アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

『アイヌ民族否定論に抗する』榎森進さんの特別掲載

2015-02-12 19:05:21 | 日記
過日、Amazonで購入した『アイヌ民族否定論に抗する』(岡和田 晃,マーク・ウィンチェスター)。
特別掲載として、榎森進さんの「歴史からみたアイヌ民族―小林よしのり氏の「アイヌ民族」否定論を批判する」を読みましたので紹介します。

小林よしのり氏は、アイヌが「民族」であるか疑問であり、さらに「先住民族」であるかどうかについては、学問的にも「異論」があることを、文化人類学者の河野本道氏の見解に依拠して述べているようです。
それに対し、榎森さんは
「この河野本道氏の見解は、あくまでも氏個人の独自の見解にすぎず、学会の定説になっている見解ではない。氏の、アイヌの墓標の特徴を根拠にした「アイヌ文化」の地域的相違の存在の指摘以外の問題、特に「アイヌ民族否定論」は、学会では受け入れられていないのである」
と、あっさり批判。そして、「民族」の定義については、様々な見解があるが、
「日本語における「民族」という語は、一般に、言語の共通性をはじめ、宗教・芸術・衣食住の習慣・価値体系の共通性を有する特定の個別文化と、こうした個別文化を有している人間集団の構成員の同集団への「帰属意識」の存在を「民族」形成の大きな要因とみる見解が支配的である」
と述べ、こうした、現在の学会における一般的な「民族」の定義を踏まえれば、アイヌは「民族」だと説明。さらに、1457年の東はムカワ(現・鵡川)から、西はヨイチ(現・余市)にいたる地域のアイヌが一斉に蜂起した「コシャマインの戦い」をみるにいたったのも、当時の「アイヌ集団」が「民族」としての「アイヌ民族」を形成するにいたっていたからに他ならない。そうでなければ、こうした広範囲にわたる地域の「アイヌ集団」が反和人の戦いに立ち上がった理由を説明できない、と。1669年の「シャクシャインの戦い」も、東はシラヌカ(現・白糠)から西はマシケ(増毛)にいたるさらに広範囲のアイヌ民族が立ち上がったのも、明確な「帰属意識」が存在していたからこそだ、と。

また、榎森さんは「ユカラ」にも注目しています。
「ユカラという口承文芸が成立するためには、その内容を聞いて理解し、納得する人間集団の成立が前提となる。つまり、共通の言語をはじめとして、その内容を理解出来る特定の個別文化と、こうした個別文化を有している人間集団への「帰属意識」が存在していなければならないが、「ユカラ」という口承文芸が成立したということは、それを謳(うた)い、またそれを聞いて、その内容に共感する「人間集団」が形成されたことを意味しており、換言すれば、この口承文芸の成立こそ、「アイヌ民族」の形成を証明するもっとも典型的なものといえるのである」


近所の中学生女子達がバレンタインの手作りチョコを作る会を教会で行い、ひと足お先に頂戴しました。

さらに、小林氏の見解で見過ごせないこととして、1970年出版の『アイヌ民族誌』(アイヌ文化保存対策協議会編 第一法規)の中で高倉新一郎氏が執筆した文書に依拠して、「民族問題としてのアイヌ問題は、1960年代で終わったのだ」と記しているところ。高倉氏がこの本で書いていることは、「アイヌ民族問題は、もはや社会福祉問題になっている」との趣旨の内容で、これも高倉氏個人の見解であり、歴史学研究者の共通した見解ではない、と指摘。
「むしろこの時期は、アイヌ民族の復権運動が高まりつつある時期で、高倉氏は、アイヌ民族の復権の意義を理解することが出来なかった結果、こうした意味の文章を書いたのであって、日本の研究者が高倉氏と同じ見解を共有していたわけではない。しかも、この文献に収録されている文章の多くは、アイヌ民族を「研究の対象」として観て北研究者の文章であることを指摘しておく必要がある」
と書いています。
まとめると、小林氏の論理は、他人の著者内容の一部、それも小林氏の見解に都合のよい人の文章にのみ依拠して、自己の論理を展開し、自己の見解を絶対的なものとして書いているところに大きな特徴がある。したがって、彼の論理には科学的根拠は一切ない! と批判。

先日、精神科医の香山リカさんが小林氏と長時間に渡る対談をし、月刊誌「創」15年月号で、17ページもの長文の「激論」が掲載されたことが報道されました。香山さんの相手に「意見の撤廃をしてもらう」ために対談に望んだ姿勢に頭が下がります。(J-CASTニュース-2015/2/9 http://www.j-cast.com/2015/02/09227467.html )
期限切れの場合は、「先住民族関連報道ブログへ http://blog.goo.ne.jp/ivelove 
香山さんは『アイヌ民族否定論に抗する』にも執筆されていますので、榎森さんの小林氏批判を読まれて対談にのぞまれたのでしょうが、「科学的根拠が一切ない」ことは指摘されたのでしょうか。機会があれば「創」も読んでみたいです。


センタースタッフ会のあと、札幌雪まつりを見学。あまりの寒さで人形劇を観たかったものの挫折!
昨日、情報センター蔵書・映画DVD・講演テープ・民族音楽CDのリストを道内の教会・関連施設に送付しました。蔵書は789冊、関連報道や映画DVDは226本、いろいろなところに出かけて録音した講演テープ(資料付)は156本。音楽CDは60本。
センタースタッフ会で、このリストの使い方を説明する文書があったらいいのではという意見が出て計画中です。たとえば、書籍数册や数本のDVDを選んで紹介し、教会で自主学習会などに用いてみてはいかがでしょうか、というようなもの。アイヌ文化振興・研究推進機構なども利用して毎年制作しているアイヌの伝統・文化を題材にした絵本(最優秀賞作品)なども、こども用に配布できたらいいなとも考えているのですが、可能なのか今度、問い合わせてみようと思います。
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