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高知の介護支え、存在感 “縁の下の力持ち”家政婦さんを見た

2017年11月02日 15時20分20秒 | 地域

高知の介護支え、存在感 “縁の下の力持ち”家政婦さんを見た

 2017年11月1日 (水)配信高知新聞
 
 コスモスの花々の脇、おじいさんに話し掛けながら車いすを押すのは家政婦さん。近年は高齢者などの在宅介護を支える“縁の下の力持ち”として存在感を増している。
 厚生労働省によると、2015年度に民間事業者に家政婦として求職した人は延べ約10万8千人。5年前と比べると約25%増加した。関係者によると「お年寄りの介護者としての需要が多くなっている」という。
 高知市横浜にある家の様子を拝見した。雇われている家政婦さんは身体介護、掃除、調理にと、泊まり込みで奮闘。ほどよい距離の話し相手にもなる“家族の一員”だった。
家政婦を見た 介護の隙間埋める
 「あらいやだ」のセリフで知られるテレビドラマの家政婦さんはサスペンスの世界の人だが、こちらは本物の家政婦さん。お年寄りの介護に料理、掃除、話し相手と、まるで家族の一員のように何でもこなす。土佐の“市原悦子”は何をしている? 家政婦さんを、見た。
 午後5時半、家政婦さんを雇う家に到着した。立派な門を構える豪邸を想像していたが、庭は雑草が茂り、古い平屋の質素な外観。玄関を開けると「こんばんは」とエプロン姿の家政婦さんが迎えてくれた。
 小松谷展子さん(64)。整理整頓が行き届いた台所で、トントンと心地よい包丁の音を響かせた。高知市横浜の竹内修さん(97)の家で週に1回、午後5時半から翌朝8時半まで泊まりの勤務をしている。
 「この家での仕事は食事の準備、見守りながらのお掃除などです」。手は止めず、奥の寝室に目を向けながら話す。
 その寝室で、修さんが車いすに座り、戸棚の奥に手を伸ばした。お酒を出しては戻し、以前出版した本の原稿や昔撮った写真を引っ張り出しては眺めている。けがをしては大変。小松谷さんは台所から、チラチラ様子をうかがっている。
 小松谷さんを雇ったのは修さんの息子、聡介さん(69)。有料老人ホームに入所している修さんが帰宅した際の世話を小松谷さんに頼んでいる。
 「おやじも家にいたいんだ。好きなもん食べて好きなことできるし」。聡介さんも若くはない。家政婦さんは老々介護の現場の助っ人というわけだ。

 ■立ち上がった!

 夕食の準備が整った。この日のメニューはカツオのたたきにサラダ、コロッケだ。「聡介さんが食材の準備をしてくれるので、私は簡単に作るだけ」と小松谷さん。食事を始めた修さんは「これはうまい」と満足な様子だ。小松谷さんが目を細めている。

 小松谷さんが竹内家で仕事を始めたのは今年4月。以前は病院の看護助手をしていたが、家族の介護をしたことがきっかけでこの道に進み、今年で14年。現在はこの家を含めて4軒ほどの家庭に仕事に行く。

 「小松谷さんがいいんじゃ。おやじに優しい、気がつかんような細かいところまで掃除してくれる」と聡介さん。 

 夕食を終えた修さん。満足そうにほほ笑む。上機嫌で、「筋トレが重要なんじゃ」と健康のこつを話す。「うんうん」と聞く小松谷さん。ほどなく、車いすから立ち上がった。

 玄関に置いてあったゴルフクラブを手に取り、私たちに修さんが大好きなゴルフの練習を見せてくれる。「転んでけがをするんじゃないか」と慌てたのは小松谷さん。さっと支えに動いた。修さんは控えめにクラブを振ったあと、再び車いすに戻る。小松谷さんは緊張の糸が緩み、ほっとしたようだ。立ったときなどに見守る人がいると家族も心強いだろう。

 ■寝ずのお世話

 就寝は午後9~10時ごろ。小松谷さんは台所のソファで寝る。

 午後10時半、寝室から「おーい」と声がする。小松谷さんが駆け寄ると、修さんのパジャマが濡れている。小松谷さんは「せーの」と修さんの体を抱えてすぐに新しいパジャマに。声がかかってから5分ほどで作業が終了。小松谷さんも寝ぼけ眼だったが、すぐに後始末を終え、修さんに布団を掛けてあげた。

 パジャマは聡介さんが家の外の洗濯機に入れた。「すぐに洗わんとね」と言いながら洗剤を入れる。「大変で。でもこれが老々介護だと思うし、これが日常と思ったら、なんとかなるわ」と聡介さんはつぶやいた。

 この日は午前0時半、3時、5時にそれぞれトイレへ。寝室で修さんがゴソゴソ物音を立てると、小松谷さんはすぐに起きて駆け寄った。「横になったらすぐ眠るし、小さな音でもすぐに起きるの」と話す。

 ■専門家が見た

 県内には三つの家政婦紹介所があり、小松谷さんは高知市愛宕町1丁目の「満和(みつわ)介護家事紹介所」の所属。代表の小原明子さん(58)によると、現在30~80代の約90人が登録。調理師免許、ヘルパー2級を持つ人など、さまざまな特技を持つ人が在籍する。

 同市長浜の居宅介護支援事業所でケアマネジャーをする松沢佐和さん(54)は「ヘルパーさんは夜間巡回でお宅に行くことはあるけど、夜勤となると難しい」と話す。夜間も見守ってくれる家政婦さんは、現代の在宅介護の隙間を埋める“縁の下の力持ち”なのだ。

 家事労働者問題に詳しい高知県立大の根岸忠准教授によると、家政婦は法律上、家事使用人に該当する。女中さんに始まる歴史が元で、労働者ではありながら、労働基準法(労基法)の適用除外のまま現在に至る。各家庭で事故が起こった場合に保護する法整備は追いついておらず、家政婦さんは個別に保険を掛けている。

 「今でも家政婦さんは金持ちの家が雇っていると思われがち。でも今は介護の隙間を埋める存在となり、性質が変わっている。女中とは違いますから、家政婦さんを巡る法的環境などを、そろそろ見直してもいいと思います」と話す。

 ■再び竹内家

 修さんは知る人ぞ知る、高知市内の学習塾の創業者。聡介さんは2代目に当たり、今は3代目のお孫さんに任せている。

 修さんが老人ホームから帰ってきた日は、“父と息子”の時間。聡介さんは修さんの好物を作ったり、話しかけたりする。

 そんな2人が有意義に過ごせるよう、ほどよい距離でサポートするのが小松谷さんの仕事。時に2人の話し相手もしながら、手助けをしている。

 小松谷さんは、家政婦の仕事をする上で大切なことは、「自分は家族の一員であるような気持ちで勤めること」という。修さんの世話をしている時は「まるで自分の父を見ているようだ」と感じるそうだ。

 竹内家に1泊した小松谷さんは朝7時ごろ起床。台所に立ち、パンとみそ汁、サラダを作った。修さんが食べるのを見ながら、これから老人ホームに帰る修さんの持ち物などを整えた。

 「お父さん、薬を忘れずに飲んでくださいね」

 仕事は9時すぎに終了。「なかなか決まった時間には終わらないですね」と小松谷さん。小松谷さんに車いすを押されて外に出た修さんは、聡介さんの車に乗り込んだ。

 家の外にはコスモスの花がなびいている。朝風が爽快だ。秋空の下、車の助手席に乗った修さんをのぞき込む。「じゃ、また来週」。“スーパー家政婦”はごくさりげない感じで、あいさつを交わした。


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