噛みつき評論 ブログ版

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投票を左右する新聞情報の「品質」

2010-07-12 10:01:56 | Weblog
  前回、マスメディアには投票先を選ぶための情報を提供するという役割があると述べました。7月8日の朝日新聞にはほぼ1ページを割き「上げるのか 消費税」と題して、賛否両論を載せています。今回の参院選では消費税の増税が主な争点であり、時宜に適った企画なのですが、残念なことに一方の論者の人選にいささかの問題があるようです。

 消費税上げの必要を説く土居丈朗慶大教授の主張はまともであり問題はないのですが、森永卓郎氏の方は大いに問題ありです。そもそも真面目な学者と、ほとんど冗談みたいな人を並べるのは土居氏に対して失礼であるばかりか、読者に対し森永氏がまともな人物であるかのような誤解を与えてしまいます。

 どんな人物であれ毀誉褒貶はつきものですが、以下の評価はまともなものだと思います。
森永卓郎という日本の癌」・・・城繁幸氏
「破廉恥で利己的な強欲タレント」・・・潮匡人氏

 「消費税を上げる必要なんかありません」という森永氏はその根拠として円と国債が上昇していることを挙げ、日本の財政は危機的ではないとします。また日本は97年にデフレに突入したが、当時の税収は54兆円間。今は37兆円なので、デフレを止めれば税収が17兆円増える、と主張します。そして日銀の資金供給を2倍にすればデフレは一瞬で止ると。

 こんな簡単なものなら苦労はないと思いますが、怖いのは、朝日新聞に載るのだからとこの珍説を信じてしまう読者が生れることです。朝日は森永氏にお墨付きを与えた形になります。そして、悪いことに森永氏の意見は極度に単純化され、わかったように思わせるように作られています。

 複雑な要因が絡み合っている事象に対して、ひとつの要因だけを取り上げ、全体を断定的に結論付けるやり方はわかりやすいのですが、扇動者に似合うやり方であり、誠実さが感じられません。

 まともな主張であれば消費税上げに反対の意見を掲載するのならよいのですが、ようやく財政健全化の気運が出てきた現在、冗談のような意見のためにせっかくの気運がしぼんでしまっては悔いが残ります。

 このような記事を掲載すれば、経済に関する朝日の見識レベルが疑われます。もしそうでなければ消費税上げに反対する勢力に加担するためと思われても仕方ありません。このような記事は有権者の賢明な投票行動にとって有害だと思われます。

 7月11日の天声人語にこんな一節があります。
「国民は程度に応じた政府しか持てない、と古くから言う。だが先日の小紙、作家の池澤夏樹さんが『どうも政府のレベルは国民のそれを下回ってきた』と寄せていた。『われわれの実力からすればもう少しましな政府は持てないものか』と。
後段では有権者の1票の意味を説き、政府のレベルが低いのは投票の結果であるような話になります。

 マスコミは第4権力とも言われるように、政治や投票行動に大きな影響力を持っていることは事実であり、レベルの低い政府しか持てないことにマスコミが少なからぬ責任を負っていることは明らかです。天声人語の筆者は責任の一端を担う立場でありながらまるで他人事のように書いています。マスコミが投票するわけでなく、たしかに建前ではその通りですが、いささか厚顔無恥の態度と言えるでしょう。


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2 コメント

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Unknown (フラット)
2010-07-13 16:02:05
国民のレベルはイコール教育のレベルなのではないでしょうか。イデオロギーも同様です。
例えば、国民をどのように偏向させ、どのくらいの思考レベルに抑えるのかを文科省が操作して愚者を増産……なんてことは多分ないとおもいますが、日教組はそれに近いことをやっているような…。その結果が民主政権ならばできすぎた話ですね(笑

一方、マスコミは営利を得るためにポピュリズムに迎合し、否、むしろ多数派世論を積極的に形成する煽動者としての側面を強めているやに見えます。しかしてその思想背景はいったいなんなのでしょう? 右左の思想傾向だけでなくスポンサーや株主の意向も汲んでいるとしたら一貫性のない歪んだ「大人の都合」のもとに報道しているのでしょうかね? よもや政府や官僚機構に操作されているということはないと思いますが……

日教組のような組織はその見識や偏向っぷりが周知であり、その評価も概ね一定したものでしょう(だいたいが批判論ですが)。しかしマスコミ各社は実際のところどうなのでしょうね。左の朝日、右の産経とかって括りは恒常的ではないように思えるときがありますし、経済や内政など部分的な話では似たような見解を示すこともあるでしょう。もしかしたら大手マスコミに所属する記者自身が一貫していない社内の方針やイデオロギーに翻弄されていたりするってことはないですかね。
ま、そうであったとしても事実のみを公正に配信するという本来の在りようを全うすればいいだけのことなんですが、どう偏向してよいかはっきりせずに見識なき記事を書き連ねているのかも……なんていうのは穿ちすぎかな?

民度に合った政府か……欧州各国も大概なものだと思いますが、やはり民主主義の限界なのではないかと考えたりもする今日この頃です。実質GDPに合わせたレベルで生活していれば赤字国債などそもそもありえないのにみんながいい暮らしをしたがるから政治家が無理を通す。結果、経済が破綻しかかっても国民が生活面での既得権益を手放そうとせずストなんかして政府に圧力を加える。外国にそのしわ寄せを持ってもらってでも自分たちはいいくらしがしたいと主張する。この状況を根治させるには一般的な民主主義体制下では無理でしょう。だって「国家再建のため、皆さん貧乏に耐えて下さい」なんて言ってる政治家に誰が一票を投じます?
(ギリシアだと荷物の運搬はロバでやるくらいの生活レベルが妥当なんだそうです。そりゃ戻れませんわな)

日本もそういう時期にさしかかっているけれども、増税を口にするのが精一杯で、エネルギーや食料分配の大幅減とかを主張する政治家など一人もいない。まぁそんな奇特な人はやっぱりまず当選しないだろうけど。


散文的でありながらこの長さ……毎度すいません。
ちなみに「モリタク」はタレントとしてはキライではありません。エコノミストとしてもお笑い担当と割り切って見てます。彼のインフレ論には夢がある(笑
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Unknown (okada)
2010-07-13 22:36:27
国民のレベルは教育のレベルに影響されますが、卒業後はマスコミに教育されるという部分が大きいのではないでしょうか。他国のマスコミは知りませんが、日本の迎合番組を見ているとあまり利口な人間になるような気がしませんね。

おっしゃる通り、イデオロギーの影響力は小さくなったように思います。反面大きくなったのはマスコミにあっては収益でしょうね。朝日は今も左路線ですが、親朝日の読者の期待を裏切らないことが安定した経営の方向なのでしょう。「大人の都合」ですね。しかしそれに反対する人もいるわけで、一枚岩でないと聞きます。

民主主義の限界と言われましたが、その通りで、民主主義に期待をかけすぎる建前論が多すぎると思います。他の制度より少しマシ程度に思う必要があります。それにしても日本の政治は西欧に比べて見劣りがします。財政赤字の突出はその証のひとつではないでしょうか。

建前はどうであれ、実質はマスコミが国民を引っ張るのである以上、マスコミのレベルが低いことがもっとも問題だと思います。とりわけ科学や経済の勉強をちゃんとしてほしいですね。
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