噛みつき評論 ブログ版

マスメディア批評を中心にしたページです。  姉妹ページ 『噛みつき評論』 もどうぞ(左下のBOOKMARKから)。

流言は智者に止まる

2010-02-18 10:09:29 | Weblog
 「流言は智者に止(とど)まる」。智者は根拠のない流言を次へ伝えず、さらに広まることはない、という意味で、伝聞を吟味せずそのまま伝えることの愚かさを言いたかったのでしょう。裏返しにすれば、流言は愚者の口コミによって広まる、となりましょうか。

 これは荀子の言葉だそうですが、この言葉が今日まで生き続けてきているということは、教育が普及した現代でも社会は昔とたいして変っていないことを示しています。

 携帯電話を使うと脳腫瘍になりやすい、カロチンを多く摂ると肺ガンを予防できる、水からの伝言、など、現代の流言は無数に存在します。荀子流に言うとこれらの流言は愚者によって伝えられているというわけです。

 トヨタのリコール問題では、トヨタを非難する多くの言説がメディアに掲載されました。多くのメディアや論者がたいした根拠を持たずに、伝聞と憶測に基づいて、安全軽視だの、あるいは傲慢の故だなどと批判を繰り返していました。時流に乗る、あるいは付和雷同といった動きは見苦しいものです。

 2月16日の朝日新聞の投書欄には「リコール 安全の軽視が原因」というテーマの投書が載りました。58歳の主婦によるもので「利益を追求するあまり、基本である安全、ユーザーの利益をおろそかにしてきた結果ではないだろうか」と、どこかで聞いたような常套句が並んでいます。多分、この主婦様の主張はそれ以前の朝日の記事を素直に反映したものなのでしょう。

 投書の数が何十が何百か知りませんが、「リコール 安全の軽視が原因」を選び出したのは朝日であり、投稿者の名を借りて自らの主張をするという、いつもの手口が感じられます。投稿者の原稿は朝日の意向に沿うよう改変されている可能性があります。いつものことですが、内容に責任を持たないずるいやり方です。かつて私も全体の半分近くを書き換えられた経験があります。文章の修正などというものではなく、担当者の作文によって置き換えられ、主旨までも変えられたのには閉口しました(朝日の投稿欄)。

 朝日は「リコール 安全の軽視が原因」という根拠のない流言を800万部印刷して日本中に配布したわけです。朝日は単なる愚者でなく、800万倍という増幅作用をもつ流言の王者ということになりますか。

 2月11日の記事に書きましたが、トヨタのリコール問題は単純ではありません。技術的な理解もできないまま、トヨタのイメージを毀損するような記事は大きな問題です。自動車産業は広い裾野を持っていますから、トヨタが減産ということになれば多くの人が職を失う可能性があります。もっとも深刻なダメージを受けるのはトヨタよりも、立場の弱い彼らでしょう。巨大な流言装置は与える被害も甚大です。

 現代は「流言はメディアによって拡大する」わけで、事態は荀子の時代より深刻と言えるかもしれません。


最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (銘無し)
2010-02-18 13:28:36
トヨタのリコール問題に関しての技術的なことは分かりませんが、記者会見で言っていた「感覚の問題」はNGワードだったと思います。
ブレーキの効きが悪いと怒っているユーザーに「感覚の問題」などと言ったら、「誰の為に車作ってんだ!」と返されるのが目に見えています。
ましてや、正義のマスコミ様の前であんなことを言ってしまっては…。
実際ABS登場時も同じような議論が起こりましたが、あの時はどうやって切り抜けたのでしょうか。

ブレーキがらみの別の話ですが、アクセルとブレーキが同時に踏み込まれた場合にブレーキが優先されるようにはなっていなかったそうです。(今回改修対象になりました)
自分の「感覚」としては慌てて同時に踏んでしまう可能性がある以上、止まるほうを優先すべきと思う。(同時押しを普通に行うレーシングドライバーは別の意見があるでしょう)
トヨタに限った話ではなく、大衆車を作っているメーカーとしてはもう少し、サンデードライバーの「感覚」をもう少し聞いておくべきだったのではないかと思いました。
返信する
Unknown (こん)
2010-02-18 21:53:15
朝日がきちんと検証せずに…という問題認識は同意ですが。
トヨタがリコール申請を発表する前日だったと思いますが、「とくダネ!」で実験をやっていました。
どんな実験かは書くと長くなるので「とくダネ プリウス 実験」などのキーワードで検索してみてください。
結果は10mのオーバーランでした。

ドライバーは試乗のプロ(正式な肩書き忘れましたが、年間100台ペースで試乗テストしているカー情報誌の編集者か何かだったと思う)とのことでしたので、かなり信憑性を感じました。
ABS頼みできっちり強めにブレーキを踏めば、トヨタの発表の通り、ほんの0.06秒、0.7mの空走なのかも知れません。
でも、凍結路面での急ブレーキを避けるため、あるいは燃費を考えて回生ブレーキが効くよう、弱めにブレーキを踏む人は、とんでもない距離を空走してしまう可能性がある実験結果でした。

しかし、トヨタがリコールを発表するや、当の実験を行った「とくダネ!」すら、トヨタ発表の額面通りの報道(0.7m)しかせず、前日やった実験結果には触れもしませんでした。
普通、10mもオーバーランした結果を知ってて、0.7mと発表されようものなら、おいおいそんなもんちゃうやろとツッコムところだと思いますが、日本のマスコミは優しいですね。
マスコミはトヨタに非を認めさせて勝利宣言、でも勝った以上は、これ以上相手を痛めつけるのも大スポンサーだし得策ではないってとこで、相手の言い値で矛を収めた感じです。

まあ、私としてもトヨタの業績が悪化すれば回りまわって自分の仕事がダメージを食らう可能性は高いので、この件に関しては複雑ですが。
トヨタは日本を代表する製造業ですし、原点に立ち返って、燃費などよりまず安全、きちんとやってもらいたいです。
返信する
Unknown (okada)
2010-02-19 10:07:18
銘無しさん
「感覚の問題」という発言はまずかったですね。マスコミ様に恐さをご存じなかったようです。
>ABS登場時も同じような議論が起こり・・・
知りませんでしたが、ABSも条件によっては制動距離が伸びるので議論が起こっても不思議ではないです。
>アクセルとブレーキが同時に踏み込まれた場合にブレーキが優先される・・・
これを採用しているのはドイツ車らしいですが、簡単な仕組みなのでつけた方がいいと思います。昔と違ってサンデードライバーの感覚に合わせるのが時代の流れでしょうね。
返信する
Unknown (okada)
2010-02-19 10:43:32
こんさん
「とくダネ」の実験を検索しましたが、シートの上に洗剤をまいて滑りやすい状態を作り、初速35km/hで制動実験をしたということがわかりました。
ただ緩くブレーキを踏むと10mのオーバーランになったとのことですが、「緩く」ということが曖昧であり、その加減によってはどのような結果にもなりうるのではないか、という疑問を感じました。10mという数値は具体的で衝撃的ですがその条件が曖昧では少し問題ありかなと。
「とくダネ」が翌日その実験に触れなかったのは実験の恣意性が突かれることを心配した可能性はないでしょうか。
トヨタにも非があるとしても、その非を誇張せずに伝えることが大切であり、トヨタ叩きというような感情に訴えることに疑問を感じるというのが言いたいところです。
返信する

コメントを投稿