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気象庁の非科学的表記法

2019-08-11 21:37:32 | マスメディア
 日本には毎年のように台風が訪れる。その都度、テレビや新聞には台風情報が載る。ところが台風の大きさと強さの欄が"―"と表記されていることがある。多くの人はこの台風は大きさと強さがまだ不明なのか、と理解するだろう。まさかそれが小型で、弱いという意味だとは想像しないと思う。

 気象庁のウェブサイトには用語の解説がある。それによると台風の大きさは3つに分類されている。風速15m/s以上の半径が800km以上を「超大型」、500kmから800kmを大型、500km未満を(表現しない)と記されている。(表現しない)のが"―"なのである。強さについても、詳細は省くが、風速によって4つに分類されている。強い方から「猛烈な」「非常に強い」「強い」そして弱いは(表現しない)となっている。

 気象庁の意図は「小型」「弱い」という表記は油断を招きかねないとして避けたいのだと思う。しかし"―"では誤解を生む。また、これは文学ではない。科学の分野であるからには表現は正確にするのが当然である。この表記の裏には読者・視聴者の理解力を小学生並みに低く見ている気持ちがあるのではないか。

 気象庁のウェブサイトには気象警報・注意報などに関する実に詳しい資料が載っている。しかしあまりに複雑すぎて理解が難しい。特別警報、警報、注意報、早期注意情報があり、それぞれ大雨や洪水、暴風などの気象現象との組み合わせになる。さらにこれとは別に短時間記録的大雨情報というものがある。これは別のページであり、全体との関係性はわからない。また問題を一層複雑にしているのが内閣府が発表する警戒レベルである。警戒レベルは1から5まであり、気象庁の警報などにある程度対応する。ある程度と言ったのは大雨特別警報はレベル5であるが高潮特別警報と高潮警報はレベル4、大雨警報と洪水警報がレベル3と、警報のレベルと警戒レベルが一致しないからである。こんなわかりにくいものを、よってたかってよく作ったものだと感心する。

 これらの情報を元に具体的な避難勧告や避難指示は自治体から出されるのだが、大雨の場合、避難勧告と避難指示は共に警戒レベル4に含まれる。緊急性が異なる勧告と指示が同じレベルというのはわけが分からない。7月3日、鹿児島市全域の約59万人に対して避難指示が出された。ところが実際に避難したのは0.6%に過ぎなかった。全域避難が問題になり、後で市の担当者が説明した。全域と言ったが、実際の避難指示は危険な地域に対してであったと。実にいい加減な釈明である。それなら避難指示の際に説明すべきである。他の例でも実際の避難者の率はこんなものだろう。これは結果的に気象庁、内閣府、自治体の出す情報が信用されていないことを示している。

 気象警報、避難情報にはわかりやすさと信頼性が重要である。気象庁は視聴者を小学生並みに見たような表現をしながら、一方で内閣府とともに複雑怪奇な情報の体系を作って国民に発表している。関係者は災害を防ごうと個々に努力しているのはわかるが、結果としては失敗していると言うべきだろう。避難率0.6%がそれを物語る。

 ついでながら数年前、気象庁は特別警報なるものを作り、発令の単位を府県単位とするという不思議な決定をした。府県単位は誰が考えても大きすぎる。この第一号は京都府などに出されたが、日本海側の大雨であった。100km以上離れた京都市も特別警報下に入り無用な混乱を招いた。逆に2013年10月の伊豆大島の豪雨災害では死者・行方不明者が39名を出したが、この時、特別警報が発令されなかった。府県単位の発令(つまりこの場合東京都全域となる)なので、伊豆大島だけの降雨予想では面積が足りず、出せなかったということらしい。降雨予想の地域が一定以上ないと発令できない仕組みらしい。最も緊急性の高い特別警報が出ていないことが住民の油断を招いた可能性がある。府県単位という当初の愚かさが招いた結果である(現在は改善されているそうである)。

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