噛みつき評論 ブログ版

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終末期医療と安楽死

2009-12-14 09:16:07 | Weblog
 以下は医師で作家の久坂部羊氏が「終末期医療はだれのため?」という題で書かれたものの要約です(2009.2.12 産経新聞)

 『私が在宅医療で診ていた乳がんの末期患者Kさん(72)が、入院先で亡くなったという連絡が届いた。Kさんはは午後8時過ぎに心肺停止の状態で発見されて、すぐに当直医が呼ばれ、心臓マッサージなどの蘇生処置を受け、心拍が再開した。その後、人工呼吸器を装着し、強心剤などの投与を行ったが、治療の甲斐なく、翌日の午後9時過ぎに息を引き取ったという。

 慌ただしくのどに人工呼吸の管を挿し込まれ、激しい心臓マッサージを受けるのは、決して穏やかなことではない。Kさんは痩せていたので、本格的な心臓マッサージを受けたら、肋骨が折れた可能性も高い。点滴だけでなく、尿の管も入れられただろう。がんの末期で静かに死を迎えているのに、そうやって生の側に引き戻すことが、ほんとうにKさんのためなのだろうか。

 Kさんの意識がもどらなかったからよかったものの、気がついていたら、きっと治療の苦しみに悶えたにちがいない』

 誰もがこんなことはされたくないと考えることでしょう。むろんすべてがこのようなものではないと思われます。DNR(Do Not Resuscitate 蘇生拒否)シートを出しておけば避けられる仕組みになっているものの、上記のようなことがある以上、まったく安心というわけにはいきません。

 久坂部羊氏は「こういう事例を耳にするたび、終末期医療はいったいだれのためにあるのかと、考え込んでしまう」と結ばれています。

 少しでも命を延ばそうとする周囲の気持ちと、苛酷な延命治療を受けて亡くなった人が「もうこりごり」といった感想を述べる機会のないことがこの背景にあるのでしょうが、あまりにも形式に偏重したやり方との感が否めません。

 さて日本では呼吸器外しが殺人罪に問われる状況ですが、欧州ではかなり変わった状況が見られます。今年の3月、ルクセンブルグはオランダ、ベルギーに続き安楽死の合法化に踏み切りました。

 自殺を禁じるキリスト教の影響下にある国々が合法化に踏み切ったのは自らの命は自らが決めるという権利意識がより強いためだと言われています。いろいろ議論があることは承知していますが、少なくとも自分の命を他人が決めるより、合理性があると思います。

 また7月には英国の著名指揮者夫妻がスイスの病院へいき、安楽死を果たしました。これはスイス安楽死ツアーとも呼ばれ、諸経費は500から1000スイスフラン(約4万3500円~8万7000円)で、支援団体があるそうです。国外で安楽死が可能となると費用を負担できる人にとっては現実の選択肢となり、日本だけが禁止してもその意味は薄れます。

 日本は宗教色が薄く、安楽死に対する抵抗感が比較的小さい筈ですから、「東洋のスイス」になって国際的な貢献をすることも可能だと思うのですが。