読書な日々

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『裁判官が日本を滅ぼす』

2009年09月16日 | 評論
門田隆将『裁判官が日本を滅ぼす』(新潮社、2003年)

私が日本の裁判ってなんかおかしいなと思い始めたのは、すこし前にテレビで報道していた痴漢裁判で実刑判決が下りて、被告男性が刑務所に出頭する日に、この問題を手短に紹介したニュース番組を見たときだ。

この男性は痴漢をしたとして女性に通告をされ実行犯として逮捕され、よくあるように罪を認めれば数万円で解放されると言われたが、していないものはしていないという主張を貫き、きっと司法の場にでれば裁判官が公正な裁きをしてくれると期待して、裁判に臨んだが、裁判官は彼の主張など微塵も考慮せず、それどころかあくまでも無罪を主張する彼の態度を「不遜」とみなし、通常よりも重い刑を課したという。

<2021年2月3日追加分>
しかし著者の門田隆将という人がこんな馬鹿な人だと思わなかった。アメリカ大統領選挙で選挙不正を主張するトランプを支持するこの著者の愚かしさは、ツイッターでデマを主張した回数の世界のトップテン入りしているほどで、愛知県知事リコール署名の不正問題でも不正を擁護している。こちら

私はテレビで有名になった例の光市母子殺人事件でも日本の裁判に疑問はもたなかった。というのは、こういう殺人事件の場合に被害者遺族の心情をあまりに考慮しすぎると物事を客観的に見るということに歪みが生じてしまうから、心を鬼にして被害者遺族に肩入れしすぎないように、彼らの悲痛な声に耳を傾けすぎないようにするのが筋だろうと思っていたからだ。

だが、上の痴漢事件の裁判を見ていると、裁判官はまったく公正な裁きをしようなんてこれっぽっちも思っていない、最初からこいつは痴漢なんかしたあほな奴だという先入観で事件を見ているとしか思えないだけでなく、司法に委ねれば公正な裁きをしてくれるという被告の最後のよりどころを無残に打ち砕いた、それは突き詰めれば、日本の司法になにも期待できないということを示しているということがよく分かったのだ。

そしてこの本を読んで、私の素人なりの印象は間違っていなかったということを理解した。調書をまともに読んでいないと思われる裁判官、何人殺したかで刑量を決める悪しき判例主義の裁判官、退官後の天下り(って言うのかどうか知らないが)を見越して被告銀行に有利な判決をだす裁判官、少年法の趣旨を取り違えている裁判官、刑事裁判で有罪になった事件に新しい証拠もないのに民事裁判で無罪をだす裁判官、シンナー常習者なのに心神耗弱を理由に刑を軽くする裁判官(これについてははっきり言わせてもらえば、シンナー常習者は自分がシンナーを吸ったら心神耗弱状態になることを知っているわけで、あるいはそういう状態になりたいがためにシンナーを吸引するわけで、犯行時に心神耗弱状態にあったから無罪とか刑を軽くするなんていうのは、まったく愚かとしか言いようがない)、などなど。

そもそも司法制度というか人を裁くという権力を公的機関が簒奪するようになった理由の一つには、殺人などにたいする復讐を放置しておけば、復讐に復讐が連なって、無法状態になってしまうことを避けるために、被害者遺族に成り代わって裁判所が公正な裁きをして白黒付け、犯罪者に応分の刑を科すためだろう。そうであるならば、裁判所は被害者遺族に成り代わって事件を冷静沈着に判断することを委ねられているのであって、被害者遺族を無視するとか、彼らの被害者感情を視野に入れないのはおかしいのだ。

こういう愚かな裁判官の例を見ていると、たんに馬鹿な裁判官がごろごろいるんだなではすまないことが見えてくる。なぜならこういう判決がでることで、犯罪者はどこまでやったら、どういうやりかたをしたら犯罪が犯罪でなくなるかわかって、社会に善悪の基準が見えなくなってしまうことで、ますます犯罪を助長することになるからだ。まさか正義人ぶっている裁判官たちのしていることが、日本社会の犯罪を助長しているなんてジョークですまされない。笑うに笑えない現実なのだ。

ついでに書いておくと、今テレビをにぎわしている麻薬事件で勾留されている酒井法子の保釈が認められたという。これもまったくおかしな話だ。保釈というのは証拠隠滅や逃亡のおそれがないということで認めるものだが、この人、警察に出頭する前に証拠隠滅のために逃亡していたでしょうが。テレビが騒いでいるので、もう逃げられない、それにもう毛髪からは反応がでないと踏んで出頭したのに、どうして証拠隠滅や逃亡のおそれがないと言う理由で保釈がゆるされるんでしょうね。保釈を認めるのも裁判所だというが、こんなことする裁判所、私には理解できない。

となれば当然、一般庶民の常識・感情でもって事件を見て刑量を考える裁判員制度は望ましいということになるだろう。だから、著者はそういう方向で考えているようだが、最近出版された『激突!裁判員制度―裁判員制度は司法を滅ぼすvs官僚裁判官が日本を滅ぼす 』では基本的にそのような立場に立ちつつも、現実の裁判員制度下での裁判がどうなっているかを冷静に見ている。面白そうだ。

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