噛みつき評論 ブログ版

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カナダの陪審員残酷物語・・・日本の裁判員は?

2009-01-23 12:53:54 | Weblog
 『1990年代の半ばから2001年にかけて何と26人の女性を殺害したとされるロバート・ピクトンという容疑者がいる。この人の裁判は一年近く続いていて、先週の金曜日からようやく陪審員たちが審議に入った。

 今回の12人の陪審員に26名全ての裁判を任せるのは、あまりにも大変であろうということで証拠がある程度はっきりしている6名に関する裁判がまず行なわれた。それでも今年(08年)の1月から裁判が始っているため1年間になる。この期間12人の陪審員(男性が7人女性が5人)たちは仕事も休んでずっと法廷にいた。法廷の中で見聞きしたことを人に話してはいけないので、裁判所にホテルのようなものが併設されているのだと思うけれども、この人たちはそこから動くことができないし、家族や友人などの身近な人に見聞きしたことを話すこともできない。

 また事件の証拠として、普段見ることのないような非常に残酷な写真やビデオなどを見なければならない。自分の中で抱え込まなければならないストレスがとても大きいようで、その後トラウマとして残ってしまう人も少なくないようだ。
 陪審員にとってこの体験は非常に大きなものだから、終わってからも嫌な夢を見たり、不眠症などに悩まされたり、事件の内容によっては自分の身にも危険が及ぶことを恐れるようになったりするそうである。今回は1年近く裁判が続いているので、元の生活に戻るということもなかなか大変である。この制度は国民の義務なので、同じ職場に戻って同じポジションで仕事を始めるということは保障されているのだけれども、1年間も仕事から離れていると色々なことが変わっているだろうし、人間関係のようなものも微妙に変わってくるだろうし難しいと思う』

 以上は08年12月6日、NHKラジオ深夜便で放送された、カナダ・モントリオールからのレポートの一部を要約したものです。私は放送を聴いたものの、正確には覚えていないので検索したところ、放送内容をほぼそのまま文章化している「そのまたそのうえ」という親切なサイトを見つけました。上記の要約はそのサイトに依っています。

 死刑のないカナダで、裁判にこれだけの時間と費用をかけていること、そして陪審員の負担の大きさに驚きます。むろん、カナダの陪審員制度はわが国の裁判員制度とは異なり、また上記の例はカナダでも特別のケースでしょうから単純な比較はできません。それでも重罪を裁くことに対して、わが国の裁判員制度は少し安直という印象を受けます。

 裁判員制度では約7割の事件が3日以内、約2割の事件が5日以内,約1割の事件が5日を超えると説明されており、たいした負担はないように見えます。しかし5日を超えるという1割の事件は上限が示されていません。最高裁の資料によると平成19年の公判前整理手続に付された裁判員制度対象事件の開廷回数では11回以上が17件あり、うち2件は20回以上となっていますが、それが何回なのかは不明です。開廷回数の最大値も正直に発表すべきです。まあそれでもカナダよりもずっと短期間なのでしょう。

 少し気になるのですが、最高裁のHPでは、「約7割の事件が3日以内・・・」という説明が以前は目立つところに載っていたような気がするのですが、現在は目立つところには見当たりません。日弁連のHPも「争いのある事件でも数日間で審理が終わることが多いものと見込まれます」という表現にとどまります。

 広島の女児殺害事件の一審では裁判員制度を意識した短期間の審理が行われましたが、二審の広島高裁は審理が尽くされていないとして差し戻しました。この事実は短期間の審理に疑問を投げかけるものとして重要な意味を持ちます。

 短期間審理に早くもクレームがつき、期間が延びる可能性が出てきたので「7割は3日以内・・・」といううたい文句を引っ込めたのではないか、と勘ぐりたくなります。審理をきちんとすることになれば裁判員の負担が大きくなる可能性があります。

 一方、カナダも米国も、刑事事件の評決は陪審員の全員一致が原則と聞きます。これは誤判をできる限り避けるためだと思われますが、多くの時間を要します。それに対してわが国は多数決ですから、終了予定時刻がくれば、「はい、時間がきました。死刑に賛成の方、手を挙げてください」で終わることができ、たいへん効率的です。

 しかしながら予定された時間内に、被告の刑罰、場合によっては被告の生死を、素人6名を含む多数決で決めるというやり方に対し、やはりこんなに安易なことでいいのかと思ってしまいます(参審制を採用している主要国では有罪には2/3の多数を必要としている国が多いようです)。