読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『転々』

2011年07月24日 | 映画
『転々』(2007年)

転々 プレミアム・エディション [DVD]
クリエーター情報なし
ジェネオン エンタテインメント
偶然、映画『転々』をJ-COMで見た。主演の三浦友和と同世代の人間として、悔しいけれど「いい役者になったな」と思う。妻となった山口百恵と共演した『伊豆の踊り子』あたりでは、ただの二枚目の役者にすぎなかったのに、この『転々』では、ときおりみせる表情がジャック・ニコルソンのようでもあり、また無邪気な渡辺徹のようでもあり、得体のしれない中年男を演じて、堂々とオダギリジョーと渡り合っていた。しかも肩から力の抜けた自然体として。

自然体といえば、オダギリジョーもそうで、まるで『時効警察』の雰囲気であった。これは共演のお馬鹿コンビの岩松了とふせえりが出ていただけではなく、また小泉今日子演じる麻紀子のスナックの名前が「スナック時効」であったばかりではない。というのは上さんがこの映画をちらっと見て、「あれ、これ『時効警察』?」と聞いたくらいに、雰囲気が同じなのだ。オダギリジョーは警察の制服を着ていなかったし、一緒に画面に写っていたのは三浦友和だけだったのに。やっぱり画面のもつ雰囲気ってあるんだね。そうそう、麻生久美子も警察の制服姿で友情出演していましたね。(後で調べて、監督の三木って人は『時効警察』の監督でもあったと分かった。)

それにしても東京の見せる顔つきも本当に面白い。二人は旅館のようなところで二泊するのだが、一泊目は飲み屋街の連れ込み宿のようなところだし、二泊目は外人旅行客が喜びそうな浴衣がでる旅館のようなところだし。広田レオナ扮する鏑木という女に出会ってしまい、彼女の絵を見に行っているあいだ、オダギリジョーが待っている公園は、ニョキニョキ林立する高層ビルのすぐそばにあって緑豊かな(というか紅葉がきれいな)林に囲まれていて、まるでニューヨークを舞台にした映画を見ているみたいかと思えば、鏑木の住んでいる文化住宅はまさに滅び行く日本固有の文化のように味わいがある(きっと製作者もこうした対比をわざと浮き彫りにしようとしているのだろう)。

しかし原作を読んでみないことには分からないが、福原が妻を殺したから自首するまで一緒に三日間を過ごしてくれという話のリアリティは別としても、映画では時折、福原のマンションのベッドに横たわる妻らしき女性が映しだされるだけで、福原の後悔の念とか慚愧の思いとか、あるいはついにやってやったという達成感とかがまったく表していないのはどういうことだろうか?まるで、妻を殺して自首するまでの三日間の猶予とか借金取りがこの福原だったという設定は、知らない者どうしが東京の街を三日間転々とする(というよりもまるで散歩しているようにしか、あるいは思い出の場所を訪ねあるいているようにしか見えない)ための口実にすぎないように見える。ただ映画ではその散歩が成功しているから、だれもそういうことを問題にしないだけのように思える。



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