アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

有識者懇報告書をめぐって

2009-12-07 21:38:55 | インポート
5日(土)に、WINアイヌの学習会で、上村英明さん(市民外交センター)の講演「先住民族アイヌの権利確立に向けて」を聞いてきました。
先の有識者懇談会の報告の特徴と評価について、いい学びとなりました。
なにげに疑問に思っていたことですが、国会でアイヌが日本の先住民族だと認められて今後のアイヌ政策のあり方を有識者たちで審議したはずなのに、その報告書には「アイヌ民族」とは書かれず、あいかわらず「アイヌの人々」を使用していました。やっぱりおかしいことだと確認できました。
では、なぜ?と聞いても「ささいなこと」として問題にされないかも・・・。

上村さんは報告書に関して、「政府機関の報告書としては『有用』であるが、問題は多岐にわたって深刻である」と指摘。

「有用な点」として、先住民族の認定やいくつかの歴史的記述、また、重要なアイデア(観光政策など)を列挙。

問題点として、まず構成員の問題を取り上げました。ほとんどが大和民族であり、大半がアイヌについて無識者だった、と。
さらに、内容に関して以下を指摘(わたしのまとめですのであしからず)。
①報告書はアイヌ民族の歴史を叙述し、それを権利保障の基盤とするが、そこには「大和民族」の歴史観からの脱却ができていない。たとえば、「近代国家の成り立ち」の重要性を指摘しながら「植民地主義」を明確に認めていない。また、戦後日本政府の責任(「農地改革」問題、単一民族幻想流布、ウタリ有識者懇報告と文化振興法評価)を言及せずにすっとばしていること、など。
②アイヌ民族の全体性は認めたがアイヌ民族の個別性や多様な対応の必要性について触れていない(せっかくヒアリングやったのに聞いていない)。
③具体的政策に集約される問題点として、
(1)人権侵害があるにも関わらず、「『国民の理解の促進(教育・啓発)』が権利保障の前提」など記述されている
(人権侵害をやめることをまず行いつつ並行して人権教育を進めていくべき)。
(2)国連宣言の遵守を表明しながら多くの条文を無視し、「文化」振興という視点に限定してしまっている。
(3)法制化が外されて「あとがき」に希望として記載している。
(4)財政基盤が触れられていない。


昨年の有識者懇開催中に阿部ユポさん(アイヌ協会副理事長)の講演の中に、二十数年訴え続けてきたアイヌ新法案などに答えてほしいと要望されていました。アイヌ新法案は今もアイヌ民族の要望として生き続けているのです。(アイヌ文化振興・研究推進機構主催セミナー’08/8/29札幌 http://www.frpac.or.jp/rst/sem/sem20.html )。


上村さんは「今後の方向性」として、まず、国連宣言の第42 条【宣言の実効性のフォローアップ】について説明してくださいました。国連宣言は「宣言」ゆえ、法的拘束力はないと言われますが、この42条には以下の明記があります。
42条「国際連合および先住民族問題に関する常設フォーラムを含む国連機関、各国に駐在するものを含めた専門機関ならびに国家は、本宣言の条項の尊重および完全適用を促進し、本宣言のフォローアップ(追跡措置)を行う(市民外交センター仮訳改訂2008 年9月21日)。

つまり、「先住民族問題に関する常設フォーラム(PFⅡ)が監視機関としてつねに監視しているし、今年(8/12)の第12回期人権理事会にて、人権高等弁務官事務所が人権理事会に各国での宣言の実行に関する年次報告を義務化することが決定したので、常に国連にて国際的な目が光っている、と。むしろ、「宣言」だけれども厳しい監視がある、と。

また、最後に新しい政治状況の中での諸課題として、以下を提起。
①新たな審議会でどこまでアイヌ民族の意見が反映できる組織としていけるか。
②アイヌ民族の意見をアイヌ民族自身がどういう風にまとめていけるか。
③大和民族として、歴史の枠組みの見直し(日本史とアイヌ史を分ける)、謝罪・賠償への土台つくり。


上村さんの話しは分かりやすく説得力がありますね。
留萌では雪が降り積もっては融ける繰り返しです。しかし、今朝から気温もグッと下がり、猛吹雪。いよいよ根雪となるでしょうか。皆さんもご自愛下さい。
今週の金曜日には機関紙ノヤの最新号を発送できそうです。やっと事務仕事が終わりました。



ブヌン民族村のモニュメント(最近、写真が撮れず失礼)