噛みつき評論 ブログ版

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顕示的消費とユニクロ現象

2009-12-21 09:53:19 | Weblog
 かなり古いことですが、なかなか売れなかった宝飾品に10倍の値段をつけたらすぐ売れたという話がありました。この種の話は誇張されて伝わることが多く、そのまま信じるのは賢明ではありませんが、この話は顕示的消費の例で、ヴェブレン効果とも言われています。

 私達は商品を購入するとき、一般的には商品の実用価値に対価を払います。しかし宝飾品、高級衣類、高級車などを購入する場合、実用価値だけでなく、それによって得られる幸福感に対価を払います。

 幸福感は商品を他人に顕示することで得られる優越感に多く由来すると言えるでしょう。高級品を身につけることは財産や高所得を示すラベルを身に貼り付けることでもあります。この場合、高級品を誇示された側は劣等感を持つ可能性があります。つまり優越感には他人の劣等感が必要というわけで、合計するとゼロになるかもしれません。

 他人に対して優越したいという欲求はかなり強いものです。フロイトは人間を行動に駆り立てる基本的な動機を性欲に求めましたが、フロイトの弟子、アドラーは基本的動機を他に対する優越であると考えたほどです。

 現代は物が豊富にありますが、それまでは欠乏時代が長く続きました。そのため、物を所有するという欲求は普遍的なものであったと思われます。物と交換できる貨幣についても同じです。したがって、物や金を多く所有することによって他に優越するという動機は最も一般的であったと思います。

 数十年前、車は経済的地位の象徴でした。しかし少しずつ実用価値の割合が増してきて、地位の象徴としての意味は徐々に薄れてきたように思います。

 物が豊富になったため、物の相対的な価値が低下して、社会的地位、知識や頭の良さ、趣味の世界、洗練された生活様式、など他のカテゴリーで差をつけようとする傾向が強くなってきたのは自然なことでしょう。

 ユニクロは規格品を大量生産・販売し、社会に広く受け入れられました。これは多品種少量生産という現在の流れとは逆方向です。安価で品質がよいことがその大きい理由であることはもちろんですが、衣類が以前ほど優劣を競うカテゴリーではなくなったことも理由のひとつだと思われます。衣類は実用価値が重視されるようになったと考えられます。

 京都では、一見して金持と分かるような身なりをする人間は軽蔑されるという風潮がありました。見えないところに金をかけるのがよいとされたわけです。私は好きにはなれませんが、一種の洗練とも言えるでしょう。

 一方、最近の若者の世界では無理をしてまで車を所有するのは格好悪いこととされているそうで、大きな価値観の変化が感じられます。若者に車が売れなくなった理由のひとつだそうですが。

 物を買い集め誇示する方向から、様々なカテゴリーで価値を見つける方向への転換は、資源の有限性からも歓迎すべきことでしょう。少なくとも多数が大型の高級車を目指す社会よりも好ましいと思います。GDPの成長にとってはマイナス要因かもしれませんが、それは仕方のないことでしょう。