フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

11月7日(水) 晴れ

2007-11-08 00:43:52 | Weblog
           むかし、私たちは

           木は人のようにそこに立っていた。
           言葉もなくまっすぐ立っていた。
           立ちつくす人のように、
           森の木々のざわめきから
           遠く離れて、
           きれいなバターミルク色した空の下に、
           波立てて
           小石を蹴って
           暗い淵をのこして
           曲がりながら流れてくる
           大きな川のほとりに、
           もうどこにも秋の鳥たちがいなくなった
           収穫のあとの季節のなかに、
           物語の家族のように、
           母のように一本の木は、
           父のようにもう一本の木は、
           子どもたちのように小さな木は、
           どこかに未来を探しているいかのように、
           遠くを見はるかして、
           凛とした空気のなかに、
           みじろぎもせず立っていた。
           私たちはすっかり忘れているのだ。
           むかし、私たちは木だったのだ。

           (長田弘『人はかつて樹だった』より)

           
            2限の授業の前、メタセコイヤの木の下で