goo blog サービス終了のお知らせ 

八咫烏の声

神社の行事、社務などの日記です。

刎頸の交わり

2012年05月08日 13時53分25秒 | ことわざうんちく

本日は汗ばむぐらいの陽気です。

・・・これからどんどん蒸し暑くなってくると思うと・・・憂鬱です(汗)

こんにちはI権禰宜です。

さて本日は以前ご紹介した「完璧」の故事の続編・・・

24_481

『刎頸の交わり』


~前回までのあらすじ~



野心溢れる秦の昭王は、趙の国宝「和氏の璧」をその手中に収めるべく15の城(小国の領地に相当する土地)との交換を持ちかける・・・。

しかしそれを偽りの条件と見た趙の使者・藺相如怒髪天を衝く勢いでこれを阻止。

決死の藺相如に感心した昭王も「和氏の璧」を諦め、ここに藺相如は見事璧を完うしたのであった・・・。

・・・しかしこれで事は終わらなかったのである!


趙の恵文王:「よくぞ戻った藺相如よ。その方のお陰で我が国の宝は守られたぞ」

藺相如:「私ごときに畏れ多いお言葉でございます」

恵文王:「いや一介の食客にしておくには勿体無い。そなたを正式に趙の臣としよう」


こうして藺相如は正式に趙の家臣として迎えられたのでした。

しかしやがて趙を再び危機が襲います。


秦の使者:「趙王様、我が大王が申すには、両国の末永い友好を願って、黽池(べんち 秦の国内)の地で宴を催したいとの事でございます。ぜひとも御出席くださいませ」

恵文王:「・・・相分かった。家臣と諮る故、暫し待たれよ」

藺相如:「大王様、秦が黽池にて会見を願ってきたとか」

恵文王:「うむ。だが余は行かぬぞ」

藺相如:「・・・」

恵文王:「考えてもみよ。相手はあの油断のならぬ秦王。しかも黽池は既に奴らの領内じゃ。これではまるで己から死にに行く様なものだ」


そこへ趙が誇る名将の一人・廉頗(れんぱ)が参内します。


廉頗:「大王様」

恵文王:「おお、廉将軍」

廉頗:「お話は聞かせて頂きました。この会見は行わなければなりません」

恵文王:「会見を行う!?馬鹿を申すな!その方は余に自ら死地に飛びこめと申すのか!?」

廉頗:「畏れながら申し上げます。大王様の申す通り、成程これは秦の罠の可能性が高うございます」

恵文王:「ではなぜそのような事を申すのだ!」

廉頗:「秦との会見を断れば、天下はどのような目で我が国を見ましょうか?きっと秦に恐れを為して会見を断ったと見られるに違いありません。これでは益々秦をつけ上がらせる事となりましょう」

恵文王:「・・・だからと申して・・・!」

藺相如:「大王様、私めも廉将軍の御意見に賛成でございます」

恵文王:「おお・・・藺相如、お前もか・・・!」

藺相如:「これ以上秦を増長させれば次々と難癖をつけてくるでしょう。私も大王様のお供いたします。どうかご決断を」

恵文王:「・・・分かった。良きに計らえ・・・」


こうして恵文王は秦との会見の地・黽池へと向かうことになります。


恵文王:「・・・では行って参る」

廉頗:「それでは大王様。もし大王様が30日で趙へ御戻りにならなければ、秦に御身が害されたとみなし、王太子を王位に就けてその仇を報じたいと思います」

恵文王:「う・・・む・・・」

廉頗:「藺相如よ。大王様を宜しく頼むぞ」

藺相如:「ははっ。かしこまりました」


このような悲愴な覚悟の趙王一行は一路黽池へと赴きます。


秦の昭王:「おお!趙王よ、よくぞ我が秦国へ参られた!」

恵文王:「・・・この度はお招き頂き御礼を申し上げる・・・」

昭王:「ははは!何を申される。我らは元は同族ではないか。堅苦しい事は無しじゃ!」

恵文王:「はい・・・」


予想通り、会見で威圧感を前面に押し出す秦に対し、趙王は針の筵に座る思い。友好の宴(建前)は秦のペースで進んで行きます。


昭王:「いやいや・・・御貴殿の父君(武霊王)には余が即位をする際に大層力添えを頂いてのう・・・。これからも趙とは仲良うしていきたいものじゃ!」

恵文王:「は、はあ・・・」

昭王:「そうじゃ!御貴殿は琴の名手と聞いておる。どうじゃな?両国の友好の為に一曲弾いてはくれまいか?」

藺相如:「!!」

昭王:「今日は友好の宴じゃ。まさか興を醒ますような事は申されまい・・・のう?」

恵文王:「あ・・・いや・・・。う・・・よ、よろしゅうござる」


昭王に促されるままに恵文王は琴で一曲弾きます。


昭王:「はっはっは!流石趙王。見事な腕前じゃ!・・・記録官!!」

秦の記録官:「ははっ」

昭王:「今、趙王が余の為に披露した見事な腕前しかと記録せよ!」

記録官:「仰せのままに」


実はこれ、恵文王に琴を弾かせることによって趙を侮り、趙を秦の家来扱いしているのです。

口惜しい気持ちの恵文王と趙の臣下一同でしたが、ここで敢然と立ちあがったのが、誰あろう藺相如です。


藺相如:「秦王様!」

昭王:「・・・?おお、そなたはいつぞやの・・・そう!藺相如ではないか」

藺相如:「この秦の国では祝いの席で皿を弾いて歌うと聞いております!我が王も秦王様のために一曲奏じましたので、ぜひ秦王様にも我が王の為に皿を弾いて歌って頂きたい!!」

昭王:「な・・・何じゃと!?」


皿を弾いて歌うという行為は、秦が中央から遠い地・・・つまり田舎である事の名残でした。藺相如は恵文王の恥を雪ぐため、昭王に田舎の風習をやれと言ったのです。


昭王:「ぶ、無礼であろう!」


秦の兵士がざっと前に進み出ますが、藺相如はこう言い放ちます。


藺相如:「お静まりを!拙者と秦王様の距離は僅か5歩。これがどういう意味かお分かりですかな!?」

昭王:「ぐ・・・」

藺相如:「さぁ秦王様!この皿を御使い下さい!!」

昭王:「・・・・・・くっ」


ついに昭王は皿を手に持つと「チーン」と1度叩きます。


藺相如:「記録官!!!」

記録官:「は・・・はい!」

藺相如:「趙王様が秦王様に皿を叩かせたと、よおーく書き残しておくのだ!!」


その後も・・・


秦の家臣:「趙王様、我が王の長寿を祝われて趙国の15城を献上されてはいかがかな?」

恵文王:「あ、いや・・・その」

藺相如:「貴国こそ我が王の長寿を祝われて秦の都を献上(咸陽)されてはどうか?」

秦の家臣:「え・・・」

昭王:「愚か者め。余計な事を申すな。・・・趙王よ・・・失礼した」


ついに秦は趙を臣下扱いできぬまま宴を終える事となりました。


趙へ帰国後・・・

恵文王:「藺相如よ・・・。そなたのお蔭で、余や趙国の面目は保たれた。心より礼を申すぞ。この度の働きによって、その方を大臣に任命しよう」

藺相如:「過分なるお取り立てでございます。この御恩に報いるため尚一層励む所存でございます」


しかし・・・


藺相如の大臣就任を喜ばぬ人物がいました。

だれあろう趙の名将・廉頗将軍です。


廉頗:「おもしろくない。なぜあのような者が大臣などになるのじゃ。わしは数十年、軍を率いてこの趙を守ってきた。しかし奴は口先だけで成り上がっただけではないか!見ていろ!今度藺相如に会う事があれば・・・わしは奴を散々に辱めてやるぞ!」


今まで自分が趙を守ってきたという自負があったのでしょう。誰かれ構わずこのような事を言う始末でした。

これが巡り巡って藺相如の耳にも入って来ました。


藺相如:「そうか・・・。将軍がそのような事を」


この後、藺相如は出来るだけ廉頗と顔を合わせないように心がけるようになりました。

ところがある日、藺相如は偶然街中で廉頗を見かけます。藺相如は慌てて物陰に隠れ、廉頗が通り過ぎるのを待ち、居なくなったのを確認してから再び表に出る様な行動をとります。

このあまりにも卑屈な行為に藺相如の従者は憤り、この日の夜、従者は揃って藺相如に暇を乞います。


従者:「御主人様。本日の行為はあまりにも卑屈すぎます。我々は貴方様の徳を慕って仕えてきましたが、最早我慢の限界です。どうぞお暇を下さいませ」

藺相如:「・・・。お前たちは秦王と廉頗将軍。どちらが恐ろしいか?」

従者:「・・・?それは勿論秦王ですが・・・」

藺相如:「私はその秦王を2度に渡ってやりこめた。その私がどうして廉頗将軍を恐れようか。しかし今この趙の国が保っているのは私と廉頗将軍がいるからだ。些細な事で私と将軍が争い、秦に付け入る隙を与えてしまってはどうしようか」

従者:「!!!御主人様のお志・・・よく理解いたしました。我々が浅慮でございました。何卒これからもお傍にお仕えさせてください」


数日後・・・


従者:「御主人様、・・・その・・・廉頗将軍がお会いしたいと申しておりますが」

藺相如:「いや。会わぬ方が良いだろう」

従者:「いえ・・・実は既に将軍は屋敷へ来られているのです」

藺相如:「なんと!この屋敷に来られているのか。それでは会わぬわけにはいくまい。よし。将軍にお会いしよう」


早速藺相如は応接間に行くと、そこには裸で跪く廉頗の姿が。


藺相如:「!?これは将軍・・・一体そのお姿はどうされたのです!?」

廉頗:「藺相如殿・・・お話は全て聞かせて戴きました・・・。この愚か者は貴殿の深遠にして寛大なる御心を計ることが出来ず・・・まさに穴があれば入りたい気持ちで一杯です・・・。拙者がこれまで貴殿に与えた侮辱を考えれば、到底足りるとは考えられませんが・・・どうか貴殿の御心が晴れるまでこの棘の鞭で拙者を打って頂きく存じます」

藺相如:「将軍、何を仰られますか。許すも何も、この趙国が本日まで保って来られたのは将軍の武略によるものでござる。さぁ・・・お着物をお召し下され」

廉頗:「かたじけない・・・藺相如殿。貴殿は正に大人物だ。拙者は貴殿の為に頸(くび)を刎(は)ねられても悔いは無い!

藺相如:「将軍、それは拙者も同じ気持ちでござる。拙者も将軍の為なら喜んで頸を刎ねられましょう!!


・・・こうして絆を深めた藺相如と廉頗。2人が健在の間はさしもの超大国・秦も趙を平らげることが出来ませんでした。


以後、頸を刎ねられても構わない程の間柄を刎頸の交わり・刎頸の友と呼ぶようになります。


・・・なんか今日のうんちく・・・長かったですね。


さて!

皆さんに頸を刎ねられても構わない様な友達はいますか!?

居ない人は・・・いつか見つかれば良いですね!


ちなみに私も刎頸の友を絶賛募集中です!(笑)


I権禰宜


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
拝啓 I権禰宜様 (赤福)
2012-05-09 12:05:09
拝啓 I権禰宜様
いつもブログ拝見しております。
今回の「刎頸の交わり」なかなか分かり易く大変勉強になりました。
「刎頸の友」という言葉はずいぶん昔国会の証人喚問で有名になりましたね。
なんとなく記憶に残っておりました。
さて冒頭の写真ですが、刀を持つ手が様になっていますね。
「示現流」でしょうか?
もうすぐ梅雨の季節ですが、お体に気をつけご活躍くださいませ。
                         敬具
返信する
赤福様 (I権禰宜)
2012-05-11 08:50:38
赤福様

初めまして。コメントありがとうございます。

たしか「刎頸の友」はロッキード事件で一躍有名になった言葉であったと記憶しております。ここまで言ってくれるとは・・・故・角栄氏は友人に恵まれてますね

示現流・・・ええ、確か小学校時代、剣道をやっていた時に少しやった記憶があります(笑)お恥ずかしい限りですが。

赤福様もお体に気をつけてお過ごし下さい。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。