日伊文化交流会

サークル「日伊文化交流会」は板橋区で生まれ、元東都生協登録サークルとしてイタリア好きの人たちが集まり楽しく活動しています

「マルコの世界(il mondo di Marco) 小田部羊一と「母をたずねて三千里」展&小田部氏トークショーに行ってきました(2016.12.10)@イタリア文化会館

2017年01月12日 | イタリア映画・映画
「マルコの世界(il mondo di Marco) 小田部羊一と「母をたずねて三千里」展&小田部氏トークショーに行ってきました(2016.12.10)@イタリア文化会館



40年ぶりの再会でした... 「母をたずねて三千里」(1976)第1話「いかないでおかあさん」のラストシーンで アルゼンチンに向けて出航する船を追い 波止場を泣きながら走るけなげなマルコ少年 会場からはすすり泣きの声があちこちから...

思えば私は学生時代にこのLPを買って 何度も何度も聞いていたのですね なので全部覚えていたのです!! 自分でもビックリしました 聞く前からセリフが湧いて出てきたんです(^.^) 


2016年12月10日(土)小田部羊一作画監督・キャラクターデザイナーのお話を聞きに詰めかけた人たちでほぼ満席 アニメ関係の方が多かったようです 通訳はイタリア人でした

このアニメはイタリアでももちろん大人気でした♪ 私は当時ビデオがない時代でしたので 修学旅行先の夕食をひとりで抜け出して 旅館のテレビをこっそりつけて 涙を流しながら最終回を見た思い出があります...今からはとても考えられないですよね~( *´艸`)

お話で印象的だったのは 幼い頃油絵を描いていた父のもと ディズニー作品や「くもとちゅうりっぷ」(1943)に出会い 「血が通った 生きてみえる」アニメの世界を志したこと 

一本の筆で表現する日本画(東京芸大日本画科卒業)と 一本の鉛筆で表現するアニメ原画(東映動画に就職)の世界は同じで 幸せな出会いだったこと

子供の頃から好きだった絵を志すにあたり 父の嗜む油絵ではなく水彩画がやりたかった 幸い旧友の母君が日本画を描かれる方で 芸大受験の貴重なアドバイスを受けたが 入学後に日本画は初めての彼は大変な努力をされたとのこと

2年先立つ「アルプスの少女ハイジ」(1974)の時はスイスにロケハンに行ったことが役立ったが 「母をたずねて三千里」のロケハン(アルゼンチン発ジェノバまで)には事情があり行かれず 「もしロケハンに行っていたらあのキャラではなかったと思う」 とのこと ←ではいったいどんなキャラになっていただろうか?今のように広く愛されるキャラだったのだろうか?と「条件法過去」を使って考えてしまいますね(笑) 

また イタリアのロケハンに代わるものとして なんとこのトークショーの場でもあるイタリア文化会館に(まだ改築前の頃の建物)イタリアの資料をスタッフたちと探しに来たことがあるというエピソードに驚きました!! 40年前にです!
また ハイジは丸顔だったので マルコは楕円形の顔にしてみたそうです( ..)φメモメモ

猿のアメデオの顔もいろんな猿の写真を参考にして創りました 辻音楽師のイタリア映画「ナポリの饗宴」(1955)という若い頃に見たイタリア映画も ペッピーノ一座のキャラづくりに参考にしたそうです 

また 椋尾篁(むくお・たかむら)美術監督(この展示会にも背景画が展示されておりました)は イタリアならではの生活感の描写が際立っており 光と影を強調して描いたとのこと
 
高畑勲監督が「クオレ(イタリア語で「心」という意味)」(デ・アミーチス原作)の中の短いエピソード(十数ページくらいの話)を 一年間52話のシリーズに編集したのがこの作品なのですね 

この日40年ぶりに第1話を見たという小田部氏は これは長編アニメ映画でやるべきだった これをよく一年のアニメシリーズ(全52話)にしたものだと改めて驚き よくやったと これもスタッフの結束あってのものだと感じた と開口一番に話してくださいました

また 高畑監督が「ハイジ」の作品で初めて 従来の「作画監督」に加えて「キャラクターデザイン」という新しい役職名を創ってくれたとのこと
(私たちアニメファンにとっては キャラデザは誰々...というのが結構重要ですので ハイジの時からできた役職なのか~と改めて発見!)

宮崎駿氏は当時はアニメーターだったが レイアウトでは全画面の配置やキャラだけでなく 細かな動きの設定も指示してあり この設定があれば一年間(52話)乗り切れると 気概を感じたこと 

この作品「母をたずねて三千里」は あの時代の「奇跡の瞬間」だったのではないか 人は若き日には戻れないものだから あの若き時代の我々が 互いを尊敬しあい信頼しあってこそ乗り切ってゆけたからこそ生まれた作品なのではないかと思う とのこと 
(これは「トキワ荘」にも通じるものがありますね あの時代にあの若きメンバーが集ったからこそ生まれた世界...)

太陽の王子ホルスの大冒険」(1968年劇場公開*小田部氏は原画担当)では  アニメーションとしてのリアリティをもった「ある世界を創ることができた」と感じたこと
「ホルス」の予告編は こちら ←子供の頃劇場で見た世代です 一度見ただけで刻印されました((+_+)) 

   *        *        *


会場からの質疑応答では:

Q. マルコがお母さんになかなか会えなくて 描く方もつらかったと聞きますが?
A. 特にマルコがお母さんに会えなくて 雪の中を歩くシーンは 描いていてつらかった シリーズが終わり ある時描いてくださいと言われたがマルコを描けなかったことがあり それくらい自分の中から追い出したかったのだと思う 
Q. ハイジのあとの「フランダースの犬」(1975)では1話のみ 3人(高畑、小田部、宮崎)が参加された話があるが?
A. おそらく助っ人的に参加したのだろうが、まったく覚えていません(笑)

*追記: 「アルプスの少女ハイジ」はイタリアで人気だった イタリア人はイタリアで制作されたとばかり思っており 日本で作られたと知るとビックリ!! 反対に「フランダースの犬」は知られていなかった(萩尾望都×ヤマザキマリの鼎談「イタリアと日本人 文化とサブカルチャーをめぐって」(2016.11.9)@イタリア文化会館 ヤマザキマリのトークより)


Q. マルコの成長に従って描き分けていたのですか?
A. 特に描き分けてはいないが 自然にやっていたのかもしれません その証拠に前のセル画を挿入した時に あれっ?と思うくらい幼い顔だったということもありました

Q. ディズニーのフルアニメーションに当時は皆憧れていたわけだが 日本では予算のこともありフルアニメではなくリミテッドアニメが盛んだった 
特に決めポーズや誇張もない ディズニーアニメのリアリスムとは違っていたのか?
A. 日本のアニメーターはディズニーに近づこうとしていたのが「漫画映画」と呼ばれていた時代だ 私は「太陽の王子ホルスの大冒険」(1968)で  アニメーションとしてのリアリティをもった「ある世界を創った」と感じた 
オーバーアクションではなく自然にできたと感じた 自然な欲求から作った日本人的なものが表せたと思う
(ここで私が大好きだった「ホルス」の話が出て感激♡ アタマの中にはホルスのテーマソングが鳴り響く(笑))

Q.6才で「マルコ」を見た 大人になりジェノヴァに行ってきたが記念碑も何もなかった もっとイタリア人に広めてほしい 
また40年も前のこの作品に大の大人が涙するような「名作」が 今やめまぐるしい現代の日本からは失われてゆくのが悲しい
A. 4年前フィレンツェのアニメ学校に招かれて行った時 イタリア人の生徒たちは ハイジは皆知っていてもマルコはほとんど知らなかった! 放映されてはいたが 再放送はされなかったのかも イタリア人はつらい話が嫌いなのかもしれないが 
私は「名作」を創っているという意識は全然持っていない 大勢に見てほしいから(原作に)名作もの(世界の児童文学シリーズ)を選び 監督についていったのです 

Q.「ある世界を創れた喜び」と何度もおっしゃったが キャラクターデザインの醍醐味や大切にしているものは?
A. 私は「映画の中で世界を創れたら それが一番いい映画だ」と思っている人間です 手づかみで 中に入っていける映画が好きです キャラが「生きてみえる」 血の通ったリアリティを持った 例えば子供の頃にみた もりやすじ氏の絵の中にそれはあります あたたかなアニメーションが好きです 血がかよっているような...


(通訳の方はここをpulsante(脈を打つ、鼓動する) i personaggi vivi(生き生きとした人物)等と訳されていました フムフム...) 
*日本語をイタリア語に訳す時はイタリア人の通訳 その反対は日本人の通訳がよいのですね~

*もりやすじ氏:  「アニメーションの神様」とも言われる伝説のアニメーター 動物の描写が優れており 小田部・高畑・宮崎氏等の後進を育てる ←私もとても好きでした...昔見ていたのです♡

会場には はるばる遠くからいらした方 アニメ学校の元生徒さんなどもみえており アニメ関係の参加者がとても多かったようです ←私は両方です(笑)

トークが終わっても鳴りやまぬあたたかな拍手...皆さん40年前のあの感動を拍手に変えて感謝の気持ちを伝えたかったに違いありません...  

私もイタリア文化会館に長く通ってきて まさかここで子供時代に夢中で見た「マルコ」に再会できるとは思いもよらず 人生ひとめぐり...といった感慨に包まれております

エキシビションホールの展示会には 先ほどの聴衆の方たちがつめかけて お話を聞いたばかりのあたたかな気持ちを抱えて いつまでも見入っておりました...



開催のお知らせは こちら


* 素晴らしいイベントを開催してくださいましたイタリア文化会館様に心よりお礼申し上げます

* 石ノ森ふるさと記念館(宮城県登米市)にて「世界名作劇場展」1月22日(日)まで開催中です!! 協力: 石ノ森章太郎FC ← 私 ここの長年の会員です♪


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