フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

11月24日(土) 晴れ

2007-11-25 11:56:24 | Weblog
  午後、いいお天気なので、昼食をとりがてら散歩に出る。キシフォトでヘッドフォンを購入。以前持っていたのは小さくて軽いやつだったが、使っているうちにヘッドバンドの部分が折れてしまったので(私の頭が大きいせいだろうか)、口径が大きくて丈夫な造りのものにした。ルノアールでツナとポテトのサンドイッチと珈琲を注文して、持参した高澤秀次『吉本隆明1945-2007』(インスクリプト)を読む。そろそろ冬休みが地平線上に見えてきたので、授業モードから研究モード(清水幾太郎研究)へシフトしていこうと思う。

  栄松堂で高田香雪『書き込み ペン習字』(日本習字普及協会)というペン習字の練習帳を購入。

  「手本をよく見て、すぐその右隣りに丁寧に習う。手本との違いを探しては更にその右の行に書いてみる。順次、手本から遠く離れつつ、徐々に自分のものにして行く、という段取りで実力がつくようにと工夫しました。十分に観察の眼を養いながら、おちついてペンを運ぶようにと勧めます。」

  いまさら練習して字が上手になるとも思えないが、いまの私は、万年筆で字を書くという行為そのものが楽しく、よく手元にある紙片に名前や住所や「寒中お見舞い申し上げます」とか書いたりしているので、これをもう少し意識的かつ計画的に行なうことで、楽しみつつ、少しでも上達すればもうけものである。栄松堂では以下の新書・文庫も購入。

  飯沢耕太郎『写真を愉しむ』(岩波新書)
  栗山民也『演出家の仕事』(岩波新書)
  梅田望夫『ウェブ時代をゆく』(ちくま新書)
  一ノ瀬俊也『旅順と南京』(文春新書)
  羽入辰郎『マックス・ヴェーバーの哀しみ』(PHP新書)
  渡辺昇一『自由をいかに守るか』(PHP新書)
  『尾崎翠』(ちくま日本文学004)
  『寺山修司』(ちくま日本文学006)

  「ちくま日本文学」は15年ほど前に刊行された「ちくま日本文学全集」60巻のうちから30巻を選んで新しい装丁(「全集」は文庫版よりも一回り大きくかつハードカバーだったが、今回は普通の文庫本)で復刊したものである。巻数が半分に縮小されたことで落ちた作家は、正岡子規、島崎藤村、寺田寅彦、中勘助、石川啄木、佐藤春夫、萩原朔太郎、夢野久作、岡本かの子、白井喬二、金子光晴、大仏次郎、石川淳、海音寺潮五郎、中野重治、堀辰雄、木山捷平、長谷川四郎、大岡昇平、武田泰淳、梅崎春生、島尾敏雄、福永武彦、花田清輝、織田作之助、富士正晴、岡本綺堂、渡辺一夫、中野好夫、深沢七郎である。「全集」に「誰を入れるか」というのは当時の編集委員会で大いに議論されたのであろうが(実際、「全集」は当初50巻の予定であったが、途中で10巻追加されて60巻になったことからもそれがうかがえる)、今回は「誰を残すか」ということで野次馬的にはこちらの方が面白い。まず、詩と評論・エッセーがばっさり落とされたようである。それから時代小説も切って捨てられた。詩と評論・エッセーと時代小説は「全集」の大きな特徴であったから、これらを外したことで、「ちくま日本文学」は「全集」のたんなる縮小再生産ではなく、近現代小説中心のリスク回避的縮小再生産になった。あとは売れ筋から外れた近現代小説の作家が一人一人落とされていったということだろうか。たしかに堀辰雄なんてよくいままで生き残っていたものだと思う。ようやく寿命が尽きたかという印象を受ける。中勘助も『銀の匙』一本でよく今日まで頑張ったと思う。岩波文庫の力は大きい。織田作之助は「関西の太宰治」のようなイメージで珍重されてきた面が多分にあり、東京偏重主義の緩和剤としては有効であったであろうが、ベスト30となるととても無理だ。・・・というように、それぞれのファンには申し訳ないが、落とされたことの合点がいく作家がいる一方で、佐藤春夫を落とすのか、石川淳を落とすのか、深沢七郎を落とすのか・・・溜息をついてしまう人選もある。そうした溜息はついついベスト30に残った作家の人選への八つ当たりに転化する。幸田露伴と幸田文は親子で残っているが、前者は骨董的価値で、後者は女性作家が少ないことへの配慮から残ったとしか思えない(尾崎翠についてもそれはいえる)。梶井基次郎のレモンはもう賞味期限切れなんじゃないのか。稲垣足穂を残すとはずいぶんとマニアックだ。マニアックであること自体は悪くはないが、だったら夢野久作の方を残すべきだったろう。色川武大は個人的には好きな作家だが、とても殿堂入りするタイプの作家ではない。あの世で麻雀卓を囲みながら舌を出しているに違いない。折口信夫や柳田國男や宮本常一は作家ではないでしょう。方針に反するんじゃないの。それともフォークロア系は売れ筋だから特別扱いなのか。・・・と、ああだこうだ、いろいろと楽しめます。少なくとも私にとっては、ミシュランガイド東京版よりもずっと楽しめます。