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書評『パブリック・ジャーナリスト宣言』小田光康著…メディア理解にもお薦めの一冊

2007-12-10 10:05:31 | Weblog
 本書は、広く情報を伝えるという機能がほぼマスメディアに独占されている現状のなかで、市民が主体となるパブリックジャーナリズムの意味とその置かれた状況について、大変わかりやすく書かれています。

 第1章は概観した導入部で、パブリックジャーナリズムの社会的背景、社会に於ける位置づけ、その存在の根拠を社会学の概念などを交えて説明していますが、若干しんどく感じられる部分がありました。しかし第2章以降は俄然面白くなります。

 第2章「PJニュースの生い立ち」第3章「PJニュース騒動記」から第5章までは、現実感豊かに描かれ、一気に読めます。様々な困難、試行錯誤の連続の生い立ちは、むろん単に面白いだけでなく、広範な知識の裏づけによって、メディア界の現状や問題点がよく理解できる仕組みになっています。

 メディアを概説する本は少なくないのですが、方法論から始め、概念の定義などに多くのページを割く、退屈な教科書のような本があります(私はこういうものはたいてい途中で投げ出します、もう少し読者サービスを考えろと)。本書はこれとは対照的で、興味に惹かれて読むうちに理解が進みます。

 IT革命のおかげで情報の伝達コストはタダ同然になり、既存のマスメディアが独占していた状況が変わりつつあります。それを背景とした市民メディアの誕生なのですが、第4章ではその運営が決して簡単なものでない事情が描かれます。

 ひとり立ちできない市民メディアが多いなか、PJニュースが独立性を維持できていることは、ひとつのモデルを提示したという見方もできます。しかしPJニュースは小田氏の個人的な能力によるところが大きく、簡単に真似ができるものとは思えません。また、その依存度の大きさ故、組織としての安定確保が今後の課題のひとつでしょう。

 PJニュースの編集方針は、地域社会を活性化する情報、災害時の生活情報、メディア・クリティークの3本柱からなっていますが、批判の仕組みのないマスメディアに対する批判勢力であろうとする3番目の方針にはとりわけ意義を感じます。

 本書は市民メディアを主題としていますが、記者クラブ制度など既存のマスメディアが支配する現行システムの持つさまざまな問題点の指摘も的確であり、納得できるものです。市民メディアに関心のある人にはむろんですが、一般の人にとっても、メディアリテラシーを理解するのに大いに役立つことから、広く読まれることを期待します。