フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

11月9日(土) 曇り

2013-11-10 03:27:36 | Weblog

   8時、起床。

   鹿島田(かしまだ)へ行く。蒲田から京浜東北線で1つ隣の川崎に出て、南武線に乗り換えて3つ目の駅だ。蒲田からは30分もかからないが、こちらに来る用事がないので、ここで降りるのは初めて。南武線自体がめったに乗らないので、駅名が新鮮だ。川崎から1つ目の尻手という名前の駅は「しって」と読むが、電車の駅名としては危うい。「やめて」と読んでも意味が通じてしまいそうである。二つ目の矢向(やこう)は多摩川を挟んで大田区側の地名である矢口(やぐち)と呼応しているのだろうか。

    自転車で多摩川大橋を渡っても来られそうに思ったが、初めての土地だし、おまけに今日は寒いので、電車に乗ってきた。

    鹿島田はときどき「フィールドノート」に登場する中学の同級生W君の住む町である。しかし、今日は彼に会うために来たのではない。この町にある「パン日和あをや」というパンカフェを訪問するためである。

    以前、W君と蒲田で会ったとき、彼は蒲田には「phono kafe」や「あるす」のようなカフェがあってうらやましい、鹿島田はカフェ不毛の土地だと嘆いていた。そのときはそうなのかと思って聞いていたが、つい先日、パン屋めぐりが趣味の食いしん坊の知り合いから、鹿島田に「パン日和あをや」という素敵なパンカフェがあるという話を聞いた。私はさっそくW君にメールでそのことを伝え、「パン日和あおや」というパンカフェを知っているかと尋ねた。W君は知らなかったが、ネットで調べて、自分が通っている歯科医院のそばなので、今度行ってみると返事が来た。

    私は自分が読んでいない本を人に薦めたりはしない。自分が見ていない映画を人に薦めたりもしない。カフェについても同様で、人から話を聞いて心惹かれるカフェにはまず行ってみる。それで気に入ったら、他の人にも薦める。情報化社会であるからこそ、そういう経験主義が大切だと思うのである。

    鹿島田の駅を降りて、矢向の方へ向かって、線路際の道を10分ほど歩くと、塚越銀座という名前の商店街に出る。「パン日和あおや」はその一角にあった。注意していないと見落としてしまいそうなたたずまいの店で、「phono kafe」にちょっと雰囲気が似ている。

   店内は左側がパンの並んだカウンターで、カウンターの向こうが調理場になっている。カウンターのこちら側には4人掛けのテーブルが2つだけ。テイクアウト主体の店なのかもしれない。1つのテーブルには先客の女性がいて、私と目があって、会釈をされた。カウンターの中にはだれもおらず、私が店内を見回していると、その女性は常連さんなのだろう、「いまお店の方は、2階のお客さんたちのオーダーをとりに行っています」と教えてくれた。2階にはグループ客用の小さな和室があるのだそうだ。なるほど、階段の下には大小の靴が並んでいた。ママ友と子供たちのようである。

   ほどなくして2階からお店の方が降りてきて、お待たせしてすみませんと言った。ご夫婦でやっているそうだが、今日はたまたま奥さん一人らしい。どこかで会ったことのあるようなお顔の方だったが、他人の空似だろう。パンセットとコーヒー、それにクロワッサンを1つ加えてもらって、ついでに本日のスープ(さつまいも)を注文した。各種のサンドウィッチなどもあったが、初めての店なので、パンそのものを素朴に味わいたかった。

 

   最初にクロワッサンが運ばれてきた。一口かじって、この店の評判が間違いないことを理解した。サクサクとして、中心部分にふんわり、もっちりとした食感がある。練り込まれたバターの風味が豊かだ。ほかに何もいらない。これだけで美味しい。

   スープが運ばれてきた。さつまいものスープと聞いて、甘目のものを予想していたが、上品な味付けに驚いた。これならスープがパンの甘味を覆い隠したりしない。

   パンの盛り合わせが運ばれてきた。手前左のパンはパンプキンのあんぱんで、そろそろジャムか何かがほしくなってきたときだったので、いい盛り合わせだった。手前右はピタパンという名前のパンで、ナンに似た食感。奥は胡桃パン。

   珈琲が運ばれてきた。「phonon kafe」と同じカップが使われているではないか(ただし「phono kafe」はソーサーはない)。

    「遅くなってすみません」と奥さん。いえいえ、スープがあったので、大丈夫です。バターの追加をお願いし、クロワッサンをもう一つ注文する。最後はあのクロワッサンで〆たい。

 

    参考までに、メニューブックの写真(全頁)を載せておく。私には縁がないが、ワインメニューが充実している。パンにワインはきっと合うのだろう。 

 

 

 

 

 

 

    大いに満足して店を出る。W君、鹿島田がカフェ不毛の土地という認識は改めないとね。

   せっかくなので散歩しながら駅へと向かう。

 

   ぶらぶらしていたら駅の方角が怪しくなり、地元の方(高齢の女性)に道を尋ねたら、親切にも途中まで連れて行ってくださった。

 

   蒲田に戻り、栄松堂で『NHK俳句』の11月号を買い、「シャノアール」で読む。表紙に印刷された「今月の一句」というのがよかった。

         しぐるるや駅に西口東口  安住敦  (神野紗希選)

     蕪村の名句「菜の花や月は東に日は西に」を連想させる。初めての駅に降り立って、雨の中、さて、西口と東口、待ち合わせはどちらだったたっけというときの心境を詠んだ句であろうか。ちなみに「パン日和あをや」へ行くためには鹿島田駅の東口を出ること。

     「phono kafe」に顔を出す。先客はカナリアさんと、もう一人初めての女性のお客さん。おにぎりセットとおかずを一品、里芋と川青さのりつまみ揚げ(おろし醤油)を注文して、大原さんとカナリアさんにいま行ってきた「パン日和あおや」の話をして、撮った写真をお見せする。「雰囲気がここと似てますね」という話になる。やっぱり、そうですよね。

   もう一人の今日初めて来たお客さんは地元在住の陶芸家の方で、清水さんという。近々、個展やイベントがあるというので、おせっかいながら宣伝に一役買わせていただきます。「phono kafe」もご贔屓にしてくださいね(私が注文したつまみ揚げを「美味しそう」と言われたので、1つさしあげた)。

   個展は11月21日(木)~27日(水)、吉祥寺の東急百貨店7階で。

   清水さんも参加するイベント「給水塔と赤い屋根」(今年の4月に惜しまれながら解体された阿佐ヶ谷住宅へのオマージュ)は、11月30日(土)~12月4日(水)、大田区鵜の木のカフェ「hasu no hana」で。

   「phono kafe」に集まる人たちもさまざまで、面白い。