超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

空が灰色だから 5巻(最終巻)/阿部共実

2013-03-08 17:05:49 | 漫画(新作)















阿部共実「空が灰色だから」5巻読了。












最後の「歩み」は本当にこの漫画らしい終わり方で素晴らしいなと本心から思いました
「歩み」というのは本来綺麗な意味合いで使われる言葉だと思うんですが
許されないまま、
心に傷を負わせたまま負ったまま生きるのもまた「歩み」なんですよね
その容赦のない現実性の切り取りに最後の最後まで気持ち救われたなあ・・・と感じました
表向きだけ観れば暗いお話かもしれませんが、それに「歩み」ってタイトルを付ける時点で一つの希望にも感じて
個人的には物凄く地に足の付いた漫画だったんだな、と改めて捉える事が出来た気がする。
忘れないように、胸に焼き付けてこれからも生きる事を選択する覚悟
ナイーヴだったりナーバスなお話が印象に残る漫画ではあったけど
それらはむしろ受け入れて前に進む為の糧だったのかもしれない、と個人的に思ったりもしました
友情も愛情も幸福も微妙も憎悪も憤怒も喪失も悲哀も劣等も危機も羨望も全部が全部「歩み」の過程である
そう考えると、この「歩み」ってタイトル自体が「空が灰色だから」の全てにも思えるような・・・
そういう風に感じてしまったので
この最終回はこの漫画らしい終わりであると同時に、ベストでもあるなと
だからこそ本当に傑作のまま完結したな、って実感があるのかもしれません
クオリティ自体は全く落ちてなかったのでもう少し続けて良い気もしましたが、
あまり引っ張らずにスパッと終わるっていうのもストイックであり続けたこの漫画らしい顛末なのかも
「まだまだ読みたい」内に終わったのは事実だと思うので
明確にオムニバスの傑作として推せるなとも感じた
個人的にはそんな印象でした。


「空が灰色だから」は、その名の通り人が持っているグレーゾーンを描く漫画だったと思います
白黒付かない感情の表現というか、「正しさ」に拘らない姿勢というか、正しくなくても存在してる感じというか
余り他の作家が描かない人間の確かな一面をきちんと描いた作品だった
しかも、それを少年誌でやって人気を博したのは作者の実力の証明になったとも思う
普通の漫画だったらもっと分かりやすく描くところを
徹底的に複雑に描き切ったその姿勢は間違いなくこの作者ならではの個性だったと読んでて感じられたし
作中で描かれてるキャラクター達は良い意味でも悪い意味でも人間らしくていとおしく憎めなかった
正しくいる事が逆に他人を傷つけるという現実性を伴った53話や
正しさだけが全てじゃないといった慰めの57話だったり
正不正の中間を補填してくれるようなエピソードの作り方が最後まで秀逸だったように思う
上手く行かないのも現実、間違ってしまうのも現実、でもだからこそ感情移入して少し救われるような
そういった意味ではある種、やっぱり異端なようで実はどんな作品よりも普遍的な作品だったのかもしれない

同時に、この漫画の一番の長所は喜怒哀楽の全部を表現していた方向性だと思っていて
例えばネットで話題になってるようなホラーちっくで憂鬱なネタばっかりじゃここまでドキドキはしなかった
一話読む毎に「今回はどういう話なんだろう?」ってワクワクしながらページを捲る事が出来たのは
方向性を決めなかった、絞らなかった、人気のあるネタに偏らせなかった
最後までこの漫画らしさを掴ませなかった自由度にあるんだと
そして、その全てを内包する偏って無さが同時にこの漫画の個性になっていたんだと思う
途中までこれは暗いオチかな?って安易に予想してたら感動するようなハッピーエンドで嬉しく思えたり
本当に上手いバランスで最初から最後までらしさを貫いてエピソードを回せていた気がして
その豊かな着想の数々に最終巻も変わらずに全力で楽しませてもらいました
物凄く空しい気分になるような話が来たと思ったら、その後満たされるような恋愛エピソードが来たりと
読者の期待を良い意味で避けたり逆にドキッとさせるセンスは相当のものだと思いましたね
5巻で完結はちょっと短い気もするけれど
振り返ってみると特に意味を持たせない話からひたすら辛い話まで本当に表情豊かな作品だった事に気付く
ここまでコンスタントに楽しめて時には涙腺も揺さぶられた1年を考えると感謝の言葉しか浮かんで来ないですね
人間の煮え切らない部分から分かち合えた幸福まで幅広く表現してくれた
人間の大体が詰まっている傑作オムニバスに仕上がったと思います
最後までクオリティの低下は見受けられないので、
ここまで楽しんできた方には安心して最後までグレーゾーンに浸って欲しいな・・・と思います
心に傷跡を残したり、或いは温かい気持ちを与えてくれたり、イメージに捉われないイメージが最後まで秀逸でした
多分完結して数年経っても平気で読んでそうな、それくらい末永く触れ続けられる作品だと思う
今は素直にありがとう、面白い作品を頑張って描いてくれた事に拍手を送りたいですね
ずっとずっと大切にしていくであろう完結作品がまた一つ増えました。
今後の阿部共実作品にも是非期待しています。名作。





最後に、特に気に入った話を少々解説。


◆第49話「不謹慎なそれ」

正直これはめっちゃ続きが読みたくなりました(笑
男同士だけど、どっちもキャラが可愛い(?)性格してて普通にアリかもなー、と
男の娘描かせても本当に可愛く思える辺りまたこの作者のポテンシャルの高さを確認出来た気がする
充実系のお話の中でも特にお気に入りですね 
最後のページを捲った時、拒絶オチじゃなくて凄いホッとしました
この作者の場合最後でどんでん返しもあり得てしまうので(笑)。友情っていいなあ、と素直に。



◆第51話「飛んで落ちて死んで」

これ凄い分かるなあ・・・なんかこう、強がってても本当は泣きたくなるくらい寂しい気持ちというか
友人自体が太陽で主役の女の子は羽虫って事なんでしょうけど、頭で理解してても行けない精神の弱さだったり
これもまた紛う事なき「青春」だよなあ、って個人的にはつくづく思います。
本当は別にどうでもよくなんてないけれど、どうでもいいだとかうそぶいてないと保てない平静があるのも現実。
ランクヘッドの「冷たい部屋」という曲を何となく思い出した。



◆第53話「私を許して」

正論はあくまで正論でしかなくて、正論を言う事にも「間違い」は付随するものだと思っています
それに自分から気付けた最後の着地点には素直に感動してしまいました
「許されてたのは私のほう」
相手のミスを許してたようで、実際は細かく愚痴を言う自分を許してくれていた・・・というオチは
ハッとさせられたと同時に少し考えさせられもした。これもまた見事なグレーゾーンですね。
よく少年誌でこういう話を書いてくれたと思う。正しくいる事が常に正しいとは限らないという話。



◆最終話「歩み」

これはちょっと泣きましたね・・・。
すごくどうしようもない、やるせない、空しい気持ちになると同時に
でも心は前を向かざるを得なかったりして、前述の通り総括には相応しい話だとも思いました
シビアですがその分糧になって、早々消えない教訓を心に刻み付ける事が出来る。
こういう話で終われるって事自体、編集のこの作品に対する理解を感じますし
これが最後で良かったと心から思えるのもファンとして嬉しかった
賛否は分かれそうですが、
個人的には最高の最終回だったと思っています。失敗も、悔しさも、間違いも全てが「歩み」ですから。
それを完璧な形で伝えてくれたこの作品にはやっぱり感謝したいのです。








最後に、カメちゃん、是非報われろ!(笑)。俺は多少ポチャッとしてる方が好きだぞ!!

・・・という言葉を添えたいと思います。カバー下も最高でした。





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2 コメント

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余白 (くろえ)
2013-03-13 23:17:20
感想、共感しながら読みました!
5巻を読み終わったあと、本を閉じても空灰の世界がアタマから消えなくて、自分のいままでの人生、これからの人生についても考えてしまいました・・
この先いろんなことが起こるであろう人生。
その折々で思い出してしまう、自分がしてしまったこと。
でも忘れちゃいけないし忘れられるはずもない。
背負って、歩いていくしかない。

この作品は余白があるところが好きで。
このあとこの子達どうなるんだろうなあ、しあわせになってほしいなあって心から思えるまんがでした。
そして、最後の最後で大きな余白を見せられちゃったなあ、と。
この先つづいてく、長い人生。
真っ白なページが、どんな内容になっていくのか。
深い深い、物語でした。

空が灰色だからって題名も、とても良いですよね。
灰色なムードにおおわれた作品でしたが、それでこそ人生なんだよなあって思わせられる場面がほんとに多くて。
傷口えぐられながらも読み進めたくなる不思議な魅力があります。
と思えば心温まるお話があるのも良い!
そのバランス感覚が最高。
ずっとずっと心に置いておきたい、大切な作品です。
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ありがとう。 (西京BOY)
2013-03-14 03:08:03
>感想、共感しながら読みました!
そう仰ってくれるのは嬉しいですね。全力で書いたので。
簡単に消えないようなものを書きたいと思っています。

>このあとこの子達どうなるんだろうなあ
「これはこれで完成している」と思うものもあれば
「これはもっと見てみたい!」って思うものもあったり
でもどっちも個人的に好きなんですよね(笑
続きが見たい、と思うようなものでも、そう思わされた時点で満足、というか。
3巻冒頭の奇妙な三角関係の話は連載で読んでみたい(笑

>空が灰色だからって題名も、とても良いですよね。
「空が灰色」とか「灰色の空」とかじゃなく
「だから」ですもんね
ある意味先を見据えた余韻のあるタイトルになってるのがいいな、と思いました
自分もこのタイトルでベストだと思います。

ルサンチマンやペーソスに満ちた内容って下手なポジティブよりも人を救ってくれますから
こういう表現が読めて、個人的には幸せでしたね。
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