(5)写真とイメージ
なじみの立ち食いそば屋に「小天丼セット」というメニューがあります。かけそば(または、うどん)+小天丼のセットです。このセットの紹介写真が壁に貼ってあります。その写真の片隅に、以下のような文言が書いてあります;
「写真はイメージです」
さて、これは何を意味しているのでしょうか?
「写真という芸術作品はイメージ表出方法の一つです。」という、スーザン・ソンタグばりの写真論の哲学を表わしたものでしょうか?
「写真」とは、写「真」というように、以前は真実を写し出すものと考えられてきましたが、今や、「真」も「偽」も、カタカナでいえば、ノンフィクションもフィクションも、写し出すものだと考えられるようになりました。デフォルメやトリミングなどによって受ける印象がガラリと変わるのが写真の真髄で、そこに「写真芸術」が生まれてきたといってもいいでしょう。
「写真はイメージです」はそのことをいっているのでしょうか? 街角のコピーとしては何とも高尚です。
ここで、チョイ悪おやじがしたり顔で説明します;
「ここに掲げた写真は商品(小天丼セット)の大まかなイメージを理解していただくためのものであって、実際の商品は、かけそばのつゆが少なかったり、小天丼のエビが曲がっていじけていたり、湯気が立っていなかったりすることがあるのをご承知置きください、と、客に事前の了承を求めているのですよ。」
なるほど。すると、ここでいう「イメージ」とはおおまかであいまいな像を指していることになります。スーザン・ソンタグの写真論とは対極にある「イメージ像」です。
このように、日本人は外来語を本来の意味から離れた日本語に化けさせることを得意としているようです。 (2012/6)