噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

司法制度改革審議会の罪状

2013-04-01 10:03:03 | マスメディア
 司法制度改革審議会が2001年に提出した法曹3000人計画はついに破綻が確定しました。朝日新聞は3月28日「法曹養成 破れた理想」という見出しを掲げましたが、破れたのは理想ではなく妄想というべきです。当時の合格者数から3倍、それ以前からは6倍という大幅な増員の根拠が薄弱であり、遠からず破綻を来たすことが予想できました。

 現実を理解しない人たちによって作られたこの計画は実施されてようやくそれが机上の空論、あるいは妄想であったと証明されました。このバカバカしい証明には10年を超す年月と多くの代償が必要となりました。

 「社会の隅々まで法の支配を」というのが理念であったのですが、日本が無法社会ならともかく、むしろ争いの少ない住みやすい社会であり、この理念は初めから見当違いです。彼らが目指したのは津々浦々まで弁護士や検事が配置され、社会の隅々まで法の支配が行き渡る社会、但木元検事総長が法化社会と呼ぶ社会です。ちょっとうがった見方をすると、これは法の支配の代行者である法曹の権力強化を狙ったものではないかという気がします。また法というものを過大な期待をもつ(あるいは崇める)一種の観念論の匂いもします。

 それはともかく、難関とされてきた司法試験でも合格者を一挙に何倍にもすれば質が低下するのは当然のことです。そして需要が急増する理由があるわけがないので就職難が起きることも容易に予想できます。にもかかわらず実行されたことで多くの代償を払うことになりました。

 チャンスとばかり、雨後の筍のように出現した74校もの法科大学院に高い授業料を払った卒業生のうち7割以上が不合格となり、数万人の若者の前途を狂わせることになりました。そして法科大学院自体も多くが絶滅の危機に瀕しています。

 最近の合格者は2000人前後ですが、それでも司法修習を終えた弁護士志望者の3割近い542人が弁護士登録をしていないそうです(昨年末)。深刻な就職難が現実のものとなり、合格者さえもその前途は不確かなものとなっています。

 弁護士の過剰は「新たな仕事の創造」を促します。消費者金融業者に対する過払い金返還請求は弁護士業界の特需となりましたが、請求を代行する一部の法律事務所が消費者金融業者と裏で結託し、返金額を減らして「効率的に和解」して双方が利益を得ていたという報道がありました。債務者だけがバカを見るというわけです。

 またブラック企業が話題になっていますが、その違法行為に手を貸すブラック士業と呼ばれる弁護士、社会保険労務士が存在するそうです。弁護士数の急増で仕事がないために違法行為に加担してしまうということです(文芸春秋4月号)。違法行為に加担という意味は実質的な違法行為を違法とならないようにする「専門的」な仕事のことでしょう。「法化社会」とはこのようなものであったのでしょうか。

 仕事がない連中が多く発生すれば、こうした新たな仕事の創造に向かうのは自然のことで、これは弁護士全体の信用を傷つけます。弁護士が信用できなければ恐ろしくて仕事など頼めません。

 このように罪深い法曹3000人計画ですが、誰も責任をとらず、釈明すらありません。司法制度改革審議会の会長であった佐藤幸治京大名誉教授のコメントが朝日に載っていますが、「法曹人口の大幅な増員やいまの養成制度は、グローバル化する世界で日本が地位を築くために必要だ」と、全く反省する様子が見られません。

 他にも副会長の竹下守夫一橋大学名誉教授、弁護士の中坊公平氏、作家の曽野綾子氏、日本労働組合総連合会副会長の木剛氏(いずれも当時)ら13名が審議会の委員として関わったのですが、誰ひとり結果に責任を負いません。審議会というのは重大なことを実質的に決めながらその責任はゼロという、実に便利な制度であります。

 猪瀬直樹氏は道路関係四公団民営化推進委員に就任の際、周囲から猛反対を受けました。審議会などにこのような骨のある人物が就任するのは例外で、通常は制御可能(コントローラブル)な人物が選ばれます。

 司法制度改革審議会を実質的に主導したのは学会・法曹界の偉いセンセイ方で、他は「広く意見を集めました」と申し訳するための人選と思われます。主導したセンセイ方からは、如何にしてこの迷惑な妄想が作られたか、改めてお聞ききしたいものです。

参考資料 司法制度改革審議会意見書(2001年6月12日)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿