アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

チ・カラ・ニサッタ学習会「アイヌ民族教育・異文化教育」

2009-05-13 08:06:26 | インポート
9日(土)のチ・カラ・ニサッタ主催の学習会が持たれました。
「民族教育について」を熊本大学非常勤講師のジェフ・ゲーマンさんからお話を伺いたいへん勉強になりました。
遠く離れてはいるものの、ニサッタのメンバーとして一緒にやっている仲間だけあって専門分野からわたしたちが聞きたいことを教えて下さいました。ジェフ、ありがとうね~

彼を見かけたのは2年前の旭川の知里幸恵誕生祭がはじめて。次は北大アイヌ・先住民研究センターに過去講演を見せてもらいに訪ねたとき。いづれも顔をあわせた程度ですが、いつも満面の笑顔で親しみを感じていました。今回は、「いつもblogを見ているから久しぶりと言う感じがない」と言って頂き、大変恐縮しています。今回も見てくれていますか?


さて、本題です。ジェフさんはアメリカ生まれですが日本滞在20年。日本の教員になることを目指したこともあったようですが紆余曲折のすえ、出会いの中でマイノリティーのために働くことを希望。その後、2年間、アラスカの大学で先住民族の教育について学び、今回そこで得たことを紹介してくださいました。

まずは課題整理のために、第5回有識者懇談会で配布された中川裕(千葉大学人文社会科学研究科)さんの資料「資料2」を紹介し、説明をされました。

中川さんの資料はわたしも知っていましたが、過去blogに書いたようにその手前にあった「資料1」「自然人類学から見たアイヌ民族」(篠田謙一国立科学博物館・人類研究部)に集中していてきちんと読んでいませんでした。
ジェフさんは中川さんが引用してるリチャード・ルイズの「三つの言語観」を引用し、この「言語」の変わりに「文化」「教育」を当てはめてもいいだろうと説明。
①権利としての言語(文化・教育)
②資源としての言語(文化・教育)
③問題としての言語(文化・教育)


「権利」としてのそれは、その民族のアイデンティティーと関わる当然の権利として持てるもの。
「資源」としてのそれは、その民族の世界観・思想を学ぶための資源となるもの。たとえばアイヌ語は一語一語にその使われてきた世界観があり思想が込められている。それらを学ぶことによって得られるもの。この学びはアイヌ民族以外の人にとっても益になる。
「問題」としてのそれは、先のプラス的な面とは違って、マイナスの面。「アイヌ語を勉強しても活かす場がないから意味がない」というような諸問題。
(これらに加えてもう一つジェフさんは「ヒーリング」を入れましたが、これは割愛します)。
言語(文化・教育)を考える際、以上の考え方、とらえ方が出来ると説明されました。なるほどこのように整理できますね。


ジェフさんは中川資料をさらに引用して「言語政策の3本の柱」を紹介。
そこにはマイノリティーの言語の維持・復興に関する重要なものとして以下の3つが挙げられています。
①地位(status)
②核(corpus)
③威信(prestige)


①の「地位」は、その言語の社会的位置づけ。日常で当り前に使い、学校で教えたり裁判で使用できる、公に認められる公用語とすること。
②の「核」は、その言語の辞書や教科書など、それを用いることによって教材が開発できる資源のこと。
③の「威信」は、その言語の社会的なイメージ。①の「地位」とも密接に関係します、中川さんはこんな説明を入れてます。以下引用。
たとえば、「冬のソナタ」を皮切りに日本で韓流ブームが起こった際に、韓国語(ハングル)学習者が非常に増えたのは、地位の問題ではなく、韓国語の威信の向上による効果である。
(有識者懇談会のウェブ・ページ参照)

ジェフさんはこれらを紹介しつつ、この言語政策の「言語」の部分も「文化」「教育」に変えてもいいだろうと説明し、①「地位」は民族学校の法的地位や措置をしていくこと、②「核」はそれらを守るための資金援助、③「威信」は国がもっと力を入れることなどを提案。
「威信」については、例えば国立のアイヌ民族博物館や国立劇場を作るなど力を入れたり、大河ドラマなどでブームを起こしたりすることで変えられるという案は納得。

これら三つはいずれもつながっていて一つも欠けてはいけないものですし、連携しつつそれぞれを強化していくべきものと思います。

ジェフさんのお話は質問や意見もたくさん飛び交い、充実したものでした。
話の中で自己エンパワメントを充実させることについても出てきたのですが、アイヌ民族のSHIMAさんも共鳴しつつご自身のお話をされて豊かなものでした。

さらに彼は、アイヌ民族の言葉や文化を継承するための一石二鳥の方法があるというではありませんか。それは、アイヌ語を話したりアイヌ文化を継承しているエカシやフチのところに若い人たちを三年ほど住み込みなり近くに住んで通わせるなりして生活を一緒にし、どっぷりと浸かりながら継承していく方法がある、と。これらを専門用語で「言語伝承師弟」制度というそうですが、なるほど。考えてみれば中本ムツ子さんも白沢ナベさんに寄り添われていたようなことを伺っていますし、白老にはエカシやフチに密着するというのではないですが三年間の研修制度によってアイヌ文化継承者を育成しているプログラムを持っていますし、効果は抜群でしょう。これらのことに国も協力してくれたらいいですね。
それと「言語の巣」(Language Nest)というのがあるそうで、保育所、幼稚園などにエカシやフチを先生として招き、こどもたちが毎日そのエカシやフチと過ごすことで言語を自然体で身につけることを可能にする方法のようです。実際は、エカシ、フチはお疲れになることでしょうから、実施に関しては十分考える必要はあるでしょうが。


最後にアラスカの五つの民族の中のひとつアサバスカン民族の行なっている野外研修制度(研修場に数週間のキャンプを行い、古老にも来て頂いて伝統的な生活をして過すプログラム)のビデオ紹介を観ました。この研修はこども向けやマジョリティー教師養成課程のものもあったりで、頻繁に行なわれているそうです。自然の中で自然と共に生きている全住民族にとっては、自然が生きる糧をえるところであり、文化伝承する教育の場ですから、その場で共に過すことは大切なのですね。

あっという間の4時間でした。まだまだ書きたい事もありますが、おいおい関連することと共に紹介します。感謝・感謝。



北大構内にある遺跡保存庭園の中。絶滅危惧種のキバナノアマナに囲まれた竪穴式住居址碑


その夜は留萌に戻り、日曜日は礼拝後、道北地区委員会のために名寄へ。
翌11日(月)は、同志社大学の人権教育委員会夏期現地研修下見でキリスト教文化センターから二名の方が来られたので千歳空港経由で二風谷を久しぶりに訪問しました。夏に10名近くで研修に来られるとのことでお手伝い出きることをうれしく思います。夕方4時過ぎに二風谷を出発し、札幌でお二人を降ろしてそのまま留萌に帰宅。

今週は13日(水)、カナダ合同教会から道北地区研修に来られている皆さんと旭川アイヌ民族フィールド・ワークのお手伝いで川村カ子トアイヌ記念館や知里幸恵文学記念碑などを廻ります。
15日(金)は朝から北海道アイヌ協会総会を傍聴しに札幌。名称を「ウタリ」から「アイヌ」へと戻しての最初の総会です。翌16日(土)は大通公園にて10時から開催される「アースディー エゾ2009」というイヴェントを紹介されたのでのぞいて来ようと思います。ライヴの時間にはアイヌ・アート・プロジェクトも参加されるとか。大通り公園でガンガンとアイヌ・ミュージックを奏で、みんなでリムセ(輪踊り)したいですね~。楽しみです。

有識者懇談会のニュースも書きたいところですが、これから旭川に行くので次回に。