読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『葬られた王朝』

2010年12月10日 | 人文科学系
梅原猛『葬られた王朝』(新潮社、2010年)



副題に「古代出雲の謎を解く」とあることから分かるように、オオクニヌシの時代の出雲にあったとされている古代国家(王朝)がどんなものであったのかを、古事記、日本書紀、出雲風土記などを読み解き、さらにここ数年のあいだに次々と発掘されて新発見が続いている山陰地方の考古学なども参考にして、出雲に古代日本を支配するような国家があったらしいと述べている。もちろん古代日本といっても、今の近畿から中国地方あたりまでのことなのだが。

最初に古代出雲王朝関連地図というのがあって、東は鳥取県米子市あたりから中海と宍道湖をはさんで、西は出雲大社のある出雲市や大田市あたりまでの地図。これを眺めているだけでも私の地元である米子市をはじめ、よく知った地名ばかりなので、昔はこのあたりはすごかったんだなという気持ちになって、見ているだけでも楽しい。こういう研究というのは、はやり地元の歴史研究家の右に出る人はいないわけで、ただそういう人たちに欠けるのは壮大な俯瞰的視点ということになるのだろうから、その両方を統合するようことができるためには、両方の研究家が共同でやれば鬼に金棒ではないかと思うのだが、あまり聞かない。

今回も著者は当然のことながら、現地に行ってはその地の郷土史研究家の話を聞いたり、案内をしてもらったりしながら、遺跡などを見て回るということをしている。そういう一時的なものだけではなくて、もっとじっくりと議論しあうような場が必要なんじゃないかと思うのだが。

たとえば、オオクニヌシの遺跡とか神社というのはたくさんあって、この本でも須我神社とか須佐神社などを訪れているのだが、スクナヒコナ関連の遺跡はほとんどないと書いている。しかし、米子には彦名という文字通りスクナヒコナを漢字に当てたときに使われる漢字名の地名がある。今年の夏に親の家の近くあるということで私が行った粟島神社のあたりが彦名というのだ。

面白い発見もあった。ヤワタノオロチといえば、その尻尾から剣が出てきたというエピソードがあるので、これはきっと出雲といえば鋼が有名なので、きっと製鉄の技術による周囲の国々の武力支配に関わることかと思っていたのだが、どうも今の富山県新潟県あたりの越の支配に関わるものらしいという。というのはこの地方は古代において貴重品とされた勾玉の材料となるヒスイがとれたからだという。それにしてもヤワタとか八雲とかやっぱガラスとか8という数字が何度も出てくるというのはいったいどういうことなのか興味を引く。発掘された銅矛の数も8の倍数だという。この8が何を意味するのか書いてなかったと思うのだが、だれか研究している人はいるんだろうな。

面白くて一気に読んだ。

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