読書な日々

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歌舞伎『船弁慶』

2010年01月01日 | 舞台芸術
歌舞伎『船弁慶』

新春ということでたぶん恒例のプログラムだと思うのだが、たまたま歌舞伎をNHK教育でやっていたので見た。『船弁慶』という出しもので、義経が静と分かれた後、船に乗るのだが、突然の嵐に遭い、義経が滅ぼした平知盛の亡霊が出てきて義経に襲い掛かるが、弁慶が必死に数珠をすって念仏を唱えて亡霊を退治するという話である。一応主演は静と平知盛の亡霊の二役をやっていた中村勘三郎みたいで、弁慶に中村橋之介、義経はよく分からない、船頭に坂東三津五郎という豪華なキャストだった。

もちろんテレビでのことだが最初から最後まで通して歌舞伎を見たのは初めてだが、なかなか面白いと思った。どこが?静と動の対比が一つ。さっきまでまるで能の舞台でも見ているかのように、ほとんど動きがなく、たぶんなにを言っているのか分からないようだと面白くもなんともないような場面(ただシチュエーションが明確なので、だいたい言っていることが分かる)が突然動き出し、太鼓、鼓、三味線、横笛、掛け声などの鳴り物の躍動感あふれるリズムによって風雲急を告げる様子や事態が急変する様子や亡霊などというものが出てくるホラー的な雰囲気などがリアルに描き出されるのを見ていると、こちらもワクワクしてくるから不思議だ。

第二に意外と心情が伝わってくる。たとえば静が義経と別れの印として被り物をもらって踊りを舞い、そのあと後ろ髪を引かれる想いをとどめつつ、去っていく姿はなんのセリフもないのだが、そのしぐさや、たぶん遠くからではよく見えないだろうが、テレビだから見える顔の表情によって、こちら側によく伝わる。たぶんテレビドラマなどでも描かれているからシチュエーションをよく知っているということもあるからだと思うのだが、静の思いに思わず涙しそうになってしまった。

第三にテレビだと主演の役者だけでなく、鳴り物の人たちも時々アップで写ったりするので、いまどの人が歌っているとか、どの人が鼓を打っているなどの様子が顔の表情とともに分かり、面白い。また役者のせりふではなくて、歌いの人が歌っている歌詞は字幕で出ていたので、余計にシチュエーションの理解のためにもよかったのだと思う。

そして最後には勘三郎の知盛亡霊が花道を踊りつつ退場して終わるのだが、鳴り物の切れのいい音といい、静と動の対比、緩急のつけ方など、どれをとってもよくできており、江戸時代の町人が夢中になったというのもうなずけるなと思いながら見ていた。また他のものも見てみたいものだ。

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