アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

2017年度「北海道アイヌ生活実態調査」

2018-06-22 09:08:02 | 日記

2017年度に道が実施した「北海道アイヌ生活実態調査」が発表されました。

過去調査と比較したい方はこちらから、それぞれ確認されるといいでしょう。

道新毎日読売などで記事になっています。いずれも閲覧期限があると思われるので切れていたら先住民族関連ニュースブログで検索してください。 

前回の調査が2013年に行われ、今回で8回目となります。この調査におけるアイヌ民族の人数は、「地域社会でアイヌの血を受け継いでいると思われる方、また、 婚姻・養子縁組等によりそれらの方と同一の生計を営んでいる方」について、各市町村が把握することのできた人数なので、把握できていない方もおられるという意味で「道内に居住するアイヌの人たちの全数とはなっていない」とただし書きがされています。あるいは、法務省が出している薄い冊子『アイヌの人々と人権』のただし書きには「アイヌの血を受け継いでいると思われる方であっても、そのことを拒否している場合は調査の対象としていません」とありますので、そのような方もおられるのでしょう。さらに、道内に限っての調査なので、道外・海外を含むアイヌ民族の総数にはなっていません。これに対し、道アイヌ協会の副理事長が「過去の戸籍を調べれば総数を正確に把握できる。これでは実態調査とは言えない」と批判しています(読売)。

過去と比較しながら今後に調査結果をくわしくじっくりと見ていこうと思います。紹介できる余裕もあまりありませんので、ここでは気になるところのみピックアップします。まずは、今回の調査を過去2回(2013年)の調査と比較しながら対象とした世帯数、及び、人数を見ると、

2006年は72市町村に8,274世帯、23,782人(’99年比較で15人と519世帯増加)

2013年は66市町村に6,880世帯、16,786人(‘06年比で人口約2割、世帯で3割の減少)

2017年は63市町村の5,571世帯、13,118人で、前回より3668人減(人口・世帯共2割減少)

2回連続で2割ずつ減少。9年で1万人以上(半数近く)が減少したとはどういうことでしょう。

読売には、道アイヌ政策推進室の「個人情報保護の意識が高まり、調査を委託した自治体が把握しにくくなっていることが背景にある」との見解を紹介しています(道新も同じ)。これも先の道アイヌ協会副理事長の批判を当てはめると、道は真面目に把握する気がないと言えるでしょう。

オオウバユリの根 今年も採りました。

「概要」を見ると「新規調査」として、「アイヌの人たちに対する施策の認知度及び利用度」「複合差別の有無」「複合差別の要因」などが加わっていて、アイヌ女性らが行なっている複合差別に関する問題意識が道に伝わっていて、道も取り入れたいい傾向に感じました。ただ、複合差別について、複合差別を受けたことが「ある」ないし「見聞きした」が20.2%、「ない」11.8%。それに対し「わからない・不詳・無回答」が73%もあり、問題意識(わからずに差別している、あるいは差別されている)をより広めるという課題は浮き彫りにされたと思いました。

また、アンケート用紙の実物が見られないので確認出来ませんが、「アイヌの人たちが必要としている対策」「アイヌ政策の再構築に望むもの」などの設問が複数回答をよしとしながらも固定されていて、その中には「先住権の復権」とか「自己決定権の確保」など本来、先住民族が与えらるべき重要な権利に関しての回答選択がないようなものだとしたら意図的としか感じられません。そもそも、「アイヌ民族」ではなく、あいかわらず「アイヌの人たち」と記し、先住民族としてのアイヌではないかのように書き続けているのですから根本的に問題にすべきと思います。

671人を対象にした面接調査で行った、差別に関わる質問では、「差別を受けたことがある」は23.2%(前回23.4%)。学校での差別が多く、職場や結婚、交際での差別も多くあります。差別をしない、させない、見逃さないための施策をもっと行うべきでしょう。

過去に書きましたが、カナダの場合は政府が主導して1991年から先住民族委員会を設置して詳細な調査を行い、2008年に「真実と和解のための委員会」をつくり、さらに寄宿舎学校問題を調査し、2015年に「報告書」を出します。そこには、「同国の同化政策を文化的ジェノサイドとよび」(丸山2016.2)、政府に対して先住民族と和解するための具体策を国連権利宣言に基づき94項目あげて、その実行を迫っているのです。日本政府はそのような動きに見習うべきですし、アイヌ政策推進会議はそのような提案を積極的に行うべきではと思います。

知里幸恵さんが好きだったというエゾカンゾウ。毎年、6月8日に旭川で開催される幸恵さんの誕生祭に野生のものを200本ほど採って供えます。