ネイビーブルーに恋をして

バーキン片手に靖國神社

短気なご先祖さま

2012-04-29 | つれづれなるままに







皆さんは、自分の家系についてご存知ですか?
わたしの実家にも父方の家系図というものが存在していました。
まだ中学生くらいのときですが、それを見る機会があり、興味深く眺めていたとき、
妹が「あっ!この名前」というので指さすのを見ると、「千次郎」という名前が。
その何カ月か前、妹は横向きにうとうとしていたのですが、背後から大人の男の声で
「センジロウ・・・・・」と言うのを聞いたのだそうで・・・・。
そこにいた全員、つのだじろうの漫画のひとのような顔になってしまいました。
千次郎さんにもっとも近い時代生きていた祖母を除いては・・・。

千次郎さんが妹に何をアピールしたかったのかはわかりませんが、
我々がこうしてこの世に今現在存えるには、太古の昔から繋がってきた命があるわけで、
この「千次郎事件」は、みたことのないご先祖さまの存在を、なぜか実感することとなりました。


先日、インターネットで見た情報によると、士農工商の時代、
武士の割合は全体のわずか五パーセントだったそうです。
私の父方は士族の家系でした。
小さい時からその話を何となく聞いて育っていたので、自分が少数派だとは全く思っていず、
その割合を見てあらためてびっくりしました。

父の家はどこやらの何とか藩(これはぼかしているのではなく、本当に忘れた)の
武芸指南役だったそうで、殿様や若様に剣道を指導する係の家筋だったそうです。
そういう家なので、女性といえども武芸は嗜み、曾々祖母くらいまではナギナタは基本。
何とか言う武芸の流派を継承し、鎖鎌の名手であったという話を聞きましたが、
こういうことって、伝聞ですので、それを裏付ける資料でもないと、全く実感がありません。
先祖代々伝わる銘刀や鎖鎌でも残っていたら「ああそうなのか」って思うんでしょうけれども。


そこで、もう一度冒頭のマンガなのですが、これは実話なのです。
しかも、わたしの連れ合いであるTOの母方のご先祖様の話です。
TOの祖先には、「お酒が大好きで墓石を屠蘇とっくりの形にした人」あるいは、
高山彦九郎のように土下座している自分の像を作った人、
(皇居ではなく、遠くの地に離れて住んでいた奥さんの方を拝んでいるらしい)
など、なんだか一筋縄ではいかないタイプが多いように思うのですが、
もっと一筋縄でいかなかったこの漫画の主人公。

その医者は、加島隆元(仮名)と言います。
村では評判の名医とその呼び名が高く、あるとき、地元の大名がその評判を聴いて、
持病の治療をさせるため、隆元をお城に呼びました。

その当時、身分の高い大名などの診察をするとき、医師は糸脈と言って手首に糸を結びつけ、
その先を隣の部屋で握った医師が脈を見るという、随分まどろっこしいことをやっていました。
これが、隆元が御典医ではなく、一介の町医者であったからなのか、
どんな医者でもそうしていたのかはわかりません。

この殿さま、自分で呼んでおいてなぜか悪戯っ気を出したとみえ、
隆元が自室に下がっているのをいいことに、糸の先を猫に結びつけて脈を取らせました。

「して診たては?」
それに答えて隆元、
「かつおぶしでもやりなされ」

ここで終わればマンガのネタだけで(あまり面白くはありませんが)すんだのですが、
ここからが問題。
「侮辱された!」と怒り狂った隆元は、自分の屋敷に火を放ったうえ、自決してしまいます。

後味の悪いのは隆元をからかった殿様。
しかも、その後次々と災難が降りかかるように起こるに至って、
「隆元の霊のたたり」ではないかとまわりも噂するようになり、
殿様は、隆元の霊を慰めるために墓のそばに神社をたて、鎮魂に努めたと言うことです。

それにしても、この話を知ったとき、
いつも穏やかで怒ったことのないTOのご先祖にしては短気なご先祖様だなあと思いました。
いくらなんでも、からかわれたくらいで自殺して、おまけに祟らなくたって・・。

しかしこの話は、隆元が御典医ではなく、村の名医であったことにポイントがあると思います。
この糸脈にしても、こんなよくわからない方法を大名の侍医が恒常的に使うわけでなく、
「下々の」村医者であるから、この方法を取らざるを得なかったのであったとすれば、
隆元にとってもそれは不本意な治療であったと言えないでしょうか。

わざわざそういう冗談をするために呼びつけたのだとしたら悪質ですし、
わざわざ城に出向いていってこけにされたとあっては、
誇り高い人物ならば、この屈辱に対し死をもって抗議するのも当然かもしれません。


それにしても、殿様には当然かかりつけの医師がいたでしょうし、名医であったとはいえ、
わざわざ野にある医者を呼び寄せるにはそれなりの切羽詰まった事情があったはず。
にもかかわらず「殿さまジョーク」をかましたこの殿さまも、一体何を考えてたんだか、
ってことになります。

ついそういうことをせずにはいられない「いちびり」だったのか、あるいは、
平民の医師なので、侮っていたのか、それとも御典医のからんだいやがらせか・・。

とにかく、ご先祖様はこういう理由で神様になってしまいました。


地元には今でも、その墓と共に小さな祠が現存しています。