雫井脩介『クローズド・ノート』(角川書店、2006年)
なかなかよく考えられた小説だと思う。冒頭から「その男の人は、私の住むマンションを見上げていた」で始まっているが、後から見直してみると、まさにここに結論の伏線がひかれていたわけだ。
「その男の人」は「隆」こと「石飛隆信」であり、彼が「私の住むマンションを見上げていた」のは、半年前までそこに住んでいたのが「その男の人」の彼女の「真野伊吹」であったからだ。突然の交通事故で亡くなったため、まだ彼女がいないのが信じられない、いまでも窓から手を振ってくれると思い、「その男の人」はときたまやってくるのだ。
「私」こと堀井香恵は石飛や真野とおなじ教育大の学生でマンドリンクラブに所属している。香恵がひょんなことからクローゼットの角にあるノート類に気づき、それが以前すんでいた人のものだろうと思ってしまっておいたが、だれも取りに来ないことからついに読んでしまい、伊吹と「隆」の恋物語を「覗き見」してしまうことになる。そして石飛の個展のために窓から身を乗り出した写真を撮らせ、それが伊吹として描かれているのをみて、あるいはそれ以前にある偶然から、香恵は伊吹が愛していた「隆」とは石飛のことだったということに気づく。
石飛がはたして香恵を伊吹と重ねてみていたかどうかは不明だし、たぶんそんなことはないだろうが、石飛にたいする伊吹の切ない思いを知ってしまった香恵は、石飛の個展で伊吹が書いた文章の一部を朗読して彼女の思いを石飛に伝える。
読み終えて、「あれ、香恵ってどこで石飛と知り合ったんだったけ?」と思い、よくよく思い出してみたら、香恵がバイトしている今井文具店に石飛が万年筆を買いに来たときに知り合ったんだということを思い出し、そうか、よく出来ているなと感心したのだった。
香恵のなかで石飛は、女性のマンションを見上げている「変質者」から万年筆のお客へ、そして素敵な絵を描く「イラストレータ」へ、そして恋愛の対象から敬愛する女性の恋人へと、何段階にも変貌を遂げていくことになる。
バイト先の可奈子さんとか、職人かたぎで客の前に出ると硬くなってしまう社長とか、人間描写も面白いし、なによりも「天然」といわれる香恵の語り口もなかなか面白い。

「その男の人」は「隆」こと「石飛隆信」であり、彼が「私の住むマンションを見上げていた」のは、半年前までそこに住んでいたのが「その男の人」の彼女の「真野伊吹」であったからだ。突然の交通事故で亡くなったため、まだ彼女がいないのが信じられない、いまでも窓から手を振ってくれると思い、「その男の人」はときたまやってくるのだ。
「私」こと堀井香恵は石飛や真野とおなじ教育大の学生でマンドリンクラブに所属している。香恵がひょんなことからクローゼットの角にあるノート類に気づき、それが以前すんでいた人のものだろうと思ってしまっておいたが、だれも取りに来ないことからついに読んでしまい、伊吹と「隆」の恋物語を「覗き見」してしまうことになる。そして石飛の個展のために窓から身を乗り出した写真を撮らせ、それが伊吹として描かれているのをみて、あるいはそれ以前にある偶然から、香恵は伊吹が愛していた「隆」とは石飛のことだったということに気づく。
石飛がはたして香恵を伊吹と重ねてみていたかどうかは不明だし、たぶんそんなことはないだろうが、石飛にたいする伊吹の切ない思いを知ってしまった香恵は、石飛の個展で伊吹が書いた文章の一部を朗読して彼女の思いを石飛に伝える。
読み終えて、「あれ、香恵ってどこで石飛と知り合ったんだったけ?」と思い、よくよく思い出してみたら、香恵がバイトしている今井文具店に石飛が万年筆を買いに来たときに知り合ったんだということを思い出し、そうか、よく出来ているなと感心したのだった。
香恵のなかで石飛は、女性のマンションを見上げている「変質者」から万年筆のお客へ、そして素敵な絵を描く「イラストレータ」へ、そして恋愛の対象から敬愛する女性の恋人へと、何段階にも変貌を遂げていくことになる。
バイト先の可奈子さんとか、職人かたぎで客の前に出ると硬くなってしまう社長とか、人間描写も面白いし、なによりも「天然」といわれる香恵の語り口もなかなか面白い。