仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

箱根笈(おい)の平で回想したこと

2011年01月30日 | 日記
親鸞聖人のみあとを訪ねてー茨城・稲田~京都・本願寺―も10回目となるという。昨日(23.1.29)、箱根湯本から芦ノ湖まで歩いてきました。12.3キロで実動4時間なので、険しい坂道の古道は息が上がったが、全体としては短い距離でした。

旅のレポートは一緒に行った当寺スタッフがしてくれるので、感じたことだけを書きます。

 強く感じたことは、上山開始より3時間、箱根旧街道の西海子坂、猿滑り坂という難所を越えたところに、笈(おい)の平という平坦な場所があります。ここが聖人と見送りをしてくれた性信房との別れの場所です。古くは大平と呼ばれていたようですが、聖人一行が、ここに背負っていた笈を下ろしたというので、笈の平の名がついています。

強く感じたのは、性信が、別れの場所である笈の平にさしかかる道行きを、どんな気持ちで上っていたかということです。もう少し行くと大平に着く。そこは聖人との別れの場所、いよいよ別れの時が近づいてきた。聖人にであってからのこと,念仏との出合い、さまざまなことがよぎります。おそらく、溢れるばかりの涙をこらえ、汗をぬぐうふりをして涙を拭いたに違いない。

その性信の心持ちが想像でき、その聖人と性信が歩いた同じ道を歩きながら、盛んに念仏を称え、目頭が熱くなりました。すこし、そのあたりを描写してみましょう。


おそらく親鸞聖人63歳の頃、小田原宿に一泊して、そして箱根を上ったのではないかと思われます。小田原から芦ノ湖箱根神社まで現在のルートで21キロ、5時間の行程です。
(小田原~箱根湯本間1時間、湯本~笈の平間3時間、笈の平~箱根神社1時間)

『御伝鈔』(後4段)に「ある日晩陰におよんで箱根の嶮阻(けんそ)かかりつつ、はるかに行客の蹤(あと)を送りて、やうやく人屋の枢(とぼそ・戸)にちかづくに、夜もすでに暁更におよんで、月もはや孤嶺にかたぶきぬ。」とあります。

伝承では8月16日のことあり、『御伝鈔』に芦ノ湖到着時「夜もすでに暁更におよんで、月もはや孤嶺にかたぶきぬ。」とあります。これはだいぶ大げさで、箱根の山道を夜歩くことは考えにくいことです。しかし夕方にはなっていただろうと想像します。湯本~笈の平間が、この度、一部古道を歩いて3時間の道のりが、峰と谷の往復の道のりで道も険しく8時間くらい要したのではないかと思われます。

おそらく湯本まで複数の門弟が見送りに来たのではないでしょうか。聖人は「これから険路に向かいます。見送りありがとう」と門弟を返したが、弟子の性信坊はとどまろうとしません。「お師匠様、私もご一緒することをお許しください」と強硬についていこうとします。

 『箱根神社大系』の中に「相州箱根山安置親鸞聖人木像略縁起」が収録されており、次の記述(一部)があります。
  「文暦元年八月十六目、相模の国・国府津の里を発せられ京師に おもむき、箱根の険阻にかかりた もう。遠近の道俗はせ集まり我も 我もと御名残を惜しみ、今世の拝 顔いまを限りと老若男女御衣の袖 にすがり、悲泣雨涙のありさま、 聖人も点山かたく思し召し、『恋し くば 南無阿弥陀仏ととなふべし 我も六字の道にこそすめ』と一首 の歌を詠じたまふとかや」とあります。


性信はさらに別れが辛く大平(笈の平)までと聖人を困らせます。大平はぎりぎり、日のある内に引き返せる場所です。「しかたない。大平平までですよ」と念を押されて険しい山道を行きます。
性信房は、大平が近づいてくる道すがら、別れの時は近いと涙があふれてきます。聖人との邂逅、念仏との出遇い、溢れる涙をいとわず険しい道を進みます。

大平につくと、聖人は「ここで一休みしましょう」と笈をおろして休みます。そして聖人は「性信坊どの、いろいろとありがとう」と別れを告げます。性信は感きわまって「聖人さまー。私は京のみやこまでお見送りしする」と、流れ続ける涙を流しながら訴え、引き返そうとしません。

聖人はさとすように『病む子をば 預けて帰る旅の空 心はここに残りこそすれ』と詠み、性信に言葉をかけます。

「悩む子とは、この親鸞であり性信殿であり、一切のご同朋のことにございます。皆共に阿弥陀さまよりお預かりしているご門徒、別れは辛いことですが、どうぞ念仏を申して下さい。念仏申すところに、この親鸞はおります」

それでも性信は別れがたく、「きっと、きっと上洛して、ご目にかかりとうございます」といえば、聖人は頷きながら「さあ、山をお下りなさい。日がくれまする」という。性信は泣きながら念仏を称え、山を下ります。(以上)

そんなことを回想しながらの笈の平でした。
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