがクリューガーの撃墜を横取りしたことを、
なんと知り合いの陸軍大臣とやらにいいつけます。
全く、こんな女に手を出すのが身の破滅ってやつですよ。

そして、いよいよ念願のブルーマックスがスタッヘルの首にかけられる時が来ました。
(冒頭画像)
その式典の最中、クリューガーに陸軍大臣から電話がかかってきます。
「スタッヘル少尉がクリューガー大尉の手柄を横取りしたという疑惑がある」
「それは・・・・どこからの情報ですか?」・・・ジロリ。



はい、アナタの奥さんです。
クリューガーは妻にこう言います。
「それを誰から聞いた?」
「本人から・・・」
「勲章まで受けたドイツの英雄だぞ!今さらどうしろというんだ!」



取りあえず、試験機はハイデマン隊長が代って操縦しますが、帰ってくるなり
ハイデマンは
「あの飛行機は危険です。帰って来られたのが奇跡だ」

ピコーン。(クリューガーがひらめいた音)

「あーもしもし、それでは、次にスタッヘル少尉に飛ばせてくれ」



得意満面のスタッヘル少尉。
自分が今からどんな飛行機に乗るのか、知る由もなかった。



万雷の歓呼に答えて自分の棺桶(予定)に乗りこむスタッヘル。



え?なんであの飛行機にスタッヘルが乗ってるの?
危ないってオレ言ったよね?
信じられない思いで飛行機を見つめるハイデマン隊長とその妻。(岡田茉莉子)



 怖い・・・。








「・・・・・・・・」

ところで、「どうしてそんな密告をしたのだ!」とクリューガー司令が伯爵夫人に訪ねますが、
その答えっていうのが、これなんですよ。



感想:
一人として、好感の持てる登場人物のいない映画というのは、
名画には決してなりえないということがよくわかりました。