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「ムルデカ17805」~軍人を演ずる男優について

2010-12-14 | 映画

日本の男優というのは、しかし皆どうして旧軍人の役がはまるんだろう。

日頃茶髪や金髪の男優が、この旧軍の軍服に身を包んだとたん、なんだか目つきや姿勢まできりりと引き締まり、見事に「軍人」になってしまうのはなぜか。

今絶賛こき下ろされ中の市川海老蔵にしても、「出口の無い海」で回天搭乗員を演じたときは実に清廉な、帝国軍人(あの映画の場合は軍人にならざるを得なかった大学生)の空気をまとっていたように見えました。

エリス中尉は、私生活でどんな破たんしていようが、鼻もちならない嫌われ者であろうが、スクリーンの上で演技ができるのであれば支持、と日頃思っているのですが、この海老蔵に関して言えば
「これだけ化けられれば許す」
かな。

ただ、その本業、歌舞伎俳優てしてかれがどうであったか判じることができるほどの歌舞伎に対する知識がないので、事件そのものに関してはノーコメント。

と言いたいところだけど、一言穿った事を言わせてもらうなら、
「なぜ今?」
かれの素行の悪さと嫌われっぷりは今に始まったことではなかったそうで、事件そのものも「嵌められた」という説が有力。
ではなぜ今「嵌める」のかというと・・・。

なんだかね、押尾事件といい、これといい、報道で大騒ぎ「させたい時期に」起こっているのではないか、と、茨城県の地方選の結果をろくに報じないでこればっかりやっているマスコミを見ると一つの言葉が浮かんできてしまうんですよね。

「目くらまし」




さてとにかく、日本人男性で俳優という仕事をしていて、一度や二度は経験していそうな「軍人役」。

その風格やなんかによって司令官向き(例:三船敏郎、小林桂樹)将官向き(丹波哲郎)士官向き(中井喜一)学徒士官向き(小栗旬)兵曹向き(ガッツ石松。陸軍ね)二等兵向き(ホンコン、Mr.オクレこの人たちも陸)と使用上の注意は分かれるものの、多少大根であっても、軍服を着せればみななぜかそれなりにさまになってしまう。

この現象を、
日本の男優がその根っこに持っているが、決して大きな声で公言できない役者としての冥利の一つに
「旧軍人を演じる」
というものがあるせいでは?
とエリス中尉、実はひそかに思っているのですが、いかがでしょう。





さて、この映画で軍人役をしているのが、山田純大。
ご存知「男たちの大和」にも下士官役ででていました。
陸軍中野学校卒の中尉という役どころなのですが、陸軍の軍服がそう好きでないエリス中尉もこの人の長靴のやたら似合う軍服姿を見て、カーキも悪くないと思ってしまったくらいです。

陸軍軍服のいいところは、本日画像の酷暑地用の半袖ですが、ウェストが極限まで高く、
ベルトが太くてコルセットのようになっている。
ジョッパーズと言われる太腿部分がゆったりしたズボンの膝から下はまっすぐなブーツ。
これは非常に下半身が長く、バランスがよく見えます。
山田純大は腰が非常に高いスタイル良しなので、アップ映像より全身像で魅せる俳優だと思います。

(身長180センチ、股下90センチだそう。道理で)

そして、インドネシア人の解放武装組織PETA(人民解放軍)を結成しその訓練にあたる島崎中尉の熱血漢ぶりを好演しています。

前半でオランダ軍司令部にほとんど丸腰(日本刀一本)で単身乗り込み、降伏を勧告するシーンがあります。
これが史実としてはどうだったのかはわかりません。
しかし、日本の軍人というのは、誤解を恐れず言うなら日本人はこのような状況においてはこの島崎中尉のように
「身命を賭して」
と誓うことによって、公人としての途轍もない勇気に身を守られるものなのだろうか、と思わされます。

ひいては、この私を捨て公でありたいという思いが己の命をも国に捧げると言う情熱につながるものでありましょう。
「国に騙された」
「戦争という悪に虐げられた」
という一面からだけで、意気高く戦った彼らの死を断じては申し訳ないように思います。


そして、日本語で通訳させながらの降伏勧告。
躊躇うオランダ軍中将に向かっていきなり島崎中尉、英語で

「人命の尊さを考えると、ここで撤退を決定するのも尊い決断ではないか」
というようなことを言い始めるのですが、この英語があまりにも流暢なので驚いて
山田将大の履歴を調べました。
アメリカで学生時代を過ごしLAで大学を卒業しているとのこと。

経歴から見てもバイリンガルと言ってもいいのではないかと思いますが、
それを売りにしている俳優さんでもないようですね。

その意気やよし。


さて、この映画は
「日本の侵略戦争を美化するもの」
として、左派グループの糾弾と上演廃止を求める声にさらされました。

その理論の不思議さについてはまた稿を改めたいのですが、この団体に言わせると
「侵略を美化する邪悪な目的」
の映画であるこの「ムルデカ17805」は、日本軍を神の部隊のように描いている、何しろこんな日本軍人がいるわけがないということにつきるのだそうです。

たとえば、厳しい規則に耐えかねて塾(軍事教練を日本軍が与えていた)を脱走したインドネシア青年に、日没までずっと直立不動でいる罰を与えるのですが、島崎中尉は
「部下の不始末は上官の責任」と言い、隣りでずっと一緒に立っているのです。

この事件は島崎中尉のモデルとなった柳川宗則中尉が実際に青年塾のインドネシア青年に与えた罰直だそうです。

この映画は、日本人の持つ責任の取り方、あくまで義に誠実であろうとするこのような美点を描くとともに、権力をかさにきて現地人を蔑んだり、大本営の意向に逆らえず無体な命令を下すといったありがちな日本人の欠点も公平に描いています。

しかし、糾弾派にとってはその描写はまったく意味をなさないとのこと。
「こういう日本人も出てくるがしかし」
の一言で、矛先は相変わらず「日本の侵略美化」に向かうのです。

やれやれ。

さて、この映画には軍人役で保坂尚輝(島崎中尉の中野学校の同級生である中尉)、
直接の上官である大尉(榎孝明)
今村中将(津川雅彦)
などが出てきます。

津川氏はこの制作者がこの映画の前に作った「プライド」という映画で東条英機を演じ、さらに自身のブログで保守再生日本を訴え日本の国体維持の精神を説く漢ですが、案の定左派からは目の敵にされているようです。

津川氏ほどの俳優としての実績とすでに得た名声があっても、今の日本でこういう思想を明らかにすると言うことは大変なことのようです。
ましてやスポンサーの意向一つで明日から首が飛ぶ「電波芸者」の俳優やタレント、キャスター(笑)が政治的に中立であろうとすることなど不可能なことなのでしょうね。

主演の山田純大という俳優さんについて、全くと言っていいほど先入観も無かったのですが、この好漢島崎中尉を早い時期に演じたことによって不愉快な目に遭わなかっただろうかと、要らぬお節介の心配をしてしまいました。


しかし、島崎中尉を演じたことがかれの俳優生活にとって
「冥利」
であったかどうか、いつか語ってくれないかなあ、ともひそかに思っています。