読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『カムイ伝講義』

2009年11月02日 | 人文科学系
田中優子『カムイ伝講義』(小学館、2008年)

あの有名なマンガ『カムイ伝』を使って、江戸時代の社会を読み解こうという法政大学での著者の授業を本にしたものである。

とはいっても著者の知識によって『カムイ伝』の描き方そのものの時代拘束性(たとえば『カムイ伝』では連載開始当時の社会情勢に配慮して区別をしていないこと)を説明し、じつは身分的にも職業的にもまったく違うものだったことを解説したりもしている。

こういう底辺層の人々がどういう理由で作り出され、階層として維持されてきたのかを、『カムイ伝』を読んでいない人にもわかりやすく説明しているので、江戸時代についての面白い解説書でもある。

とくに綿花栽培(ほんとうに私は日本で行われていることを知らなかった)が江戸時代にだけ行われたものである理由を、またそれがどういう意味をもっていたのかを丁寧に説明している点や、一揆の歴史も初めて知ることが多かった。たとえばやむにやまれぬ事情から起きるとはいえ、けっして自然発生的なものではなくて、組織だったものであったこと、だから藩全体での一揆になることもまれではなかったこと、江戸時代は、よくアメリカ社会の特徴として言われる、文書の社会であったので、どんな一揆でも文書にして提示しなければ受け付けてもらえなかったことなど、江戸時代というものの見方を大きく変えるような話も満載である。

もちろん、前から知っていたリサイクルシステム(糞尿を買い取って肥料にするので、けっして不必要にごみがでることがなかったこと)のことや、江戸時代の初期に森林伐採が大量に行われて、洪水が増えたことにたいする幕府の対応がやっと18世紀初めになって行われたことなど(以前読んだ大和川の工事もそうして行われたのだった)も、書かれている。

これはちょっと垣間見た程度の記述しかなかったが、金や銀の開発について、マルコポーロの『東方見聞録』での記述やジパングを求めたコロンブスの航海やそれに続く大航海時代から南米での銀山の開発によって日本の銀の位置が低下していき、それが鎖国を後押ししたというような世界的視野によって日本を見ることの面白さを示してくれたところもあった。

しかしこんなすごい『カムイ伝』を構想した白土三平って何者?なんでしょうね。


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