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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

脳科学で解く心の病④

2024年07月08日 | 日記
『脳科学で解く心の病: うつ病・認知症・依存症から芸術と創造性まで』(2024/4/1・エリック・R・カンデル著)からの転載です。

適応的無意識の生物学的な役割は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のベンジャミンーリペットによる単純な実験で明らかになった。ドイツの神経学者ハンス・ヘルムート・コルンフーバーは、手を動かすといった自発的な動作を始めると、「運動準備電位」と呼ばれる電気仁るが生成されることを発見した。これは、頭部の表面で検出できる、しかも、運動準備電位は、実際の動作の少し前に現れることが判明した。
 リベットは実験をさらに進めた。被験者に動くという意図を意識的にもってもらい、その意図がいつ起こったかを正確に記録した。彼は、動作が開始されたことを示す信号である運動準備電位よりも前に意図が起こると考えていた。しかし驚いたことに、意図は運動準備電位の後に生じていた。複数の実験紡果を平均したデータに基づき、リベットは脳を観察することで、本人が自覚する前にその人が動くかどうかを判断することができるようになった。
この驚くべき結果は、我々が無意識の本能と欲望のなすがままに行動している可能性があることを示唆する。実際には脳内の活動は、ある動作をすることを意思決定する前に始まっている。しかし、リベットによれば、自発的な動作が起こるプロセスは脳の無意識の領域で迅速に始まるが、実際にその動作が始まる直前に意識が介入してきて、その動作を承認、または否認する。意識が生じるプロセスは、無意識のプロセスよりゆっくりしているため、介入できるのがこの時点になる。指を上げる150ミリ秒前に、意識が、実際に指を動かすかどうかを決定する。リベットは、脳内の活動は、動作にも先行して始まることを発見した。こういった知見を考慮すると、意識に関与する脳の活動の性質について、より詳細な検討が必要だと考えられる。
 ダニェルーカーネマンとエイモス・トペルスキーは一九七〇年代、直感的な判断は、知覚と推論の間にある中問的な段階で機能しているのではないかと思いついた。そこで意思決定がどのように行われているのかを探求し、やがて、無意識のうちに行う間違いが、判断を大きくゆがめ、行動に影響を与えていることに気がついた。彼らの研究は、行動経済学という新たな学問領域の基本的な枠組みの一部を築いた。
 カーネマンとトベルスキーは、精神的な近道とも言えるようなプロセスを特定した。それは、迅速な行動を可能にする一方で、最適ではない判断をもたらすこともある。たとえば、選択肢がどう表現されるか、またはどう構成されるかによって、意思決定は影響を受ける。なぜなら選択肢を考慮する際に、同等の利得よりも損失の方をはるかに重く考えがちだからだ。たとえば手術を必要とする患者に対し、外科医が「九〇%の患者が完全に回復しますよ」と説明すれば、「死亡率は10%です」と説明するよりも、患者が手術を受ける可能性ははるかに高くなる。数字は同しだが、我々はリスクを毛嫌いする傾向があるため、可能性の低い死亡する確率よりも、可能性の高い生存率を聞かされる方を好む。
 カーネマンはさらに、一般的な思考について、二つの系(システム)があると説明している。「システム1」は、大部分が無意識で、迅速で、反射的で、直感的であり、適応的無意識のようなものである。
認知心理学者のリーダーの一人であるウォルター・ミッシェルは、これを「ホットな思考」と呼ぶ。システム1は一般的に、連想や比喩を使って問題や状況に対する回答や対応法の草案を素早く作成する。
カーネマンは、もっとも高度な技能には、多くの直感を必要とするものがあると言う。名人レベルのチェスの試合や、社会的な状況の迅速な察知などがそうである。しかし、直感は偏見や間違いを起こしやすい。
 「システム2」は対照的に、意識に基づき、比較的時問がかかり、慎重で、分析的であり、ミッシェルが「クールな思考」と呼ぶものである。システム2は、はっきりとした確信と、代替案の合理的な評価に基づいて状況を評価する。システム2により自分で意識的に判断した上で選択し、何を考慮し、何をするか決めていると我々は思っているが、実際のところ我々の人生はシステム1に導かれている、とカーネマンは論じる。
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